彩の国シェイクスピア・シリーズ第29弾「ジュリアス・シーザー」 2014年10月
蜷川幸雄演出のシリーズも大詰め。舞台いっぱいの大階段、実力俳優4人が長大なセリフで激突する男っぽい舞台だ。特に、一段とステップアップした印象の藤原竜也が出色。年齢層高めの彩の国さいたま芸術劇場大ホール、中央のいい席で9500円。休憩を挟み約3時間があっという間です。
登場人物は歴史上の英雄たちだし、戯曲の初演は400年前。しかし野心家たちの愛憎が歴史を左右していくさまは普遍的で、ちっとも古くない。つまりは実力が伯仲する同士が相手を認められるかどうか? この叙事詩は「繰り返し演ぜられるだろう」というキャシアスの予言が、いつの世も変わらない人の弱さを思わせて名ゼリフ過ぎる。松岡和子翻訳。
時は紀元前44年、ローマ。ジュリアス・シーザー(横田栄司)はポンペイを破って、人気実力とも絶頂だ。権力の集中に反発するガイアス・キャシアス(吉田鋼太郎)は暗殺を企て、信望あるマーカス・ブルータス(阿部寛)を説得して仲間に引き込む。そして運命の3月15日、元老院議事堂で血なまぐさい事件を決行。
動揺する民衆に、ブルータスは整然と自らの正当性を説き、支持を得る。しかしシーザー側近のマーク・アントーニオ(藤原)が、巧みに民衆を扇動して形勢は逆転。ブルータスはキャシアスとともに戦う悲壮な決意を確認し、シーザーの亡霊がさまようフィリパイでの戦闘に向かうが、敗れて自害する。アントーニオはブルータスの高潔を讃える。
俳優4人が反語、反復など、レトリック満載の台詞をスピーディーにぶつけ合う。特に藤原の演説シーンが圧巻だ。持前の突出した切なさだけでなく、声の高低などで野心とぎりぎりの切迫感、一筋縄でいかない屈折した人間像を生々しく表現。民衆を味方につけておいて、裏では富をわが手に握ろうと企んじゃうし。
屈折ぶりでは吉田も負けていない。野営のテントで愛するブルータスと激しく言い争うシーンでは、不安をむき出しにして椅子を投げたり、愛嬌爆発で観客にからんじゃったりして大暴れだ。対する阿部は、姿の良さと愚直な造形が悲劇の理想家にぴったり。でも、ちょっとはシーザーに嫉妬してたんじゃないかなあ。
横田は3人に比べると抑えめだけど、声や姿が威風堂々。ほかにたかお鷹、大石継太、丸山智己、松尾敏伸、星智也、中村昌也、山本道子ら。皆さん、長いマントの裾を翻したりして、ローマ人が似合いますねえ。
演出は俳優勢のパワーに焦点を絞り込んだ印象で、鏡とかフライングとかのニナガワマジックは無し。オープニングで皆がトレンチコートを脱ぎ棄てて、一気にローマ世界に入る見事さはいかにもだけど。舞台いっぱいに白い巨大な階段をすえて、V字型などの配置で人間関係を立体的に見せ、登ったり降りたりの不安定さもいい効果だ。人物は頻繁に通路を通って、客席をまるごと歴史の目撃者にする。
セットは大掛かりかつシンプルで、お馴染みローマを象徴する狼と双子の像や、戦闘シーンの巨大な月が印象的。また衣装の白と赤、さらに赤い血とのコントラストが不穏かつ鮮やかだ。
いや~、本当に充実していました! ポーシャ役だった中川安奈さんが降板後、急死されたのはとてもショックでしたが…