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半神

東京芸術劇場×明洞芸術劇場国際共同制作「半神」 2014年10月

原作・萩尾望都、野田秀樹との共同脚本による1986年の戯曲を野田が演出。ソウル公演を経た、日本スタッフ、韓国キャストによる韓国語上演だ。政治状況に負けない気概に、まず拍手。東京芸術劇場プレイハウスの1階中央、いい席で5000円。2時間弱。

賢い姉シュラ(チュ・イニョン)と美しい妹マリア(チョン・ソンミン)は9歳の結合双生児で、世間から隔絶して生きてきた。ついに迎えた分離手術の昏睡のなかで、スフィンクスやマーメイドらの神話世界に迷い込む。果たしてどちらが生き残るのか。
DNAを思わせる螺旋階段や、黒板に描かれた1/2+1/2=2/4という「螺旋方程式」などのイメージを散りばめ、愛や孤独を描いている、らしい。個人的には少女らしいコンプレックスと嫉妬、そして克服と成長の物語に思えたかな。イヤホンガイドで日本語通訳を聴くスタイルだったので、正直、舞台に入り込めなかったのが残念。夢の遊眠社時代の代表作で、5度目の上演だそうです。

冒頭の稽古場で台本を読み合わせするシーンから、俳優陣の動きにキレとスピード感がある。伸縮する衣装で2人つながって動き回りつつ、性格の対比をみせた主演の姉妹、そして家庭教師役のイ・ヒョンフンに切なさがあって、いい。400人ものオーディションによる選抜だとか。後方でバンドが演奏。 プログラムを入り口で配るスタイルでした。

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落語「真田小僧」「代書屋」「二階ぞめき」「百川」「富九」

COREDO落語会第一回  2014年10月

高水準の顔合わせで、江戸情緒たっぷりの、贅沢な落語会だ。仕事帰りらしい人が目立つCOREDO室町・日本橋三井ホール、アリーナ席で5000円。シリーズ1回目とあって、プロデュースの山本益博さん自らもぎりに立つサービスぶり。

冒頭に、金山はる社中の「あの町この町」(談志さんの出囃子)にのって益博さんが挨拶し、まず二つ目の柳家花ん謝。お年寄りが集まった落語会に行って、「あやうく吹き出しそうになった」と言われてがっくり、といったマクラから、何度か聴いたことがある「真田小僧」へ。思わせぶりの話をしてまんまと小遣いをせしめる生意気な子供を、はきはきと。
本編はいきなり柳家権太楼が登場し、寄席の楽屋の様子、若者はすぐスマホで正解を調べちゃっうから興ざめだ、などと振ってから「代書屋」。履歴書を書いてもらいにきた、下町の無学な男がなんともチャーミングだ。本籍を尋ねられても生年月日をきかれてもトンチンカン、大仰なんだけど、こういう人いそうだなあ、と思えて味わい深い。四代目桂米團治作の上方落語で、演者によって様々なバージョンがあるらしい。権太楼の十八番だそうで、すっかり江戸前ですね。
続いて柳家花緑が、本日若旦那をできるのは私だけ、とさらりと喋ってから2011年にも聴いた「二階ぞめき」。吉原通いは「平袖」を着るとか、粋な文化を感じさせる。端正でリズムがいい。

中入り後はお楽しみ春風亭一之輔。日本橋との所縁や、四神剣について解説してから「百川」。以前やはりこのホールで、談春さんで聴いた噺だ。人物の振れ幅が大きい一方、落ち着いていて粋だ。特に百兵衛の珍妙な訛りや、乱暴な客・河岸の連中との誤解満載のやり取り、怯えぶりが可笑しくてたまらない。巧いなあ。
トリは再び権太楼が「富久」。酒で客をしくじってしまった幇間の久蔵が、一獲千金を夢見て富くじを神棚に供える。その夜、客の店が火事に遭って駆けつけたのはよかったが、見舞いの酒を呑んで寝入っている間に、今度は自分の長屋が焼けてしまう。意気消沈していると、なんと富くじが当選。しかも焼けたと思った神棚を近所の鳶頭が預かってくれていて、めでたしめでたし。ジェットコースターストーリーに翻弄される庶民の心の揺れ、火事と富くじという江戸風情があいまって権太楼さんにぴったりでした~

次回は2月で、年4回開催予定だそうです。楽しみですね。
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ジュリエット通り

Bunkamura25周年記念/シアターコクーン・オンレパートリー2014「ジュリエット通り」  2014年10月

大好きな岩松了さんの作・演出。人の世に絶えない争いごとのタネ、「誰かを敵とみなす」とはいったい何なのか? セリフの断片から2重3重の意味を考えさせる。岩松節です。ジャニーズファン一色のシアターコクーン、前の方中央のいい席で1万円。休憩を挟んで約3時間。

セットはなんてことないリアルな住宅街だ。かたや日本家屋の縁側、かたやバルコニーがある洋館、そして2軒の間に路地「ジュリエット通り」。日本家屋に住む資産家・田崎昭一郎(風間杜夫)は、向いの娼館「枯淡館」に入り浸っている。若い娼婦スイレン(大政絢)を家に引き入れ、後妻スズ(高岡早紀)との間は微妙。息子・太一(安田章大)はそんな父に反発している。しかし収賄事件を契機に昭一郎の立場は暗転、近隣でネオナチめいた活動を展開する「ジープの一団」もからんで、不穏な空気が高まっていく。

劇中には家庭と娼館以外にも、いくつかの2項対立が登場する。客を取り合うダリア(池津祥子)と若手のサクラ(東風万智子、長身が綺麗)とか、母ボタン(烏丸せつこ)と暴走気味の娘キキ(超細い趣里、歌うのは「恋の季節」)とか。憎みあうわけでもないのに、なぜ両者は隔たってしまうのか。
不器用な市井の人々の愛憎劇にみえて、外人部隊志願の若者、「国防諮問委員会」が登場して今を意識させる。過去と現在が同居しているような時間の歪みに浮かび上がる、作家の鋭敏さ。「アンナ・カレーニナ」の脱力する駄洒落、そして架空のカレーを食べるシーンが、ささやかな一家団欒の幻を象徴する。

お馴染みのダンスシーンのほか、パネル状の鏡、風にあおられる古新聞、天井から振り注ぐ本水の雨など、いつになく大振りの仕掛けがたっぷりで変化に富む。出演陣は高岡が色っぽくて存在感抜群、風間は期待通りの曲者ぶりだ。若手はみな生真面目に健闘してたけど、切なさが今一つ。「ジュリエット」の逸話、未熟な若者の恋物語はさほど際立たなかったかも。ほかに渡辺真起子、裵(ペ)ジョンミョン、大鶴佐助、石住昭彦ら。

客席には宮藤官九郎、倉持裕の姿も。そういえば偶然にも、先日観た倉持さんの「靴」にイメージが重なる、いいシーンがありましたね。

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ジュリアス・シーザー

彩の国シェイクスピア・シリーズ第29弾「ジュリアス・シーザー」  2014年10月

蜷川幸雄演出のシリーズも大詰め。舞台いっぱいの大階段、実力俳優4人が長大なセリフで激突する男っぽい舞台だ。特に、一段とステップアップした印象の藤原竜也が出色。年齢層高めの彩の国さいたま芸術劇場大ホール、中央のいい席で9500円。休憩を挟み約3時間があっという間です。

登場人物は歴史上の英雄たちだし、戯曲の初演は400年前。しかし野心家たちの愛憎が歴史を左右していくさまは普遍的で、ちっとも古くない。つまりは実力が伯仲する同士が相手を認められるかどうか? この叙事詩は「繰り返し演ぜられるだろう」というキャシアスの予言が、いつの世も変わらない人の弱さを思わせて名ゼリフ過ぎる。松岡和子翻訳。

時は紀元前44年、ローマ。ジュリアス・シーザー(横田栄司)はポンペイを破って、人気実力とも絶頂だ。権力の集中に反発するガイアス・キャシアス(吉田鋼太郎)は暗殺を企て、信望あるマーカス・ブルータス(阿部寛)を説得して仲間に引き込む。そして運命の3月15日、元老院議事堂で血なまぐさい事件を決行。
動揺する民衆に、ブルータスは整然と自らの正当性を説き、支持を得る。しかしシーザー側近のマーク・アントーニオ(藤原)が、巧みに民衆を扇動して形勢は逆転。ブルータスはキャシアスとともに戦う悲壮な決意を確認し、シーザーの亡霊がさまようフィリパイでの戦闘に向かうが、敗れて自害する。アントーニオはブルータスの高潔を讃える。

俳優4人が反語、反復など、レトリック満載の台詞をスピーディーにぶつけ合う。特に藤原の演説シーンが圧巻だ。持前の突出した切なさだけでなく、声の高低などで野心とぎりぎりの切迫感、一筋縄でいかない屈折した人間像を生々しく表現。民衆を味方につけておいて、裏では富をわが手に握ろうと企んじゃうし。
屈折ぶりでは吉田も負けていない。野営のテントで愛するブルータスと激しく言い争うシーンでは、不安をむき出しにして椅子を投げたり、愛嬌爆発で観客にからんじゃったりして大暴れだ。対する阿部は、姿の良さと愚直な造形が悲劇の理想家にぴったり。でも、ちょっとはシーザーに嫉妬してたんじゃないかなあ。
横田は3人に比べると抑えめだけど、声や姿が威風堂々。ほかにたかお鷹、大石継太、丸山智己、松尾敏伸、星智也、中村昌也、山本道子ら。皆さん、長いマントの裾を翻したりして、ローマ人が似合いますねえ。

演出は俳優勢のパワーに焦点を絞り込んだ印象で、鏡とかフライングとかのニナガワマジックは無し。オープニングで皆がトレンチコートを脱ぎ棄てて、一気にローマ世界に入る見事さはいかにもだけど。舞台いっぱいに白い巨大な階段をすえて、V字型などの配置で人間関係を立体的に見せ、登ったり降りたりの不安定さもいい効果だ。人物は頻繁に通路を通って、客席をまるごと歴史の目撃者にする。
セットは大掛かりかつシンプルで、お馴染みローマを象徴する狼と双子の像や、戦闘シーンの巨大な月が印象的。また衣装の白と赤、さらに赤い血とのコントラストが不穏かつ鮮やかだ。

いや~、本当に充実していました! ポーシャ役だった中川安奈さんが降板後、急死されたのはとてもショックでしたが…

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講談「出世の大盃」「赤垣源蔵徳利の別れ」「木津の勘助」「徳川天一坊」

神田春陽真打昇進披露興行  2014年10月

お披露目の興行第一弾に駆けつけました。ちょっと遅れて宝井琴星さんの途中から。熱心なファンが集まった、お江戸日本橋亭で2000円。春陽さん、腕をあげた印象で、頼もしいです。

一龍斎貞花は保護司をしていることなどを紹介してから、おめでたく「出世の大盃」。冴えない足軽・三郎兵衛が、酒好きの藤堂高久の相手をして大盃「武蔵野」で豪快に呑み、さらにかつて2人が大坂の陣で出会っていたことがわかって出世する。黙阿弥作の歌舞伎演目のようです。さらさら喋るのに、味わい深い。巧いなあ。

仲入り後は口上。本人は頭を下げたきりで、周りが笑わせたり、師匠の羽織を着たきた神田すみれさんがしみじみさせたり。そして琴星さんによる手締め。
後半はまず、すみれが定番・義士銘々伝から「赤垣源蔵徳利の別れ」。素浄瑠璃で聴いたことがあるけど、兄弟の大人っぽい距離感がいい。

そしていよいよ春陽登場。「2席やります。1席で帰っても怒りませんよ、恨むだけ」と笑わせ、クライマックスシリーズの話題から「自分は今がクライマックスにならないように」と振っておいて、浪速の出世談「木津の勘助」。大店の旦那に落し物の財布を届けたみすぼらしい百姓・勘助が、墓石の上に置いていた無礼をずけずけたしなめると、旦那は率直に詫びてかえって意気投合。婿になって持参金なんと三千両を手にするという、痛快なストーリーだ。
はきはきした口調に磨きがかかり、声の強弱も心地いい。真の侠客・勘助は秀吉の家臣で、木津川の治水工事などを手掛けた人物とか。落語や浪曲にもなっているそうです。「出世の大盃」といい、講談にはこういう夢があるんですね。

そのまま続けて「徳川天一坊」へ突入。こちらは逆にお祝いらしくない気がするけど、大ネタというチョイスなのかな。紀州に住む男がふとしたきっかけで罪をおかし、吉宗ご落胤の証を手に入れて、坊主、山伏になって逃げ延びていく。波乱万丈のピカレスクロマンの冒頭部分を、迫力たっぷりに。コクーン歌舞伎の「天日坊」を思い出しながら聴いた。
表でご本人と、なんとジャージに着替えたすみれさんが見送ってくれました~
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実はお披露目興行に先立って、真打披露パーティーにもお邪魔してました。司会は宝井琴調(きんちょう)さん。翁家和楽社中のお囃子と獅子舞もめでたく、講談界はもちろん、大人気・喬太郎さんらの挨拶あり、さらには活動弁士・坂本頼光(らいこう)さんの爆笑「白い袋」ありと、とても温かい会でした。
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ペンギンプルペイルパイルズ#18 「靴」  2014年10月

作・演出倉持裕。演劇ならではの不思議体験が絶妙だ。不思議の国のアリスめいた冒険談でクラクラし、さらに切なさ、懐かしさがかきたてられる。
2012年に観た「ベルが鳴る前に」以来、2年半ぶりの劇団での新作。鎌塚氏シリーズなど劇団外のコメディも楽しいけど、やっぱりこのパラレルワールドはたまらないなあ。ザ・スズナリの中央あたりで4500円。休憩無しの1時間半。

物語は「靴」という共通の単語から、次々に呼び覚まされる記憶の断片のようなもの。女子高生の真知(金澤美穂)と理々子(愛名ミラ)は、事情があって、よく一緒に靴を買っている。真知の父(玉置孝匡)と靴店に出かけて道に迷ううち、夢の風景を探している青年(大和田健介)と出会う。その風景の中にある小学校で、上履き盗を見張る教師たち(近藤フク、小林)の滑稽なやり取りに、理々子の小学生時代の事件や、年ごろに成長した真知と彼氏(吉川純広)、家族(玉置、山田、ぼくもとさきこ)のエピソードがシンクロ。さらに殺人事件を追う刑事たち(玉置、山田真歩、小林高鹿)と、幻想的な面接官(小林)のシーンも絡まっていく。
反発しあいながら、実は仲がいい金澤と愛名がなんとも微笑ましい。「かぶらないようにしてね」という靴をめぐるやり取り、可愛いなあ。大和田も爽やかだし(大和田伸也の息子さんですね)。そしてもちろん、劇団の飛び道具キャラ、ぼくもとさきこや小林高鹿が期待通り達者に笑わせ、山田真歩は振幅の大きい刑事と母とを演じ分けて、いい味だ。

複雑かつ目まぐるしい展開を支える装置が秀逸。狭いステージを靴箱で囲み、床に空いた穴が縦に、また白い布を使った雪道が奥行方向に変化をつける。美術は中根聡子。面白かったです!

小指の思い出

小指の思い出  2014年10月

芸術監督・野田秀樹による1983年初演の初期代表作を、1985年生まれの気鋭・藤田貴大が演出する話題の舞台だ。よく入った東京芸術劇場プレイハウス、前の方の席で5500円。休憩無しの約2時間。

赤木圭一郎(勝地涼)は子供の時間を取り戻す薬(歯磨き粉)の広告に魅かれ、柏羽聖子(飴屋法水、青柳いづみ)と巡り合う。シーンはかつて赤木が通った「当たり屋専門学校」の情景、そして中世・ニュルンベルクで息子を犠牲にした女当たり屋と魔女狩りの物語に転じ、彼女の「妄想の息子」は1828年のニュルンベルクで地下牢に幽閉されていた、少年カスパー・ハウザーの伝説につながっていく。

「妄想しよう」「もう、そうしよう」とか、小指の指紋(自己)がほどけて空に舞い上がる凧の糸になるとか、独特の言葉遊びやめまぐるしく時空を跳躍する連想がてんこ盛り。難解な母子のストーリーで、正直、何が何だかついていけなかったところもあったけど、まずは体感する劇世界なのかな。
藤田は自作以外の演出は初めてという。今回は分かり易く伝えるというより、自分流にアレンジしつつ、詩情をそのまま見せている印象。広い舞台の後方でバンド(青葉市子、KanSano、山本達久)が生演奏し、俳優はダンスのようにテンポよく、ジャングルジムやワゴン車数台を登ったり降りたりする。舞台の一部をスクリーンに示す映像、そしてお馴染みの歌うようなセリフ回し、木枠を転がす装置もちらりと。
青柳が不思議な姿勢と饒舌で、全体を引っ張る。ほかに山中崇、松重豊ら。

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歌舞伎「寺子屋」「道行初音旅」「鰯売戀曳網」

十月大歌舞伎夜の部  2014年10月

十七世中村勘三郎二十七回忌、十八世三回忌の追善公演を観劇した。勘九郎、七之助兄弟が大奮闘だ。演目も変化に富んでいて楽しく、特に芸の継承を体現する「鰯売」が出色。休憩2回で約4時間。連休とあって遠方からのツアー客がいる一方、台風接近の影響もちょっとありそうな1F中ほどの席で、1万8000円。

まず「菅原伝授手習鑑」から王道の悲劇「寺子屋」。勘九郎が初役の武部源蔵、七之助が妻・戸浪で仁左衛門、玉三郎らの胸を借りる。菅秀才を救うため小太郎を手にかける勘九郎は、冒頭の「源蔵戻り」から思い詰めた感じ、玉三郎の松王丸女房・千代を斬ろうとするあたりで必死さが伝わってくる。「計画殺人にならないように」との勘三郎の教えを守って、切々と初々しく。七之助が巧いサポート。
銀鼠衣装の松王丸・仁左衛門がさすがの存在感で、「寺子検め」の笑い以降は苦悩が深まり、「首実検」へ。「泣き笑い」が圧巻だ。お元気そうでよかったです。ほかに御台園生の前に扇雀、春藤玄蕃は亀蔵。「待ってました」の声がかかった「いろは送り」の焼香が、ロビーの追善の展示と重なりました。

夕食を挟んで、「義経千本桜」から華やかな歌舞伎舞踊「道行初音旅」、通称「吉野山」。静御前は贅沢に藤十郎。さすがに声が弱いかな。そしてスッポンから登場する忠信は梅玉。雛人形風の振りや清元、竹本の賑やかな掛け合いが面白い。コミカルな半道敵(はんどうがたき)の早見藤太は、メークこってりの橋之助。ラストの立ち回り「所作立て」まで、様式美がおおらかだ。

そして休憩後に「鰯売戀曳網」。三島由紀夫の新作を歌右衛門の蛍火、十七世勘三郎の猿源氏で1954年に初演し、玉三郎と十八世が受け継いだという演目だ。
勘九郎はお父さんそっくりに、喜劇のテンポが良くて可愛いし、ちょっと切なさがにじむ持ち味が生きている。長身の七之助は声が凛としていて、恋する傾城と命令口調の姫という2つのキャラを行き来するあたりも、なかなかだ。
文楽で観たことがあるストーリーは、言ってしまえば他愛無い「紺屋高尾」だ。舞台は京都。傾城に一目惚れしちゃったしがない鰯売が、東国の大名に化けて廓に乗り込むと、実は傾城は元お姫さま。魚づくしの軍(いくさ)物語など、和歌の教養を織り込みつつ、思いが叶う終盤は、皆で「鰯こうえい(来い)」と唱和。2人がいちゃいちゃしながらの引っ込みまで、明るい展開で後味がいい。
博労六郎左衛門が獅童、父の海老名なあみだぶつは弥十郎、姫を探していた藪熊次郎太は市蔵。傾城たちは若手で巳之助(三津五郎の息子)、新悟(弥十郎の息子)、児太郎(福助の息子)、虎之介(扇雀の息子)、鶴松(勘三郎の部屋子)。

ロビーには追善の遺影と焼香の香り。演目も演者も、後味の良い公演でした。

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パルジファル

パルジファル  2014年10月

話題の新国立劇場2014/2015シーズン、オープニング公演に足を運んだ。本場バイロイト音楽祭で約20年も音楽助手を務めた飯守泰次郎が、芸術監督就任第一作として満を持し、ワーグナー最後の舞台神聖祝祭劇「パルジファル」を指揮。なんと45分、35分の休憩2回を含めぴったり6時間の超大作だ。実力派のワーグナー歌手が揃い、美しい舞台が見事に音とシンクロして、深い感動に包まれる。ん~、上質なファンタジー。
METライブビューイングのカウフマン、パーペらドリームキャストで観た演目だけど、もちろん実際の舞台での鑑賞は充実感が違う。さらにベルリン生まれの巨匠ハリー・クプファーの新演出は知的で、見どころが多い。東京フィル、合唱団は新国立劇場プラス二期会。お約束ワグネリアンやお洒落した年配夫婦ら、よく入ったオペラハウス中央、通路に面した特等席で2万9160円。

ワーグナー独特のアジテーションは少ないものの、「聖杯の動機」「聖餐の動機」など、うねり、包み込むようなオケが素晴らしい。個人的には管楽器が高らかに盛り上がった直後に、繊細な余韻を与える弦の響きが好み。
歌手陣は新国立初登場が多くて、粒ぞろいだ。飯守人脈なのかな。特に2幕。クンドリーのエヴェリン・ヘルリツィウス(ソプラノ、ザクセン州宮廷歌手だそうです)が、1幕の必死に奉仕する女から一転、妖艶な赤や緑のドレスでパルジファルを誘惑。さらに、かつて大衆に流されてしまったことによる輪廻の呪いの痛切な告白へと、振幅が大きくてドラマティックだ。タイトロールのクリスティアン・フランツ(ミュンヘン生まれのテノール)は1幕の子供っぽい「阿呆」から官能体験で成長し、世の矛盾を悟る「共苦」へと覚醒して、伸び伸び。個人的には2007年のトリスタンや2010年のトーキョーリングでお馴染みの歌手だ。逆恨み男クリングゾルのロバート・ボーク(シカゴのバリトン)も力強くて格好いい。
語り部グルネマンツは白髪・髭が貫禄のジョン・トムリンソン(英国のバス)で、歌いっぱなしの1幕、3幕を全うして大きな拍手を浴びていた。過去の過ちに苦悩し、終始倒れ伏しているアムフォルタス王はエギルス・シリンス(ラトヴィア出身のバスバリトン)、そんな息子を責めちゃう先王ティトゥレルは長谷川顕(バス)。

演出は排他的なエリート組織が内部から崩壊し、主要キャストは生きて救済の旅を続けるという解釈なのかな。広いスペースを存分に生かした装置がとにかく秀逸だ。
舞台奥から前方まで、一面LEDの曲がりくねった「光の道」が流れていて、色彩と抽象映像で場面の変化を表現。特に救済の緑が鮮やかだ。旋回する巨大な尖った橋「メッサー(ナイフ)」が不安や高揚を3次元に構成し、転調が壮大な聖餐式のシーンでは、迫力の大ゼリと紗幕が幻想的だ。
要所要所を見守る3人の僧侶が不思議。オレンジの袈裟が重要な役割を果たしちゃうし。「門外不出」で、ニーチェに攻撃されたという堅苦しさを、聖杯やら純潔騎士団やらの世界で完結させないことで、普遍性に昇華させたということか。
花の乙女はダンサーで、歌手はピットに。子役も大活躍です。字幕は三宅幸夫。

1幕目にも普通に拍手とカーテンコールがありました。そして長い休憩にはレストラン「マエストロ」の特別メニューのほか、ホワイエでドイツビールやJR東海協賛の新幹線50周年記念弁当の販売も。ちなみにこの大作で、知人に2組も会ったのにはびっくりでした~
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今回は観劇に先立って、オペラトークにも参加した。ピアノと椅子を置いたホワイエで1500円。
まず音楽評論家・舩木篤也さんが解説。本作は宗教儀式みたいだけど、意外に善悪が混沌としていること、など。後半は飯守さんとの対談になり、準備に2年かけ、今は毎日8時間練習していること、謎めいたテキストは「時間が空間になる」アインシュタインとか、フロイトとかを先取りしていること、ワーグナーは聴く者の心理を操作することに優れているが、本作はより内面的であること、など、ワーグナー愛が溢れていて面白かった。最後にカバーの大沼徹(バリトン)が「憐れみたまえ」、アルトソロも務める池田香織(メゾ)が「幼子のあなたが…」を披露し、充実してました。

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社長吸血記

ナイロン100℃42nd SESSION「社長吸血記」  2014年10月

作・演出ケラリーノ・サンドロヴィッチ。うらぶれたビルの屋上のワンセットで、何やら反社会的ビジネスを営む会社の群像をシュールに。本多劇場の中央前寄りで6900円。休憩無しの2時間半弱。

この劇団では大河ドラマ風の「百年の秘密」「わが闇」が印象的だったけど、今回はかなりナンセンスだ。「フローズン・ビーチ」路線なのかな。
社長が失踪してしまって、混乱気味の会社を舞台に、一見平凡な社員たちが、あくどいトラブルやら愛憎やらを繰り広げる。細かい笑いを散りばめつつも、かなりブラックな味わいだ。
間に元社員らしき老人たちが集まってきて、再び会社を始めようとする幻想的なエピソードが挟まる。全体のつながりは不明で、ちょっと消化不良だったかも。

お馴染み三宅弘城、大倉孝二、みのすけ、犬山イヌコ、峯村リエらが2つのストーリーを演じ分け、不条理なセリフを達者にこなす。キャラそれぞれの印象は薄めだけど。客演で、裏のある女性社員の鈴木杏が確かな存在感。隣のビルに住む男と、ロッカーを出入りする調子っぱずれの探偵という2役の山内圭哉が、飛ばしていた。ほかにお笑いコンビのかもめんたるも。

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DREAMS COME TRUE CONCERT TOUR2014

AEON presents DREAMS COME TRUE CONCERT TOUR2014-ATTACK25-  2014年10月

デビュー25周年記念ツアーに足を運んだ。吉田美和の驚異的に変わらない前向き少女オーラでニコニコする。冒頭、中村正人が「有名な曲はやりません」と宣言して、3年9カ月ぶりのニューアルバムの全曲、プラス懐かしいナンバーで構成。年齢層高めの国立代々木競技場第一体育館、2F席で8100円。2時間半。

以下ネタバレ注意です。

セットはアリーナ中央、縦に長~いステージを据え、ダンサーと共に走ったり、サイドステージをスライドさせたりして客席に近づくスタイル。中ほどに上下するバンドスペースがあり、4面巨大モニターに歌詞も映して親切だ。開幕までモニターにクイズを出題し、アップにされた観客が答える遊びで盛り上げる。

前座は無しで、いきなりドリカム登場。イギリスをイメージさせるチェック柄の衣装だ。オープニング2曲はファーストコンサートと同じだそうで、滑り出しは懐かしい曲が中心。デビューアルバムの「それでも恋は永遠」でお約束、サビの振付を会場と一緒に。デビューシングル「あなたに会いたくて」がリズムが効いていて格好いい。久しぶりにコーラスの浦嶋りんこが加わっていて、「悲しいkiss」を本間将人のサックスと歌い上げる。
インターバルではモニターに吉田が可愛いデビュー前からのライブ映像、そして天井からおろしたスクリーンに「ATTACK25」のイメージキャラ、黒アイマスク2人組のアニメが流れ、キャラそのままにブラックスーツに着替えたドリが再登場。パトカーサイレンや、ドラムSATOKO、ギターJUONのソロをまじえて、「軌跡と奇跡」などをがんがん聴かせる。
吉田が中学生時代に作ったという「あなたにサラダ」の続編「あなたにサラダ以外も」をアカペラから。襖を閉める振りが揃ってました。「monkey girl - 懺鉄拳 -」では中村が「いつも吉田の書くベースが難しくて、今回、ライブでは4回しか成功してません」と笑わせる。
潮騒のイントロから、名曲「fall falls」でしんみり。そして本編終盤は「愛がたどりつく場所」「さぁ鐘を鳴らせ」など、怒涛の5曲連続応援ソングでねじ伏せる。王道だけど、やっぱり感動します。

アンコール前にまた、モニターで客席を順にアップにする趣向。年配女性や子供が照れるのが微笑ましい。ひとしきりウエーブをして待つと、着物姿、巨大髪飾りのFUNK THE PEANUTSが登場! うきうきさせてから、吉田が全国の会場限定TシャツをパッチワークしたTドレスに着替え、「心をこめて」と語って「サンキュ.」を熱唱。ラストは会場にゴムボールを投げ入れて、中村がエクササイズの振付で〆てました。
あ~、楽しかった。来年はワンダーランドだ!

以下セットリストです。

1. approach
2.
カ・タ・ガ・キ
3. made of gold
4.
愛して笑ってうれしくて涙して
5.
この街で

6.
それでも恋は永遠

7.
あなたに会いたくて

8.
悲しいkiss

9. the chance to attack with music

10. one last dance, still in a trance

11. i was born ready!!
 

12.
軌跡と奇跡 

13. more like laughable

14.
あなたにサラダ以外も

15. monkey girl -
懺鉄拳 - (懺鉄拳の懺は懺悔の懺)
16. fall falls
17.
愛がたどりつく場所 

18.
想像を超える明日へ

19. my time to shine

20.
さぁ鐘を鳴らせ

21. again

encore

22.
メドレー(ハイッ!ハイッ!ハイッ!ハイッ!→恋の罠しかけましょ)

23.
サンキュ.

24. happy happy birthday

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立川談笑「金明竹」「時そば」

「秋の夜長に聴く落語 立川談笑が大手町でヒソヒソ」  2014年10月

イベントで立川談笑さんの落語会。羽織姿の司会から紹介があり、師匠が登場。勾配のない会場だと182センチの長身がよくわかる。
大手町と対比して下町出身だということ、松任谷正隆に下町言葉を披露してひかれた、地元での落語会に友達が大勢きた、ロケで遭遇したのんびり食堂などのマクラから、落語のヒーローは与太郎、と振って「金明竹」を短めに。後半、加賀屋佐吉方の遣いの口上は、通常関西弁のところをなんと津軽弁バージョンです。ゆっくり喋るんだけど、全くヒヤリングできません。必死にわかった振りをする女将さんが面白い。
続いて早大法学サークルの後輩という司会とのトークショー。1席目の「金明竹」を本場青森で演じて大受けしたこと、大学のスペイン語の撃墜王、早明戦や居酒屋でのやんちゃ話、バイトしながらの司法試験チャレンジ時代、人権意識から噺家に転じた、談志さんの暴言の思い出、暗記が得意で真打昇進の傾向と対策を研究、などなど、バックグラウンドがわかるエピソードがたっぷり。理屈っぽいところは立川流らしい。
休憩後に「佃」の出囃子で2席目。古典をそのままやっても現代には通じないと、自身の改作「薄型テレビ算」や「イラサリマケー」を紹介してから、割とマイルドなレパートリーで「時そば」。2010年に聴いて以来だ。明朗な語り口に、お馴染み中野の立ち食い蕎麦や時事ネタ、ブラックジョークをふんだんにまぶしていて笑える。え、うどんみたいって?蕎麦屋なんだから蕎麦だ、と定番の自虐ギャグも。
落語に馴染みがない聴衆が多いとみての、安定感優先の高座だったかな。これを機に談春や志の輔、寄席へどうぞ、と真面目に締めてました。

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