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落語「狸札」「転宅」「トキ蕎麦」「がまの油」「花見の仇討」

よってたかって新春らくご‘15  2015年1月

四季折々に楽しみな落語会の夜の部。三三、一之輔ら充実したメンバーでおおらかな気分になれる会だった。いっぱいのよみうりホール、割と前のほう中央のいい席で4000円。中入りを挟み2時間。

前座は市馬さんの弟子で、91年生まれの柳亭市助。可愛く「狸札」。
まず登場するのは柳家三三。ほかの噺家は前の仕事があってまだ誰も来ていない、なんと小三治師匠にマクラが長いのはどうかと言われる、でもマクラの間に客席を眺めてふさわしい演目を選ぶ、だから今日は泥棒噺、と笑わせてから「転宅」。お妾が旦那を送りに出た隙に、泥棒が上がり込んで呑気に飲み食いしていると、お妾が戻ってきちゃう。凄んでみせるがお妾動ぜず。私も元は泥棒で、旦那とは別れ話をしており、お前と一緒になりたい、もうすぐ2階の用心棒が戻るから明日迎えに来てくれと口説かれ、金まで巻き上げられて、次の日訪れると家は平屋でもぬけのから、というオチ。泥棒の憎めない単純さが愛らしく、度胸があって機転が利くお妾さんは程よく色っぽい。2人のやり取りのテンポがよくて、巧いなあ。

前座が白い座布団を持ってきて三遊亭白鳥。かつて志ん朝と小三治の2人会の前座で新作をやって客席がひいてしまい、志ん朝に潮干狩りができると言われた、前座名は出身地のにいがた、若いころ古今亭志ん馬に蕎麦の食べ方が悪いと叱られた、といったマクラから田舎者が江戸っ子をやっつける噺と前置きして「トキ蕎麦」。前半は割と普通に時蕎麦で、後半はエコを標ぼうする佐渡出身の蕎麦屋が現れる。三平をからかったり、無茶な佐渡の食べ放題ツアーを披露したりするうちに箸や丼が出てくるが、どれもとんでもない代用品。蕎麦を打ち始めると、膝立ちになってなんと座布団をこねたり叩いたり。この芸で昨秋、NHK「美の壺」に取り上げられた、夢空間社長が蒲団が破けないか心配している、などと爆笑をとり、佐渡だけにトキでサゲ。古典をふまえての大暴れで笑わせてくれた。

15分の中入り後、お楽しみ春風亭一之輔。いつもの崩れた感じで、新年になっていいことがない、移動の車内に関西弁の女性がいて…。会場を便座に例える爆笑話、酒癖の悪い先輩の思い出から「がまの油」。談笑さんの改作でお馴染み「居酒屋」の後編なんですね。
まずは見事な口上で拍手。決して驚くような立て板に水ではないんだけど、柄が大きい。そして香具師が酔っ払うと、同じ口上が滅茶苦茶に。筑波山の名を思い出せなくて高尾山だの鋸山だの、最後は切れないはずの刀で腕が切れちゃって…。ただそれだけのシンプルな展開なのに、なかなかの暴れぶりで笑っちゃう。ちょっとやくざな雰囲気が大道芸ネタにぴったりでした。

トリは柳亭市馬で一之輔を早く真打にし過ぎた、などとぼやきつつ、もうすぐ立春、春といえば花見、と振って「花見の仇討」へ。前に一之輔さんで聴いたことがある、町人4人が花見に敵討ちの座興を企む噺。歌は意外に控えめで、武士のネーミングに郡山剛蔵(小三治さんの本名)を持ち出したりしてくすぐる。さらっとしてるんだけど、罪がなくて、芝居好きな感じ、町人の洒落っ気が楽しかった。

落語「妾馬」「淀五郎」

第八回咄と小唄の会  2015年1月

40人くらいのファンが集まった、ねぎし三平堂での恒例の会。2000円。
ちょっと遅れちゃって、三遊亭萬窓の「妾馬(めかうま)」から。以前、志の輔さんの「八五郎出世せず」を聴いたことがあるけど、こちらはさらっと率直なバージョン。お屋敷奉公している妹が世継を産んだと聞き、町人八五郎は大家の羽織を借りて会いに行く。がらっぱちぶりが歯切れよくて、面白がる鷹揚な殿様といい対照。都都逸も決まってた。

中入りを挟み、千葉しんの三味線で「恐怖」の小唄披露です。まず眼鏡をかけた正蔵さんが、夏から稽古していたという「川風に」。そして上がったばかりだという「お互いに」。本人は気持ちいいと言ってたけど、相変わらず高低が激しくて、難しそうですね。
続いて萬窓さんが節分にちなみ「吉三節分」。練馬あたりの農家で節分に、茄子と菊で豆を炒ったという珍しい風習を説明してから「年越し」。芝居っぽくセリフが入ってのどかな「福はうち」がいい景色でした。

最後は正蔵で、キャストが若返った1月の浅草歌舞伎に行った、客席が華やかで寄席とはだいぶ違う、というマクラから、得意の芝居ネタ「淀五郎」。相中の澤村淀五郎が、急な代役で忠臣蔵の判官に大抜擢されるが、肝心の四段目で由良助の市川團蔵が花道の七三に控えたまま近寄ってこない。目をかけてくれたはずなのに、意地悪なタチでどこが悪いか教えてくれず、淀五郎は悲壮にも本当に切腹してやろうと思い詰める。しかし暇乞いに訪ねた名優・中村仲蔵が型を教えてくれて、見違えるように上達し、ハッピーエンドとなる。三遊亭白鳥のパロディで聴いたけど、こういう噺だったんだなあ。
忠臣蔵の見せ場の演技はもちろん、出世の仕組みや文楽までまじえた場面などの解説が、芝居好きらしくて微笑ましい。芸談だけに自虐ネタもチラリ。面白かったです。

さまよえるオランダ人

さまよえるオランダ人  2015年1月

飯守泰次郎オペラ芸術監督の指揮で、今シーズン2作目のワーグナーを聴く。伝説を素材に救済を描くという作風が確立した、28歳の時の作。シンプルで昂揚感は少なめながら、旋律が美しい。バイロイトなどで活躍するマティアス・フォン・シュテークマンの演出はスタイリッシュ。幅広い客層が集まった新国立劇場オペラハウス、やや後ろの中央で2万1600円。全3幕で1幕の後に25分の休憩を挟み、約3時間。

永遠に海を彷徨うオランダ人船長(トーマス・ヨハネス・マイヤー、バリトン)がその運命から逃れるべく、ノルウェー船船長ダーラント(ポーランド出身のラファウ・シヴェク、バス)に宝物を与えて、可憐な娘ゼンタ(リカルダ・メルベート、ソプラノ)との婚約にこぎつける。ゼンタは貞節を誓うが、一方的にゼンタを思う狩人エリック(ダニエル・キルヒ、テノール)との会話から、オランダ人は裏切られたと誤解。ゼンタは海に身を投げて彼を救う。

いきなり序曲が壮大で、不気味な嵐の海からきらめく救済の動機まで、聴く者を圧倒する。東フィルは飯守さんの情熱が勝ちすぎたのか、滑り出しが不安だったけど、2幕あたりから調子が上がったかな。メルベートが2幕1場のたっぷりした「ゼンタのバラード」、同3場のマイヤーとの起伏ある2重唱などで舞台をさらう。
メルベートに比べると男声陣は弱かった気がするが、マイヤーが1幕2場の長大なモノローグなどを堂々と。いつものように合唱団が大活躍で、2幕の軽快な「糸紡ぎの合唱」、3幕の「水夫の合唱」がリズミカルな集団の動きとあいまって、厚み十分。ラストにちょっとだけ登場するハープが、いい余韻を残す。
3度目の上演だというセットは、船の舵と糸車の相似形が果て無い宿命を思わせる。暗い照明のなか、世界地図風の柄の赤い帆が舞台を覆って、世の不吉を象徴するようだった。

終演後、客席で飯守監督が2015/16シーズンの演目を説明。入場無料で約1時間、10本中3本の新制作を中心に、疲れも見せずラインアップを解説してくれた。得意のワーグナーで、いよいよリングの新制作に着手し、4作品の主要テノールをなんと一人で通しちゃうこと、珍しいヤナーチェク作品をチェコ人指揮者で取り上げること、フランスオペラ「ウェルテル」をバイロイトの盟友でオペラ座総監督ニコラ・ジョエルが演出すること、などを熱く語っていて、楽しかった。ほかにも若手で指揮者ビニャミーニ、ソプラノのシーリ、スターテノールのフォークトなどに期待です!

志の輔らくご「スマチュウ」「三方一両損」「先用後利」

PARCO presents 志の輔らくごin PARCO 2015  2015年1月

初落語は恒例の立川志の輔。お正月、1カ月公演の10年目という節目に加えて、故郷富山念願の北陸新幹線開業を3月に控え、お祝いムードがひときわだ。いつものように開演前にロビーで手拭を買い、福引をひいて入浴剤を貰う。大入りのパルコ劇場、2列目中央あたりという極上席で6500円。中入りを挟み3時間。

長唄連中のお囃子から、オレンジの座布団も鮮やかに、師匠が登場。いつもの年始の里帰り公演で、悪天候から飛行機が飛ぶかハラハラした、おまけに出迎えの女性スタッフがスマホを落としちゃうハプニング、雪の下から出てくるシーンは爆笑。スマホ無しにはいられなくなった現代生活に触れつつ、新作「スマチュウ」。
これはスマホ中毒のことで、ネジ工場社長のところに大学生の甥が卒業旅行の費用を借りに来る。スマホをいじってばかりの態度を叱っていると、社長もメッセージアプリを奥さんに見られて、いろいろとばれちゃう。凡人のあたふたぶりに、安定感がある。
2席目までの間には、セットでライン画面を表現。本日の開演に遅れた客と連れとのやり取りで、間違って東急ハンズに行っちゃってる展開が微笑ましい。

袴に着替えて2席目。笑いは人間独特のもの、人によって笑いのツボが違うのが難しいと話し、小咄をどんどん繰り出して反応をみる、談志さんを彷彿とさせるマクラから「三方一両損」。お馴染みの古典だけど、大岡裁きとサゲの洒落のところで、越前守と左官、大工が互いに首をひねるアレンジが巧い。この2席目は日によって演目を変えているようだ。

中入り後は、すっきりと白い座布団で、北陸新幹線開通のPRに参加した、富山は観光資源に乏しくて、有名な蜃気楼も実は県民はほとんど観たことがない、昨年の落語会でアンケートをとったら「富山と言えば薬売り」だった、と振っておいて新作「先用後利」。
題材はずばり、富山の薬売りだ。留守中に丁稚が勝手に富山の薬売りから薬箱を受け取ったと知った番頭さん。配置薬ビジネスの仕組みを、話がうますぎると疑ったことでドタバタが起きる。本家の評価を気にしてばかりいる番頭の、常識的な小市民キャラが際立つ。2代藩主・前田正甫の江戸城腹痛事件という薬売りの発祥を織り込んでおり、師匠の郷土愛が微笑ましい。大爆笑ではないけれど、安心して楽しめるネタと話術は、この人ならではだ。

いったん降りた幕を上げて、ラストは吉例により長唄連中をまじえた三本締め。帰りがけに座席番号の抽選によるプレゼントがあり、ロビーでは薬売り姿の人形と記念撮影も。いつものようにサービス満点でした。

 
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プルートゥ PLUTO

シアターコクーン・オンレパートリー2015 プルートゥ PLUTO 鉄腕アトム「地上最大のロボット」より  2015年1月

浦沢直樹が手塚治虫作品をリメイクした大人っぽいアトムの物語を、映像とダンスを駆使して緻密に立体化。森山未來の帰国第1作でもある。コミックファンやダンスファンが多いのか客層は幅広く、立ち見ぎっしりのBunkamuraシアターコクーンの、上手寄り後ろの方で1万500円。休憩を挟んで約3時間。

ベルギー出身のシディ・ラルビ・シェルカウイが演出・振付、上演台本は谷賢一。世界最高水準のロボット7体のうち5体が次々に謎の襲撃に遭う。残った2体、ドイツの刑事ロボット・ゲジヒト(寺脇康文が悩む男を熱演)がアトム(森山が繊細)を訪ね、事件を探っていく。背景にはかつて大国との戦争に敗れたペルシア共和国のアブラー博士(松重豊)の復讐、そして大国トラキア合衆国首脳の陰謀があった。イラク戦争をベースにしているが、主題となる憎しみの連鎖は今まさに世界を揺るがすテロに通じるものだ。舞台前面を埋めるロボットの残骸がニュース映像の爆発現場のよう。

セットを非常に工夫しており、白い台形のパネルを自在に動かして漫画のコマ割りを再現する。映像・装置は松尾スズキやケラさんの舞台で活躍する上田大樹。人がロボットを演じる場合は、周囲に白装束のダンサーがついて人形遣いのように動き、機械を表現するのが面白い。
刺客である花畑の男サハドやレクター博士風のブラウ1589、大詰めでアトムが戦う巨大なプルートゥなどのロボットは、人形やダンサー。ピュアなウランとゲジヒト妻の2役で永作博美、真摯なお茶の水博士の吉見一豊、謎めいた天馬博士の柄本明と、芸達者が揃うものの、やっぱり主役はセットと人形だったかな。
枯れないチューリップとか、ウランの共感力とか、ゲジヒト夫妻の消された記憶に潜む子供、さらに大量破壊兵器ボラーの正体とか、意味ありげなエピソードがたくさん。演出もアイデア満載なので、ちょっと消化不良だった。

歌舞伎「番町皿屋敷」「女暫」「黒塚」

松竹創業百二十周年寿初春大歌舞伎 夜の部  2015年1月

2015年の観劇初めは貫禄の吉右衛門、玉三郎、プラスついに新歌舞伎座に初登場の猿之助と、話題の公演に足を運んだ。鏡餅などの飾りつけが華やかで、評論家や着物姿の女性も目立って気持ちが浮き立つ。終わってみれば、3者3様の役者の気迫をたっぷり感じた舞台でした。1Fやや後ろ寄り中央あたりの席で1万9000円。休憩2回を挟み4時間半。

幕開けは渋く岡本綺堂の大正5年の作「番町皿屋敷」。意外にも下敷きになった怪談とはだいぶ違う、写実的なドラマで、未熟な男女の「好き過ぎて」が招く悲劇を論理的に描く。吉右衛門はやや衰えがみえるものの、さすがに細やかな演技だ。
第一場・麹町山王下の場では、無頼の旗本奴・白柄組の青山播磨(吉右衛門)が、敵対する町奴の放駒四郎兵衛(染五郎が活け殺し)と花見で行きあって一触即発となる。播磨の短慮ぶりがくっきり。あんぽつで行きあった叔母(東蔵)にたしなめられたら、一気に「伯母さまは苦手じゃ」と萎れちゃうし。
第二場・番町青山家の場で、身分違いの恋ゆえに、播磨の縁談勃発で不安にかられた腰元・お菊(上品な芝雀)が、思い余って家宝の皿を割ってしまう。播磨はいったん許すものの、自分の誠を試すため故意に割ったと知って激怒、なんと手打ちにしちゃう。「そちの疑いは晴れようとも」好きだからこそ哀しい。残った皿を1枚ずつ割っていくシーンに凄みがあり、お菊はその激しい思いに納得して手にかかるという、非常に現代的な心理劇だ。恋に絶望した播磨が、あとは喧嘩に生きようと駈け出していくラストも鮮烈。

夕食の休憩後は一転、古風で華やかな様式美とおおらかな遊び心が満載、大薩摩連中も格好いい「女暫」。歌舞伎十八番のパロディで、本来男性のである主役を女性としての女形が演じる。玉三郎が珍しく可愛らしく、はじけまくる。5世歌右衛門の型だそうです。
舞台は北野天神。専横を極める範頼(歌六がウケを朗々と)が、あわや義高(錦之助)や紅梅姫(梅玉の部屋子、梅丸。丸顔が可愛い)を成敗しようとするところへ、「暫く」の声とともに素襖姿も立派な巴御前(玉三郎)が堂々と登場。花道でのツラネを披露する。玉三郎は少しセリフが辛そうなところはあったものの、現実離れした存在感がさすが。茶後見は中車の長男、團子。舞台上の全員が特徴ある装束で満艦飾だ。
続く女鯰若菜(七之助)とのやり取りが生き生き。七之助さん、芸を継承してほしいなあ。巴は鯰坊主雲斎(又五郎が道化をきっちり)や成田五郎(男女蔵)らをやりこめ、大勢の仕丁も一太刀で切り捨てる。そしてお楽しみは花道の引っ込みだ。大ご馳走で吉右衛門の舞台番から、六方を習った巴御前が、コミカルに恥じらって幕となりました。

ラストはいよいよ「猿翁十種の内・黒塚」。謡曲をベースにした木村富子作、昭和14年初演の近代的な舞踏劇だ。緊迫の舞台で猿之助の技が冴えまくる。
3部構成で、第1景は重厚な能楽様式。ススキが茂る奥州安達原で、阿闍梨祐慶(勘九郎が凛々しくわきまえた演技)一行が老女岩手(猿之助)の家に、一夜の宿を求める。岩手の影、糸繰りの仕草が重い。第2景は新舞踊となり、長唄囃子連中が活躍。仏果を得たと思った老女は童心にかえって、ひとり踊る。ロシアンバレエを取り入れたという不思議な爪先立ちのリズムと、透明な照明、月光を浴びた自分の影との戯れ。罪を抱えた女が束の間浮き立つさまに、ぐいぐい引き込まれる。
そして罪をおしこめた閨を覗かれたと知ると、鬼の本性をあらわす。大詰めの第3景では歌舞伎らしい対決となり、祐慶の成仏への祈りを受けて、鬼女は豪快な「仏倒れ」と引き戻し、ラストは小さく俯いて消え入る。岩手は鬼ではなく、人間誰もが抱える負の側面の象徴であり、だからこそ哀しいのかなあ。いやー、見ごたえがありました。

 

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