« パルジファル | トップページ | 小指の思い出 »

歌舞伎「寺子屋」「道行初音旅」「鰯売戀曳網」

十月大歌舞伎夜の部  2014年10月

十七世中村勘三郎二十七回忌、十八世三回忌の追善公演を観劇した。勘九郎、七之助兄弟が大奮闘だ。演目も変化に富んでいて楽しく、特に芸の継承を体現する「鰯売」が出色。休憩2回で約4時間。連休とあって遠方からのツアー客がいる一方、台風接近の影響もちょっとありそうな1F中ほどの席で、1万8000円。

まず「菅原伝授手習鑑」から王道の悲劇「寺子屋」。勘九郎が初役の武部源蔵、七之助が妻・戸浪で仁左衛門、玉三郎らの胸を借りる。菅秀才を救うため小太郎を手にかける勘九郎は、冒頭の「源蔵戻り」から思い詰めた感じ、玉三郎の松王丸女房・千代を斬ろうとするあたりで必死さが伝わってくる。「計画殺人にならないように」との勘三郎の教えを守って、切々と初々しく。七之助が巧いサポート。
銀鼠衣装の松王丸・仁左衛門がさすがの存在感で、「寺子検め」の笑い以降は苦悩が深まり、「首実検」へ。「泣き笑い」が圧巻だ。お元気そうでよかったです。ほかに御台園生の前に扇雀、春藤玄蕃は亀蔵。「待ってました」の声がかかった「いろは送り」の焼香が、ロビーの追善の展示と重なりました。

夕食を挟んで、「義経千本桜」から華やかな歌舞伎舞踊「道行初音旅」、通称「吉野山」。静御前は贅沢に藤十郎。さすがに声が弱いかな。そしてスッポンから登場する忠信は梅玉。雛人形風の振りや清元、竹本の賑やかな掛け合いが面白い。コミカルな半道敵(はんどうがたき)の早見藤太は、メークこってりの橋之助。ラストの立ち回り「所作立て」まで、様式美がおおらかだ。

そして休憩後に「鰯売戀曳網」。三島由紀夫の新作を歌右衛門の蛍火、十七世勘三郎の猿源氏で1954年に初演し、玉三郎と十八世が受け継いだという演目だ。
勘九郎はお父さんそっくりに、喜劇のテンポが良くて可愛いし、ちょっと切なさがにじむ持ち味が生きている。長身の七之助は声が凛としていて、恋する傾城と命令口調の姫という2つのキャラを行き来するあたりも、なかなかだ。
文楽で観たことがあるストーリーは、言ってしまえば他愛無い「紺屋高尾」だ。舞台は京都。傾城に一目惚れしちゃったしがない鰯売が、東国の大名に化けて廓に乗り込むと、実は傾城は元お姫さま。魚づくしの軍(いくさ)物語など、和歌の教養を織り込みつつ、思いが叶う終盤は、皆で「鰯こうえい(来い)」と唱和。2人がいちゃいちゃしながらの引っ込みまで、明るい展開で後味がいい。
博労六郎左衛門が獅童、父の海老名なあみだぶつは弥十郎、姫を探していた藪熊次郎太は市蔵。傾城たちは若手で巳之助(三津五郎の息子)、新悟(弥十郎の息子)、児太郎(福助の息子)、虎之介(扇雀の息子)、鶴松(勘三郎の部屋子)。

ロビーには追善の遺影と焼香の香り。演目も演者も、後味の良い公演でした。

013 008

« パルジファル | トップページ | 小指の思い出 »

歌舞伎」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 歌舞伎「寺子屋」「道行初音旅」「鰯売戀曳網」:

« パルジファル | トップページ | 小指の思い出 »