« 2014年10月 | トップページ | 2014年12月 »

落語「穴子でからぬけ」「転失気」「棒鱈」「たちきり」「華やかな憂鬱」「三人無筆」「文七元結」

第二回師匠と弟子四人寄れば一門の智恵~柳家さん喬一門師弟五人会~  2014年11月

柳家さん喬一門会の夜の部に行ってみた。綺麗なよみうり大手町ホールの前の方、中央。なんと、さん喬2席、喬太郎2席を含む真打4人で6席もあって4000円とお得バージョンだ。仲入り10分を挟みたっぷり3時間。

前座は本日は3代揃い踏みというさん坊で、トントンと「穴子でからぬけ」。生意気な子供が大人に謎をかけ、まんまとお小遣いをせしめる。「からぬけ」とは出し抜くの意味だそうです。
本編冒頭はいきなり喬太郎。昼の部もあって疲れた、あまり考えずに喋ってる、とグダグダのマクラから「転失気」。三三さんで聴いたことがある滑稽噺を、「芝浜聴けると思うなよ」って憎まれ口もチャーミングに。他愛無いけど知ったかぶりの和尚、無邪気な小僧と人物が際立つ。
続くさん喬師匠は、一門会だと弟子をライバル視しちゃう、とつぶやき、先代小さんの楽屋やパチンコの思い出などから「棒鱈」。これは以前、談春さんで聴いた古典だ。手練れというか、タイトルにもなっている野暮天=田舎侍の訛りとかはけっこう適当だし、ゆるゆるしてるのにちゃんと聴かせちゃう。
前半の〆は喬志郎で、芸妓と線香の解説から「たちきり」。滑り出しに言い間違いがあったりして、ちょっと乗りにくかったかな。

後半も喬太郎からで、喬志郎に泣かされるとは驚き、さん喬師匠は米国公演に熱心なことで知られるけど自分は海外はごめんだ、国内でも行ったことがないところがある、と語り、鳥取関連イベントに出演した時の拍子抜けエピソードなどから新作「華やかな憂鬱」。冒頭、歌舞伎町キャバクラの雇われ店長のファンキーな朝礼から、得意の暴走が炸裂して爆笑だ。店長は田舎に帰る前の思い出に、東京の穴場に行きたいとリクエストしたのに、案内役の弟分が連れていくのは何故か、板橋とか北区とか微妙なところばかり。この穴場巡りの行き先にはいろんなバージョンがあるそうで、たっぷり笑わせてくれる。ラストはなんと歌舞伎町に畑を作ったところ大繁盛、「天保水滸伝から出世キャバクラ」という落ちでした。拍手。
続いて喬之助で、ここまでのマクラで弟弟子を豚呼ばわりしたとか悪口を言われたけど、そんなことない、とかぼやいてから、柳家伝統の「三人無筆」。源さん、熊さんは取引先の弔いで帳付けを頼まれたけど、ともに字が書けない。仏の遺言にかこつけて銘々付けにしたり手習の師匠に頼んだり、果ては遅れた弔問客を来なかったことにしちゃう。安定してます。
トリはさん喬さんで、マクラはそこそこに、まさかの大ネタ「文七元結」。いやー、泣けた。ストレートに人情を伝える演出で、特に佐野槌の女将のくだりがしみじみと染みる。吾妻橋のシーンは、50両も目の前の命には代えられない、という、どちらかというと情けない長兵衛像だけど、ラストでは一度出したものを受け取れるか!と頑張っちゃう江戸っ子ぶりが痛快だ。楽しかったです!

020_2 023

Once

ブロードウェイミュージカル「Once ダブリンの街角で」 2014年11月

2012年トニー賞受賞作の来日公演。開幕前に舞台上のアイリッシュバーカウンターに観客をあげて、ビールをふるまう趣向が楽しい。観客はけっこう年齢層が広く、親密な雰囲気だ。開業1周年のEX THEATER ROPPONGI、さほど広くない1F中央あたりで高めの1万3000円。休憩を挟み2時間半。

原作は制作費1500万円のインデペンデント映画とあって、地味でシンプルな小品だ。スペクタクルもキラキラ衣装も一切無し。ギターとピアノだけで聴かせる、どこか民謡っぽいメーンテーマ「Falling Slowly」が切なく、しみじみと染みる。
舞台はダブリン。父の掃除機修理屋を手伝いながらストリートで歌っている冴えない男(リバプール出身のスチュアート・ウォード)と、チェコ移民でシングルマザーの女(ダニ・デ・ワール)が出会い、淡い恋に落ちる。女の励ましで男は、楽器店の店長やら銀行の支店長やらをかき集めてバンドを組み、オリジナル曲のデモテープを録音。女に想いを打ち明けるものの、結局2人はそれぞれの道へと戻っていく。意外とほろ苦くて大人っぽい物語。

キャスト全員がずっと舞台上にいて、演技と歌、演奏を兼ねる。開演前から美しいハーモニーはもちろん、ヴァイオリンやバンジョー、チェロ、アコーディオンなど楽器30種を達者に奏で、木箱を叩き、足を踏み鳴らしてリズムをとる。手作り感満載でニコニコしちゃう。人物造形もブーツなんか履いていて、なんとも田舎っぽく、主人公の男に至っては物凄く無口という設定。説明を抑制し、つつましい庶民の暮らしと家族の愛、夢にかける精一杯の想いがリアルに伝わってくる。
ワンセットで、机や椅子を移動して場面を構成。主人公たちが街を離れて遠出するシーンだけ、2人がセットの上部にあがり、床の豆電球で夜の海を表現していた。英語で喋りつつ、チェコ語の字幕が入ったりするのもユニーク。ジョークは少しわかりづらかったけど。脚本エンダ・ウォルシュ、演出ジョン・ディファニー。いつかアイルランドに行ってみたい!と思わせます。

A_2 002 010 012_2

皆既食

Bunkamura25周年記念/シアターコクーン・オンレパートリー2014「皆既食~TotalEclipse~」

破滅的な愛と放浪に生きた19世紀フランスの詩人、アルチュール・ランボーとポール・ヴェルレーヌ。クリストファー・ハンプトンの1968年ロンドン初演の戯曲を、蜷川幸雄が演出した。小田島恒志訳。ニナガワ好きから岡田将生ファンまで、幅広い観客を集めたシアターコクーン、前の方のいい席で1万円。休憩を含め約3時間。

2014年も大活躍の蜷川さん、なんだかんだで5月以降は毎月観ていたなあ。今回は演出の意外性は少なく、むしろ淡々としているくらいで意外。狂気をはらんだ天才・ランボーの存在感に焦点を絞ったということだろうか?
終盤のシュトゥットガルト近くの森以外は、ずっと室内の台詞劇。暗転と家具の移動で、ヴェルレーヌが身を寄せていたフルールヴィル家やパリのカフェ、ロンドン、ブリュッセルの宿などを描いていく。

なんといっても注目は、映画版「太陽と月に背いて」でディカプリオが演じたランボー役、初舞台の岡田将生! 透明感があり、すらっとした長身、ふわふわの金髪や声が魅力的で、10代の身勝手さ、繊細さに説得力がある。実際の詩作は示さないので、早熟の天才であることが飲み込みづらかったけど。これからが楽しみな役者さんだ。
一方のヴェルレーヌの生瀬勝久は達者ながら、破滅感、不安定さの表現は今一つだったかも。序盤から20代の割に枯れた造形で、革命(パリ・コミューン)に躓き、裕福な妻(中越典子)の実家を頼る境遇の、屈折は伝わりにくい。その後もランボーと放蕩し、刃傷沙汰まで起こしながら、妻とも別れきれない。亡くなったのがまだ51歳だもの、とんでもない破綻ぶりだなあ。キャストはほかに加茂さくら、辻萬長、立石涼子、土井睦月子ら。
破局とスキャンダルから、大詰めの宗教観へと至るあたりの意味合いは、観る側がじっくり消化する必要がありそうなので、宿題ということで… 話題の舞台とあってか、客席には成海璃子ちゃんの姿も。可愛かったです。
002

落語「真珠の誘惑」「時そば」「バールのようなもの」「掛け取り」「立川流騒動記」「明烏」

落語立川流創立30周年特別公演 談志まつり2014  2014年11月

立川流が談志追善で、各団体幹部級の噺家をゲストに迎えた3日間5公演の一つ「立川流誕生秘話~30年目の真実」に足を運んだ。幅広い落語好きが集まった感じのよみうりホールの、2F中央で4200円。仲入りを含めたっぷり3時間。

開口一番は志らく門下の二つ目、立川らく朝。46歳で入門して、医師と二足のわらじという異色の経歴だ。遺伝子診断と胆石症をネタにした「真珠の誘惑」を軽妙に。続いて同門の立川志ら乃。昇進試験の最中に、談志が稽古を始めちゃったという宝物のようなエピソードを語ってから、「時そば」。勢いがある。
そしてお待ちかね、立川志の輔は飄々と、懐かしい「バールのようなもの」。軽さが巧いなあ。前半の〆で落語協会会長の柳亭市馬が、「掛け取り」を朗々と。大晦日に長屋の住人が、借金取りをそれぞれ好みに合わせた言い訳を駆使して撃退する。狂歌は「菅原伝授」のパロディ、相撲甚句には現在の関取の名を織り込み、さらに三橋美智也好きという設定で得意の演歌を披露。明るくて芸が感じられて気持ちいい。

仲入りを挟んで、立川一門の落語協会脱退のきっかけになった立川談四楼、当時付き人の志の輔に、市馬が加わってトーク。3人よりも、司会で明大落研の志の輔同級生、立川談之助がよく喋った感じ。続く談之助は、ほぼトークの続きの「立川流騒動記」。「三遊協会」の挫折などから毒舌で。そして、よく談志さんの会で観ていた松元ヒロのスタンダップコメディは、相変わらず麻生さんの真似が絶品だ。談志が石原慎太郎のネタを真似していたエピソードも。トリは談四楼で、色っぽい「明烏」。温厚だし、作家でもある才人だけど、噺のメリハリは今ひとつだったかな。

ロビーで「家元の軌跡 談志30歳」というCDを購入。最も若い「芝浜」の音源(1966年)だそうです。あっさりした演出ですね。

A 009

紫式部ダイアリー

Parco Production「紫式部ダイアリー」  2014年11月

シス・カンパニー所属となった2014年も大活躍の三谷幸喜作・演出。今年はドタバタ喜劇が続いた気がするけど、締めくくりは見ごたえがある二人芝居だ。平安時代の才女同士が、プライドとコンプレックスをぶつけ合って、互いを認めていく。割と男性が多いパルコ劇場、下手寄り前の方で8500円。休憩無しの1時間45分。

設定はなんと現代。とあるホテルのバーに、ベテランエッセイスト清少納言(斉藤由貴)が新進の売れっ子作家、紫式部(長澤まさみ)を呼び出す。二人はともに文学賞の審査員。選考会を明日に控え、清少納言はあることを紫式部に頼もうとするが…。
権力闘争渦巻く宮廷で、藤原定子を支えた才気煥発の清少納言。近頃は編集者の対応などから、落ち目を自覚していてイジケ気味だ。小柄な斉藤が、高いバースツールに座るのに苦労するドンくささを生き生きと表現。表情の振幅も大きく、堂々たる舞台女優ぶりです。
一方の紫式部は颯爽とした美女で、一緒にプロットを考えろと無茶を吹っかけてストーリーテラーの天才ぶりを見せつけちゃう。権力者との華やかな恋もにおわせる。自信満々にみえるものの、実力だけで評価されないことに苛立ち、酔いが回るほどに弱さを吐露。すらっとした容姿の長澤は、ちょっと乱暴な演技だけに傍若無人がはまっていて綺麗です。
二人が示す過剰な自意識と深い孤独は、作者自身の投影なのか。そう思うとなんだか観ていて息苦しくなるけれど、寂しさを笑いに変えて、ついに自己肯定に至るラストはやっぱり力強い。1000年後に向けて書く、ときたか。頑張れ、三谷さん。

お馴染みワンシチュエーションで、バーカウンターだけのシンプルな装置を、回り舞台で動かし、一夜のうちの時間の経過を表現(美術は堀尾幸男)。酒豪の紫式部はなかなかのウイスキー通で、途中で披露する薀蓄がオチにつながるところが洒落ている。セリフ無しのバーテンダー役は吉田ボイス、グラスではバカラが協力していた。お馴染みトルコ軍楽隊(エフテルハーネ)の「ジェッディン・デデン」が効果的。

文珍「子ほめ」「深夜の乗客」「お茶汲み」「お血脈」

桂文珍独演会JAPAN TOUR~一期一笑~ 2014年11月

初めての文珍さん。新作も古典も、全く気負いがない脱力系だけど、時事ネタをまぶした知的な大人の話芸だ。増上寺近くの風情あるメルパルクホールTOKYO。上方、しかも最近はそれほどテレビでお見かけしないのに、よく入っている。下手寄りで4200円。2時間半。

前座はなんと一番弟子の桂楽珍さん。風貌のことなどで軽く笑わせておいて「子ほめ」上方版。灘の酒を「ただ」と聞き間違えたうっかり者が、ただ酒を呑みたければ世辞を覚えろと教えられ、生まれたての赤ん坊を褒めようとする滑稽噺だ。
そして文珍の1席目は、実は新幹線事故で楽珍さんがぎりぎり間に合ったけど、たいした内容じゃなかったな、と導入から厳しい。老夫婦が新聞で日付を知ろうとするが…と皮肉の効いたジョークなど、長めのマクラから「深夜の乗客」。タクシーに乗ってきた髪の長い女、家に金をとりに入って出てこなくて…という新作を飄々と。

着替えの間に内海英華の「女道楽」。初めて観たが、大正期に盛んだった色物で、三味線漫談という趣。後継者がなく英華さんだけだとか。綺麗な人で、都都逸とかが粋です。
金屏風に釈台を置いて、文珍の2席目。1席目は百田尚樹の短編を元にしているどうも最近調子に乗っている、などとくすぐりつつ、「お茶汲み」。花魁が泣き真似で客の気を引く廓噺だ。色っぽいというより虚々実々、ちょっとシニカルで馬鹿馬鹿しい味わい。狂言「黒塗」が元になっているそうで、お茶を使うところは「いがみの権太」にも取り入れられている。

中入りを挟み、立派な松を背景に「松羽目」仕立てで3席目「お血脈」。9月に春風亭百栄で聴いた演目だが、文珍さんは時事ネタたっぷり、かつ石川五右衛門を芝居らしく盛り上げていて、楽しかった。

003
004

水の戯れ

M&Oplaysプロデュース「水の戯れ」  2014年11月

待望の岩松了さん代表作のひとつを観に行く。1998年初演作の再演出だ。ザ・岩松の、人の心のわからなさ、人間存在の不可解さがひしひしと。演劇好きが集まった感じの本多劇場、中央あたりでお得な6500円。休憩を挟んで約2時間半。

昭和な雰囲気漂う「テーラー北原」のワンセット。生真面目な仕立て屋・春樹(光石研)は40年配にもなって、亡き弟が遺した美しい妻・明子(菊池亜希子)に、もう長いこと想いを寄せている。ふらりと戻ったヤリ手っぽい兄・大造(池田成志)とずけずけモノをいう中国人の恋人・林鈴(瑛蓮)、店に入り浸っている気のいいおまわりさん・増山(近藤公園)がからんで、前半は笑いの多いラブコメ風だ。
ところが2人が結婚して、幸せ一杯なはずの後半は雰囲気が一変。大造や明子の上司・森田(岩松さん)、若い女・菜摘(根本宗子)の言動から、春樹は明子に疑いを抱きはじめ、歯車が狂っていく。

登場人物の誰もが本音を言わない、そして舞台のどこかに階段がある。勝手に岩松劇の2大ポイントだと思っている特徴が、本作にも。特に「階段」は今回、店舗と和室の中央にどーんとあって、存在感がでかい。人物が2階に上がっていくシーンが頻繁にあり、その先の、観客には見えないところで果たして何が起きているのか、不安がかきたてられる。
そして繰り返し唐突にぶちまけられる「水」が、平凡で微笑ましい日常の陰にひたひたと寄せる危うい歪みを、強く意識させる。タイトルはラヴェルのピアノ曲からとったそうだけど、この水のイメージが、衝撃のラストシーンに見事につながっていて鮮烈だ。

普通の男・光石が、振幅の大きい人物像を見事に表現。すらっとした立ち姿の菊池も美しく謎めいていて、不穏でいい。そういえば「ハルナガニ」で観たときは、「やけに指が長い」という印象だけだったなあ。要注目の女優さんだ。池田は相変わらずの曲者ぶり。大人のメロドラマは、観終わっても胸のざわざわが後をひきますね。
客席には宮藤官九郎、田中哲司、平岩紙… そしてなんと、初演で明子を演じた樋口可南子さんが! 綺麗だった~

D

歌舞伎「鈴ヶ森」「勧進帳」「すし屋」

吉例顔見世大歌舞伎 夜の部  2014年11月

憧れだったという弁慶を、市川染五郎41歳が初役で勤める。初世松本白鴎三十三回忌追善公演と銘打っており、応援モードの話題の舞台だ。歌舞伎座の前寄り、富樫の背中を見る格好の、上手端で1万8000円。2回の休憩を挟んで4時間半。

夜はお馴染みの演目3本が揃った。2本目「歌舞伎十八番の内勧進帳」は富樫で父・松本幸四郎、太刀持で長男・松本金太郎、さらに義経でびっくりの中村吉右衛門と、一家勢揃いの大舞台。線の細い印象のあった染五郎が、見違えるような発声で大健闘だ。小細工、わざとらしさが無く、いっぱいいっぱいな印象も人間・弁慶を感じさせていい。会場も大拍手だ。
吉右衛門は俳優としてのあまりのデカさに違和感は拭えないものの、きちんと貴公子になっていて、さすが名優。富樫はいつもの幸四郎節ですね。四天王は大谷友右衛門、白鴎の部屋子から市川高麗蔵(こまぞう)とベテラン・松本錦吾、澤村宗十郎の部屋子だった澤村宗之助が固める。後見は友右衛門の長男・廣太郎でした。

夜の部の出だしは高麗屋家の芸「御存鈴ヶ森」。以前は梅玉、幸四郎で観たけれど、今回は音羽屋コンビで若々しく。白井権八の尾上菊之助が、いつも通り声が通って、いかにもスターです。対する幡随院長兵衛は初役で尾上松緑。名乗りのくだりで「鼻が高い」と江戸時代の五代目幸四郎、「麻布の叔父さん」と現・九代目に敬意を表しつつ熱演してました。南北調の台詞が心地いいけど、稀代の侠客らしい凄み、重みはまだまだかな。

そして締めは「義経千本桜」から三段目「すし屋」。1年前に仁左衛門さんで観たいがみの権太は今回、尾上菊五郎。年齢は覆うべくもないけれど、無頼漢のいい加減さに愛嬌がたっぷりプラスされ、それが大詰めの不器用さにつながっていて説得力がある。さすがです。
軟弱な弥助の中村時蔵が、酢屋弥左衛門(市川左団次)を相手にすると一転、平維盛に戻るところが巧い。軽妙から悲嘆に至るお里は、時蔵の長男・梅枝。梶原景時の幸四郎が生真面目に仕切り、家臣は若手を中心に坂東亀寿(かめとし)、時蔵の次男・中村萬太郎、三津五郎の長男・坂東巳之助、錦之助の長男・中村隼人。

A B C

METライブビューイング「マクベス」

METライブビューイン2014-15第1作「マクベス」  2014年11月

ライブビューイングのシーズン開幕は、ヴェルディの陰影が濃いシェイクスピア悲劇で、なんといってもディーバ・ネトレプコが圧巻の悪女ぶり! オペラ界のガガ様と呼びたい。ファビオ・ルイージ指揮で10月11日の上演。いつもの新宿ピカデリーで3600円。1&2幕90分、休憩を挟んで3&4幕60分強で計3時間20分。

発表当時は革命的だったというベルカントからの脱却、ドラマ重視の音楽が素晴らしい。そのドラマを牽引するのは、なりきりレディマクベスのアンナ・ネトレプコ(ソプラノ)、43歳。金髪に薄物1枚、ベッドの上でセクシーに登場し、「さあ地獄の司たちよ、立ち上がれ」ののっけから、迫力の声と体格で押しまくる。子供のように権力を求めて夫を挑発し、1幕殺人直後の夫妻の2重唱、そして4幕の「夢遊の場」へと喝采続きだ。
ほかのキャストも、METらしく豪華。スコットランドの武将マクベスはジェリコ・ルチッチ。やはりライブビューイングの「リゴレット」で観たセルヴィアのバリトンで、ネトコ様に押され気味だけど安定感がある。国王ダンカン、同僚バンクォー(ルネ・パーペ、バス)を手にかけて王冠を得るものの、罪の意識に苛まれて暴君に。パーペは2幕で死んじゃうもったいなさだが、血まみれの亡霊となって堂々と。ラストにマクベスを倒すマクダフの、ジョセフ・カレーヤが伸びやかでいい。やはりライブビューイングの「ルチア」で観たことがある、マルタ島出身のテノールだ。「ああ父の手は」が輝かしく、拍手も大きかったな。
合唱もスターに負けていない。マクベスの権力欲を翻弄する魔女たちに存在感があり、また戦時に生きる民衆の静かなコーラス「虐げられた祖国よ」が感動的だ。のちの「ナブッコ」を思わせます。

終戦直後あたりに時代を移した、エイドリアン・ノーブルの演出がスマート。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの芸術監督を務めた人で、シンプルな柱や雪、緑の大旗でシーンを構成し、魔女の予言では顔を照らすライト、映像を駆使。特に「夢遊の場」の、椅子を並べていく不安定さが秀逸だ。
案内役は新顔アニータ・ラチヴェリシュヴィリで、幕間インタビューにはゲルブ総裁や主要キャストのほか合唱指揮のパランポ、合唱団員フライが登場。複数演目を並行して準備するのは凄い技量だ。オペラを題材にした現代美術家のショートフィルムは意味不明だったけど。
ネトコ様は相変わらずのハイテンション。NYTのインタビューによると来季は「イル・トロヴァトーレ」だとか。ますます楽しみです!

THE 39 STEPS

THE 39 STEPS   2014年11月

1935年のヒッチコック映画を、2005年にパトリック・バーロウがブロードウェイで舞台化。今回は放送作家の福田雄一が上演台本・演出を担当し、新旧のネタによるコメディに仕上げた。天王洲銀河劇場で9000円。休憩を挟んで2時間半。

ロンドンで暇を持て余している独身男リチャード・ハネイが、劇場で出会った見知らぬ女の殺害容疑をかけられちゃう。巻き込まれ型サスペンスの原型とも言えるストーリーだ。警察とスパイ組織に追われながら、キーワード「39階段」の謎を解き、国家機密漏えいを防ぐ大活躍。ひょんなことから手錠でつながれた金髪女性パメラとのロマンスもある。
そんな王道のハリウッドストーリーを、最近のヒット映画の物真似から懐かしい銅像ネタまで、コントで味付け。主役の渡部篤郎が予想通りに気取りまくり、水川あさみ、安田顕、佐藤二朗が残りの全キャスト、滝だの岩だのまでをドタバタとこなす。安田が意外に細身で、ミスター・メモリーなど変幻自在。全員マイクを使ってたけど、佐藤は地声でも十分いけそう。水川も癖のある声がいい。ストッキングを脱ぐシーンも綺麗。
最小限のキャストに合わせて、セットも手作りの味わい。ヒッチコック作品へのオマージュや、人間影絵がにやりとさせる。

010

« 2014年10月 | トップページ | 2014年12月 »