パルジファル
パルジファル 2014年10月
話題の新国立劇場2014/2015シーズン、オープニング公演に足を運んだ。本場バイロイト音楽祭で約20年も音楽助手を務めた飯守泰次郎が、芸術監督就任第一作として満を持し、ワーグナー最後の舞台神聖祝祭劇「パルジファル」を指揮。なんと45分、35分の休憩2回を含めぴったり6時間の超大作だ。実力派のワーグナー歌手が揃い、美しい舞台が見事に音とシンクロして、深い感動に包まれる。ん~、上質なファンタジー。
METライブビューイングのカウフマン、パーペらドリームキャストで観た演目だけど、もちろん実際の舞台での鑑賞は充実感が違う。さらにベルリン生まれの巨匠ハリー・クプファーの新演出は知的で、見どころが多い。東京フィル、合唱団は新国立劇場プラス二期会。お約束ワグネリアンやお洒落した年配夫婦ら、よく入ったオペラハウス中央、通路に面した特等席で2万9160円。
ワーグナー独特のアジテーションは少ないものの、「聖杯の動機」「聖餐の動機」など、うねり、包み込むようなオケが素晴らしい。個人的には管楽器が高らかに盛り上がった直後に、繊細な余韻を与える弦の響きが好み。
歌手陣は新国立初登場が多くて、粒ぞろいだ。飯守人脈なのかな。特に2幕。クンドリーのエヴェリン・ヘルリツィウス(ソプラノ、ザクセン州宮廷歌手だそうです)が、1幕の必死に奉仕する女から一転、妖艶な赤や緑のドレスでパルジファルを誘惑。さらに、かつて大衆に流されてしまったことによる輪廻の呪いの痛切な告白へと、振幅が大きくてドラマティックだ。タイトロールのクリスティアン・フランツ(ミュンヘン生まれのテノール)は1幕の子供っぽい「阿呆」から官能体験で成長し、世の矛盾を悟る「共苦」へと覚醒して、伸び伸び。個人的には2007年のトリスタンや2010年のトーキョーリングでお馴染みの歌手だ。逆恨み男クリングゾルのロバート・ボーク(シカゴのバリトン)も力強くて格好いい。
語り部グルネマンツは白髪・髭が貫禄のジョン・トムリンソン(英国のバス)で、歌いっぱなしの1幕、3幕を全うして大きな拍手を浴びていた。過去の過ちに苦悩し、終始倒れ伏しているアムフォルタス王はエギルス・シリンス(ラトヴィア出身のバスバリトン)、そんな息子を責めちゃう先王ティトゥレルは長谷川顕(バス)。
演出は排他的なエリート組織が内部から崩壊し、主要キャストは生きて救済の旅を続けるという解釈なのかな。広いスペースを存分に生かした装置がとにかく秀逸だ。
舞台奥から前方まで、一面LEDの曲がりくねった「光の道」が流れていて、色彩と抽象映像で場面の変化を表現。特に救済の緑が鮮やかだ。旋回する巨大な尖った橋「メッサー(ナイフ)」が不安や高揚を3次元に構成し、転調が壮大な聖餐式のシーンでは、迫力の大ゼリと紗幕が幻想的だ。
要所要所を見守る3人の僧侶が不思議。オレンジの袈裟が重要な役割を果たしちゃうし。「門外不出」で、ニーチェに攻撃されたという堅苦しさを、聖杯やら純潔騎士団やらの世界で完結させないことで、普遍性に昇華させたということか。
花の乙女はダンサーで、歌手はピットに。子役も大活躍です。字幕は三宅幸夫。
1幕目にも普通に拍手とカーテンコールがありました。そして長い休憩にはレストラン「マエストロ」の特別メニューのほか、ホワイエでドイツビールやJR東海協賛の新幹線50周年記念弁当の販売も。ちなみにこの大作で、知人に2組も会ったのにはびっくりでした~
今回は観劇に先立って、オペラトークにも参加した。ピアノと椅子を置いたホワイエで1500円。
まず音楽評論家・舩木篤也さんが解説。本作は宗教儀式みたいだけど、意外に善悪が混沌としていること、など。後半は飯守さんとの対談になり、準備に2年かけ、今は毎日8時間練習していること、謎めいたテキストは「時間が空間になる」アインシュタインとか、フロイトとかを先取りしていること、ワーグナーは聴く者の心理を操作することに優れているが、本作はより内面的であること、など、ワーグナー愛が溢れていて面白かった。最後にカバーの大沼徹(バリトン)が「憐れみたまえ」、アルトソロも務める池田香織(メゾ)が「幼子のあなたが…」を披露し、充実してました。
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