第一九〇回文楽公演 2015年2月
2015年最初の東京公演、第一部、第二部を続けて6時間鑑賞。世代交代で応援したいんだけど、3部制だとひとつの部だけでは物足りなさそうだし、2部続けてはやっぱり疲れるし、スケジュールが難しい。いつもの国立劇場小劇場で、各5900円。
第1部は上手寄り前の方で、床の響きがダイナミックだ。幕開きは「二人禿」。桜と柳がうららかな廓での、あどけない禿の舞踊だ。野澤松之輔作詞作曲、山村若栄振付。睦大夫ら、團吾らの4丁4枚で賑やかだ。女方だけどこっぽり下駄の足があり、手毬をつく仕草が可愛い。
短い休憩のあと時代物で「源平布引滝」。この演目を観るのは3回目だが、変化に富んでいて面白い。矢橋の段は簾内で、続く竹生島遊覧の段は朗々とした始大夫、津国大夫ら。小まんの小柄なベテラン紋壽さんが、琵琶湖に飛び込んだり平宗盛の御座船によじ登ったり大活躍だ。源氏の白旗を救うヒーロー斎藤実盛の勘十郎さんは、柄が大きくて見得が格好いい。
30分のランチ休憩を挟み、2時間弱の九郎助内の段。中「糸つむぎ」に続いて、次「瀬尾十郎詮議(または「かいな」)で瀬尾(玉也)が葵御前の赤子を厳しく追及し、緊迫する。松香大夫は、もうちょっと笑いのシーンが盛り上がると良いかな。切「実盛物語」は咲大夫、燕三が登場して、じっくり聴かせる。瀬尾のモドリで怒涛の展開となる後は文字久大夫、藤蔵。大詰め、馬に乗った実盛が仁惣太(玉勢)を討つところで鉤縄が落ちるハプニングがあり、左の幸助さんが驚いてたみたいだけど、慌てずに拾って幕となりました。プログラムで手塚眞が大活躍の子供、太郎吉の子孫だと書いていて面白かった。
ロビーで待ち、わずか30分で第2部がスタート。1部同様、初めは舞踊で「花競四季寿(はなくらべしきのことぶき)」。梅茂都陸平、藤間紋寿郎の振付で、四季の設定が美しいオムニバスだ。床は津駒大夫ら、寛治、清志郎、寛太郎ら5丁5枚。暗転、スポットライト、セリの歌舞伎っぽい演出がお洒落です。
春の「万才」は勘市、玉佳でリズミカル。夏の「海女」は海鳥が飛び、一輔になんとぬいぐるみみたいな蛸が色目を使っちゃって、笑わせる。秋の「関寺小町」は文雀の休演で、代役の和生が渋く。そして雪が舞う神秘的な冬の「鷺娘」では、勘彌が傘を2本も使いつつ、引き抜き、ぶっかえりでみせてくれました。
15分の休憩後、世話物となり、「天網島時雨炬燵(てんのあみじましぐれのこたつ)」神屋内の段を2時間弱ノンストップで。咲大夫でたっぷり観たことがある近松門左衛門の「心中天網島」を、近松半二が増補、さらに改作したそうです。エピソードが盛りだくさんな分、心理劇の要素は薄いかも。東京での通しは35年ぶりとのこと。
まず中は咲甫大夫が、いつものように朗々と。遊女小春を張り合う太兵衛が、借金を巡り治兵衛(玉女が耐える演技)に言いがかりをつけ、仲間の伝界坊が駄洒落の門付け芸「ちょんがれ」でからかうところがコミカルだ。兄・孫右衛門(幸助)がその場を納める。
切は重厚に嶋大夫、錦糸。女房おさん(和生)が心中だけは食い止めようと、憎いはずの小春を請け出そうとする。原作では女同士で義理を通しあう印象がしたけど、こちらはひたすら夫、子の無事を祈る感じ。実家に連れ戻されちゃうし、あんまりだなあ。
奥も英大夫、清介でじっくり。小春を遣う蓑助が、いつもの可愛さで舞台をさらっちゃう。治兵衛と共に、なんと娘お末の白無垢に綴られたおさん、舅からのメッセージを読む。お末がくるくる回って面白いけど、なぜ着物に描くの?と不思議。そして2人の犠牲も虚しく、治兵衛は太兵衛らを手にかけちゃう驚きの展開となり、結局、心中に追い込まれる。それにしても随分な結末だなあ。