ハムレット
ニナガワ×シェイクスピア レジェンド第2弾「ハムレット」 2015年2月
蜷川幸雄が病いをおして8回目の演出、しかも80歳を迎えるにあたり台湾、ロンドン公演も予定しているシェイクスピア劇の、おそらくは歴史的舞台に足を運んだ。河合祥一郎訳。32歳のハムレット藤原竜也が、くしゃくしゃの髪と膨大なセリフで、恨みというものの毒、虚しさを叫びまくり、色っぽくも鮮やか。スターだなあ。幅広い演劇好きが集まった彩の国さいたま芸術劇場大ホール、通路前の補助S席中央で1万800円。休憩を挟んで3時間半。
いわずとしれた4大悲劇のひとつだけど、実は個人的には初めて観た演目。父デンマーク王の死後まもなく、伯父クローディアス(圧巻の平幹二朗)が王位を継いで、母ガートルード(鳳蘭)と再婚もしたことに疑念を抱く王子ハムレットが、親友ホレイシオ(横田栄司が見事なキャッチャーぶり)と父の亡霊を追い、すべて伯父の陰謀だと聞いて復讐を誓う。ところが寝室の母に詰め寄るうち、誤って恋するオフィーリア(満島ひかりがひたすら可哀そう)の父、重臣ポローニアス(たかお鷹)を刺殺、悲しむオフィーリアも溺死してしまい、その兄レアーティーズ(満島真之介)との決闘に追い込まれる。謀略の果てに主要人物が皆倒れ、荒涼とした王国に、ノルウェー王子フォーティンブラス(内田健司がささやき声でいつもの怪演)がたたずむ。無常です。
「唐版 滝の白糸」などで観た、朝倉摂のうらぶれた長屋のワンセットで、読経や梵鐘の音を多用。明治期の貧しい日本を背景に、劇団がドレスリハーサルする、という設定でスタートする。蜷川さんの新演出は、自らのバックグラウンドを背負いつつ、テロに揺れる現代と切り結ぶ姿なのか。
ハムレットは未熟で、思い悩んでばかりの人物かと勝手に想像してたけど、全く違う。男らしいし、ユーモア精神もたっぷりの大人っぽい造形だ。報復の虚しさを十分わかっていて、なんとか避けようとしている。それなのに何故、人は破綻へと突き進んでしまうのか。
ほかにも様々なイメージが詰め込まていて、今更ながら簡単には消化できない戯曲です。飄々とした墓掘り(山谷初男がさすがのいい味)との軽妙なしゃれこうべ問答や、井上ひさしばりの駄洒落が面白い。
劇中劇のシーンの歌舞伎、雛人形を除くと、それほど大きな仕掛けはない。照明がつくる光の筋が、ひたすらハムレットを追いかける。藤原をのぞくと、80歳を超えた平の存在感が際立つ。衝撃的な潔い水ごりシーンと、終盤に向けてどんどん濃くなっていく悪の深さにびっくり。
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