« 2014年11月 | トップページ | 2015年1月 »

2014年喝采づくし

2014年のエンタメまとめ。まず人間国宝の住大夫、源大夫が去って寂しくなってしまった文楽界。キング住師匠の引退公演「沓掛村の段」にしみじみしたなあ。これからは咲大夫や、玉男襲名が決まった玉女(「勧進帳」の弁慶にスケールがあった)、勘十郎(「女殺油地獄」の与兵衛が極め付け)、そして若手で幸助、寛太郎らを応援するぞ! 清治作曲のシェイクスピア劇「不破留寿之太夫」も愛嬌があって楽しかった。

世代交代は歌舞伎界も同じ。海老蔵が「雷神」で粂寺弾正などを、市川染五郎が「勧進帳」で憧れの弁慶をみせたほか、菊之助の「白浪五人男」弁天小僧、勘九郎、七之助兄弟の「鰯売」も出色だった。定期的に型の解説を聴くチャンスを得たので、これからも勉強しよっと。

オペラは巨匠ムーティのローマ歌劇場公演で、正調イタリア節の「ナブッコ」を聴く。ドミトリー・ベロセルスキー(バス)や合唱が圧巻。その後、楽団員のストなどでムーティが辞任しちゃって驚いたけど。大野和志が凱旋したリヨン歌劇場「ホフマン物語」も変化に富んでいて、パトリツィア・チョーフィ(ソプラノ)が聴かせた。
新国立劇場では尾高忠明芸術監督の締めくくり、「死の都」が甘美な旋律と凝った装置で秀逸だった。後継の飯守泰次郎は一転、開幕をワーグナー「パルジファル」で勝負し、エヴェリン・ヘルリツィウス(ソプラノ)が大迫力でした。METライブビューイングでは「マクベス」のディーバ、ネトレプコがあっぱれの悪女ぶり。カウフマン来日キャンセルなんて、「予想通り」のがっかりもありました~

演劇はたくさん観ちゃってなかなか整理がつかないけど、蜷川幸雄演出「ジュリアス・シーザー」が圧倒的だったな。ステップアップした感じの藤原竜也に吉田鋼太郎、阿部寛、横田栄司の豪華キャストが大階段で激突。そして大好きな岩松了さんは再演「水の戯れ」の、人間存在の不確かさが今なお鮮烈でした。
楽しみな若手陣では、前川知大が社会の欺瞞を感じさせた「新しい祝日」、倉持裕「靴」の切なさ、藤田貴大「ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと―」の愛らしい不器用さが際立つ。岩井秀人の「おとこたち」は老いのリアルを描いて新境地だったかも。
翻訳劇では何故かアイルランドづいていて、骨太の「ビッグ・フェラー」(リチャード・ビーン作、森新太郎演出)、温かい「海をゆく者」(コナー・マクファーソン作、栗山民也演出)が印象的。「おそるべき親たち」(ジャン・コクトー作、熊林弘高演出)の皮肉っぽさや、「背信」(ハロルド・ピンター作、長塚圭史演出)のひりひり感も見応えがあった。毛色が違うところでは、ヨーロッパ企画「ビルのゲーツ」に大笑い。
俳優で目立ってたのは「太陽2068」の成宮寛貴、「ロミオとジュリエット」の菅田将暉、「皆既食」の岡田将生、「わたしを離さないで」の多部未華子 、「日のようにさみしい姉がいて」の宮沢りえ、「抜け目のない未亡人」の大竹しのぶ、等々…

落語は個人的に2大巨頭と思っている、談春の「文七元結」と喬太郎の「宗悦殺し」に引き込まれた。談春は自意識満載、喬太郎は人を食っていて自由自在と、対照的ながら共に目が離せません。ベテランの小三治、権太楼、新進の三三、一之輔も良かった。そして講談は神田春陽の真打昇進で、「木津の勘助」など。地味なジャンルも頑張ってほしいです!

立川談春「夢金」「文七元結」

立川談春三十周年記念落語会「もとのその一」  2014年12月

2014年のエンタメ大トリは昨年に続いて、談春さんとなりました。30周年という節目を迎え、人気実力に対する自負と屈折がないまぜの、思いが詰まった高座を堪能。入り口に大きなポスターを掲げ、3階までファンが集結したKAAT神奈川芸術劇場ホール、前の方いい席で3900円。仲入りを挟みたっぷり3時間。

白い屛風のすっきりしたしつらえで、いきなり黒紋付の談春さんが登場。今回は個人的に30周年を祝う場だと念押しし、観客の瀬踏みを始める。「イツワ電器の坂東」で知った人、落語は志の輔パルコか小朝だけの人、あるいはかなりの通でうるさ型、中間のちょうどいい応援団がいない、と憎まれ口を叩いてから、今年の活躍ぶりを総括。30周年皮切りのフェスティバルホールの日に、ドラマの台詞が大幅に変わって覚えるのが大変だったこと、共演の三津五郎さんの「台本の坂東のところ読んじゃう」というチャーミングな発言、深夜バラエティの視聴率は悪くなかったが、テレビ的知名度はまだまだで、所ジョージに「立川さん」と呼ばれたこと、などなど。
1席目は日本海側の豪雪予報を気遣ってから、雪つながりで「夢金」。初めて聴く噺で、舞台は浅草の雪の夜。守銭奴の船頭・熊が酒手欲しさに、怪しい浪人者と品のいい娘を深川まで送ることになる。船上、浪人から強盗の共犯を持ち掛けられたが、中洲におろして逃げる。娘の親からお礼をたんまりせしめたと思ったら、というオチは他愛無いが、暗く、しんしんと寒い大川端(隅田川)の景色が秀逸だ。
終わってそのまま客電を明るくし、2席目「文七元結」を解説。円朝が江戸っ子気質を示すために作った、歌舞伎版の勘三郎が素晴らしく、日程が奇跡的だった追善落語会で演じたこと、墓参りに行ったら「しっかりな」と声が聞こえたこと、最近の「芝浜」流行りは自分が先鞭をつけた、これからは文七かも、でも志の輔は長兵衛が金をやる心理が理解できない、これは博打なんだ、文七は借金を返せると思っている、自分は「柳田格之進」や「中村仲蔵」のほうがよっぽど理解できない、などなど。期待が盛り上がります。

休憩を挟んでマクラ無しに「文七元結」。フルバージョンの熱演で、特に佐野槌の女将の説教の迫力が凄い。腕のいい職人がなぜ博打にはまったのか、上手いと言われるほど虚しく、不安なのだ、というあたりが初めて聴く解釈で、自意識満載。会場も息を詰めて聴く感じだ。吾妻橋のくだりは、目の前の命が大事だということ、そして親が子を思う気持ちが染みた~ 個人的には、ぼそぼそ喋りの佐野槌の番頭が羽織を取り返すところや、近江屋の番頭がやけに吉原に詳しいという、脇役のネタがくっきりしていて嬉しい。
いつにも増してこってり、がっつりの高座は、先日のさん喬さんとは全く別物。終わって師匠自ら、トークショーでも話していた通り、もはや落語とは呼べないかもしれないけど、好きにやらしてもらうんだ、という覚悟めいた語りがあって、ラストは三本締めでした。あ~、面白かった。

004 006

海をゆく者

PARCO Presents「海をゆく者」  2014年12月

2014年の観劇納めはクリスマスシーズンにぴったりの、アイルランドのコナー・マクファーソン作、2006年初演の戯曲。小田島恒志訳、栗山民也演出で。なんと5年前の初演と同じベテラン俳優5人が揃い。渋いキャスティングだけど、色気があって良かった~。パルコ劇場の少し後ろのほうで7500円、休憩を挟み3時間弱。

ダブリン郊外の海辺の町。クリスマス・イブの一夜に、揃いも揃ってどうしようもないダメ男たちが、リチャード(吉田鋼太郎)の家に吹き溜まり、ポーカーを始める。久しぶりに舞い戻った弟シェーキー(平田満)は胸に重い罪を抱えており、謎の金持ちロックハート(小日向文世)は地獄に連れ去ろうと賭けを仕掛ける。
諦めてロックハートに身を委ねてしまえば、楽になれるはず。だけど目が不自由でわがままな兄と、同じように罪を秘めた旧友アイヴァン(浅野和之)、調子のいい恋敵のニッキー(大谷亮介)が、ぎりぎりのところで彼を繋ぎ止める。男たちは飲んだくれでグダグダなんだけど、なんとも愛らしくて、大詰め夜明けの日差しが温かい。

冒頭から大暴れ、やりたい放題の吉田が終盤で見事に感動させ、舞台をさらう。対する終始千鳥足で、怪しさ満点の小日向が、この人しかできない存在感を示して見事だ。ぐっと耐える平田、相変わらずリズム感抜群で怪演の浅野、そんな飛び道具たちを受け止め空気を束ねる大谷と、素晴らしいバランス。
海をゆく者の孤独は結局、癒されないかもしれないけど、きっと人生は続いていく。あなたを気にかけている、誰かの存在があるなら。壁にかかったキリストの絵を照らすちっぽけな電球と、ラストに流れるジョン・マーティンの「スウィート・リトル・ミステリー」、そしてむさくるしい舞台にぽつんと鮮やかな赤いクリスマスカードが、ほろ苦くも印象的。

今年は「ロンサム・ウエスト」「ビッグ・フェラー」「Once」と、何故かアイルランドに縁があったな。それぞれタイプは違うけど、いい舞台でした~

003

自作自演 立川談春×前川知大

芸劇+(プラス)トーク異世代作家リーディング「自作自演」<第10回>  2014年12月

観劇の番外編で、世代の違う作家2人による、自作朗読と対談のイベントに足を運んでみた。出演は豪華に、立川談春と前川知大。当代きっての噺家と、新作を観たばかりの新進劇作家という組み合わせは意外。トークでは互いに職人の息子だってこと、それからどうも理屈っぽい物言いが共通してたかな。かなりのファンが集まった感じの、東京芸術劇場シアターイーストの真ん中いい席で3000円。

冒頭にお2人と司会が登場。前川の緊張をほぐそうと、談春さんがひとしきり笑わせてから、まず前川が自身の脚色による「地下室の手記」を読む。昨夏、カタルシツ公演で観た演目の冒頭だ。
今年の蜷川演出では、恒例の「作者読み」を体験して大変だったとか。確かにリーディングはちょっとぎこちない。本作は2015年2月に改定上演の予定だそうで、楽しみだ。
続いて談春が芸劇での「談春七夜」の思い出とか、2005年執筆当時の心境を語ってから、単行本「談春 古往今来」収録の1編「春宵一席。立川談春書き下ろし申し候。」を読む。噺家らしき男が今どきの前座を叱咤激励。さすがに巧い。

休憩後はトークショーになり、談春が昨年、舞台に出演したとき、共演のイキウメ・大窪人衛に励まされた縁とか、どういう経緯で今の仕事を選んだとか、をつれづれに。質問コーナーもあって、談春さんが上手に盛り上げ、まとめてました。

10891852_10205352258827431_77108461

新しい祝日

イキウメ「新しい祝日」  2014年12月

劇団イキウメの新作はシニカルなファンタジーだ。作・演出の前川知大は2014年、スーパー歌舞伎への参加や自作の蜷川演出など、話題が多かった。締めくくりのホームグラウンドでは、しっかり歯ごたえを感じさせる。
テレビでお馴染みの俳優が出るわけではないのに、けっこう観客は幅広い。楽日に滑り込んだ、東京芸術劇場シアターイーストの中央あたりで4200円。休憩無しの約1時間40分。

物語はどこにでもあるオフィスから始まる。サラリーマン汎一(浜田信也)がひとりで残業していると、どこからともなく道化(安井順平)が出現。アリスに登場するウサギみたい。そして生れ落ちてからの追体験へと、いざなわれる。
子供のころの他愛ない遊びとか、部活でのメンバーの対立、社会人になってからの出世競争。当初はルールを何も知らなかった無垢な汎一が、周囲に合わせているうちに、上手な立ち居振る舞い、空気を読むことを覚えていく。でもそれは本当に、あなたが望んだ生き方なのか?
皆で熱心にランニングしているのに、いったい何の部活なのかを誰も語らない、というシュールなシーンに背筋が寒くなる。

登場人物の役名はわかりやすく、慈愛(伊勢佳世)、権威(盛隆二)、敵意(大窪人衛)、公正(岩本幸子)、打算(森下創)、愛憎(橋本ゆりか)、そして真実(澄人)。大道具小道具はシンプルな段ボールや折り紙で構成しており、抽象化が巧みであると同時に、押せば簡単に崩れちゃうような現実の空疎さを突きつける。

タイトルの「祝日」とは、過去に遡って生まれ直すというイメージだろうか。いつものSF的な飛躍やホラーの要素は抑えめで、ごくごく平凡な日常に笑いをまぶしつつ、世間の欺瞞と同調の息苦しさをあぶりだす。ひょっとすると、これって今の社会の中核世代が、共通して抱いている感覚なのかも。苦みが残る舞台だ。

002

文楽「伽羅先代萩」「紙子仕立両面鑑」

第一八九回文楽公演  2014年12月

人間国宝の住大夫、源大夫が引退して、寂しくなってしまった2014年の文楽界。締めくくりの応援に、1部制の本公演に足を運んだ。世代交代を感じる国立劇場小劇場の下手寄り後ろの方で5900円。30分の休憩を挟み4時間弱。

まず「伽羅(めいぼく)先代萩」を、忍者が出てきたりしてけっこう動きがある竹の間の段から。文楽、歌舞伎で観た名作だけど、やっぱり女同士の戦い、しかも子供を犠牲にしちゃう残酷な展開は気が滅入るなあ。桐竹勘十郎さんが稀代の敵役の八汐をしっかりと遣い、栄御前は吉田勘弥。耐える乳人政岡は吉田和生で、茶道具を使った「飯炊き」のシーンでは珍しく、「待ってました」と声がかかってた。沖の井は吉田一輔、鶴喜代君で吉田玉誉。
床はまず豊竹咲甫大夫以下の大夫7人、三味線は鶴澤清友。御殿の段に入ってからは徐々に盛り上がり、前が竹本津駒大夫、鶴澤藤蔵、後は伸び伸びと豊竹呂勢大夫、鶴澤燕三。

休憩後は東京で41年ぶりという「紙子仕立両面鑑(かみこじたてりょうめんかがみ)」から大文字屋の段。豊竹芳穂大夫、奥は竹本千歳大夫と富助できっちり締まりました。
助六・揚巻が題材だけど2人は登場せず、歌舞伎みたいなキンキラ衣装も一切無し。舞台は助六の妻、お松(吉田清五郎)の実家である河内木綿問屋だ。助六が揚巻と逃げちゃったのに、舅・万屋助右衛門(吉田玉女がこちらも珍しく老け役だ)の心労を案じている優しいお松。兄の栄三郎(吉田幸助、じっと我慢の演技だ)はこれまで裕福な万屋に援助してもらっていたから、揚巻を請け出して助右衛門を救おうと、こともあろうにお松に身売りを頼んじゃう。兄妹の悲壮な決意を知って、嘆かずにはいられない母の妙三(吉田簑一郎)。そこへ助右衛門が訪ねてきて、もともと恩ある大文字屋を気遣っていたけど、お松には実家に戻ってもらう、揚巻も請け出したから安心して、と告げる。みな涙、涙だけど後味は悪くない。
終盤は一転、悪番頭・権八(玉也)と万屋の手代伝九郎がお松を誘拐しようとする、ちょっとコミカルなシーンで終わりました。

1213a

METライブビューイング「カルメン」

METライブビューイング2014-15第3作「カルメン」  2014年12月

大定番、名曲揃いのビゼー「カルメン」を、1977年スペイン生まれのパブロ・エラス=カサド指揮ら、フレッシュなキャストで楽しむ。上演日は11月1日。いつもの新宿ピカデリーで3600円。休憩1回を挟んで3時間半弱。

何といってもタイトロールのアニータ・ラチヴェリシュヴィリ(メゾ)が野獣のような迫力で押しまくって、圧巻だ。太目をものともせず、ばんばん足を出してエロい。1984年グルジア生まれ、幕間のインタビューで見た目も性格も(!)カルメンそっくりを自認するはまり役ぶり。対するアレクサンドルス・アントネンコ(ラトヴィア出身のテノール)は美しい高音、真面目そうな演技が、気の毒なドン・ホセらしい。エスカミーリョのイルダール・アブドラザコフ(1976年ロシア生まれのバスバリトン)は艶があり、ミカエラのアニータ・ハーティッグ(1983年ルーマニア生まれのソプラノ)は歌に余韻があって、細身で儚げで、カーテンコールの拍手がひときわ大きかった。

演出は2009年のリチャード・エア版。設定は1930年代、フランコ独裁下のスペインだそうです。1・2幕と3・4幕に分け、それぞれ序曲に登場するバレエや、酒場のシーンのフラメンコが素晴らしい。半円形の壁を回していくセットがシンプルかつダイナミックで、ラストの闘牛場のシーンが目に焼き付く。
特典映像は主要キャストとセラーズ制作統括のインタビュー、次回作「セヴィリャの理髪師」のリハーサル風景でした。

キレイ

Bunkamura25周年記念/シアターコクーン・オンレパートリー2014+大人計画「キレイ~神様と待ち合わせした女」  2014年12月

作・演出松尾スズキ、音楽伊藤ヨタロウによる2000年初演作の再々演。悲惨な戦争や科学の歪みを背景に、その実ごく個人的なコンプレックスと向き合う、お馴染みのダークな松尾節を、豪華キャストと華やかな歌で彩る。大人計画ファンらしき若い観客が集まり、立ち見も大盛況のシアターコクーン、中央後ろ寄りで1万1000円。

舞台は長く内戦が続き、大豆原料の人造人間「ダイズ兵」が戦う、もう一つの日本。10年に及ぶ監禁から逃げ出した少女ケガレ(多部未華子)は、ダイズ兵回収業者カネコキネコ(皆川猿時)に拾われた後、結婚したり金持ちになったり波乱万丈の人生を送りつつ、自ら封印した忌まわしい傷と対決していく。
あまりに醜い世界。損得だけを拠り所に必死に生き抜くケガレが、どうやって美しい花と出会うのか。カネコ家の長男ジュッテン(オクイジュージ)が自ら望んで視力を封じており、目を開けた時には雨が降る、というエピソードがなんとも切ない。
ケガレの監禁時代、少女時代、大人になってからと、おおむね3つの時間を行き来し、ときには複数の時間が同時並行で展開して、目まぐるしい。さらにマイナス要素を背負った者ばかりが次から次へ登場して、歌って踊って賑やかだけど、休憩を挟んで3時間40分はちょっと長かったかな。

ピットに11人編成のバンドが入り、俳優はマイク使用。主演の多部は、声と存在の透明感が際立つ。ほかに俳優陣はみな安定しており、ケガレを愛する2人、カネコ家のピュアな次男ハリコナは少年時代が小池徹平(歌が上手)、賢くなった青年時代が尾美としのり、そして自殺願望を抱くダイズ丸が阿部サダヲ。成人したケガレのミソギは松雪泰子(美しい)、社長令嬢カスミは田畑智子。ケガレを監禁していたマジシャンの田辺誠一はメークのせいか、前半は誰だかわからなかった。

歌舞伎「雷神不動北山櫻」

十二月大歌舞伎 2014年12月

2014年の歌舞伎納めは、ぐっと冷えてきた歌舞伎座夜の部で、若々しい市川海老蔵が奮闘5役の通し狂言「雷神(なるかみ)不動北山櫻」。伝統をふまえて現代感覚の笑いあり、スペクタクルあり、サービス満載のエンタテインメントを楽しむ。円安のせいか外国人客が目立つ気がする1F下手寄り、花道がよく見える席で1万8000円。2回の休憩を挟みたっぷり4時間。

歌舞伎十八番「毛抜」「鳴神」「不動」の元になった狂言をベースに、平成20年から上演しているという作品だ。旱魃の社会不安を背景にした陰謀劇に、マジック要素が加わる。平安朝の設定だけど、見た目は江戸風だったり自由自在。

冒頭で文楽風の東西声から人形が配役の口上を述べ、序幕・神泉苑の場では並んだ登場人物が無表情な「人形身」からスタート。「忠臣蔵」の大序を真似た趣向だそうで、必然性を思うと疑問の声もあるけど、ファンタジーらしい導入だ。
このシーンでは、雨乞いに来た陽成天皇の異母兄で、皇位を狙う早雲王子(海老蔵)グループと、関白基経(ノーブルな市川門之助)グループの対立がよくわかる。海老さまがすっきり美しく、対する基経派の小野春道(市川右近)、文屋豊秀(片岡愛之助)がいいバランスだ。早雲が手下に与える磁石が後の伏線に。
続く大内(御所)の場は海老蔵が一転、陰陽師・安倍清行をコミカルに。ふにゃふにゃだし好色だし。早雲への早替りがあり、家臣・瀬平(中村獅童)は小野家の腰元から重宝「ことわりや」の短冊(小野小町の歌で、雨乞いに効力がある)を奪う。

二幕・小野春道館の場が「毛抜」で、座紋鳳凰と市川宗家の三升の提灯が並び、舞台左右に看板がかかって、まさに錦絵の世界だ。敵味方が対になった衣装などの様式美も華やか。
小野家の息女・鏡の前(福助の長男・中村児太郎がたおやか)は豊秀への輿入れを前に、髪が逆立つ奇病に苦しんでいる。乗り込んできた豊秀の使者・粂寺弾正(海老蔵)は、若衆・秀太郎(尾上右近が若々しい)や腰元・巻絹(ベテラン市川笑三郎)を次々口説いちゃって、とんでもない奴だが、毛抜や煙管の動きで奇病のからくりを見破る知恵者でもあり、なかなか現代的で複雑な造形だ。連続見得が格好いい。
後半は弾正が怒涛の活躍。瀬平を手裏剣で仕留めて短冊を取り返し、さらに磁石を操っていた忍びや黒幕の家臣もやっつける。当主・春風(尾上松也)がお礼に渡した名刀を振りかざし、花道で観客に感謝してから意気揚々と引っ込む姿に拍手。

食事の後の三幕、木の島明神境内の場は、少し軽い雰囲気になり、豊秀と安倍清行の家臣が清行を探して客席を歩く大サービス。愛之助は「海老蔵は今日誕生日です」などとおしゃべりしてました。そしてすっぽんから現れた清行が、現在の旱魃は早雲の陰謀によって、鳴神上人が竜神を滝に閉じ込めているせいであり、雲の絶間姫を差し向けるよう教える。
続く北山岩屋の場が、お待ちかね本日の山場「鳴神」。文楽版「粂仙人吉野花王」を観たことがあるが、本家の歌舞伎版は初めてだ。坂東亀三郎、亀寿兄弟の白雲坊、黒雲坊が狂言風の演技で笑わせてから、いよいよ雲の絶間姫(坂東玉三郎)が登場。まず仕方噺で花道の七三、次に舞台下手寄りと、上手の庵に閉じこもっている鳴神(海老蔵)との間をじりじり詰めていき、癪をおこして誘惑しちゃう。かなり際どいシーンなんだけど、この2人だと美しくて下品にならない。
一緒になろうと言い交した喜びで、鳴神は酩酊。思えば鳴神って、修行ばかりしていた世間知らず。もともと帝誕生の功労者だったのに、早雲の野望で北山戒壇堂建立の約束を反故にされ、いじけてしまった気の毒な人だ。未熟な人物像が海老蔵の雰囲気に合っている。対する姫は才色兼備のうえに、実力者・豊秀との不倫を成就する覚悟で乗り込んできたわけで、はなから勝負にならない。だからこそ、姫が首尾よく雨を降らせるとき、鳴神に向かって詫びるのかな。姫が去った後は、鳴神の豪快なぶっかえり、六方が格好いい。

大詰はお約束の立ち回りだ。大内塀外の場でまず豊秀が見せ、朱雀門王子最期の場で早雲が、花道で梯子に上ったりして大暴れだ。大薩摩で盛り上がった後、仕上げは不動明王降臨の場、すなわち「不動」。照明、スモークやマイクを使い、不動明王に扮した海老蔵が事件解決を宣言して、浮かび上がるというスーパー歌舞伎風スペクタクルだ。市川宗家の成田信仰を表し、伝統にのっとって客席からお賽銭が投げ入れられてました。
とにかく家の芸、荒事にかける海老蔵の気負いと努力が感じられる舞台。一時に比べ発声はぐんと良くなったし、華があるけど、ご意見番が玉三郎だけにみえるところが不安要素かな~ 周囲の声に耳を傾けて伸びてほしい人です。

« 2014年11月 | トップページ | 2015年1月 »