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文楽「双蝶々曲輪日記」

第一八八回文楽公演第一部「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)」  2014年9月

9月公演の第1部は通し狂言「双蝶々曲輪日記」。喧嘩上等の力士2人の男気、窮地を救おうとする家族の情を描く世話物だ。素浄瑠璃で「引窓」を聴いたことがあり、今回は充実の配役、プラス文楽には珍しく前向きな幕切れで、気持ちよく楽しんだ。満員御礼の国立劇場小劇場、中ほど下手寄りで6700円。2回の休憩を挟んで、たっぷり4時間半。

幕開けは小屋前の「堀江相撲場の段」からで、松香大夫ら。人気力士・濡髪長五郎(玉也)が素人力士の放駒長吉(幸助)に勝ちを譲り、贔屓筋の山崎与五郎が恋人・吾妻を身請けできるように計らって、と頼むけど、物別れになる。茶碗を握りつぶしちゃうとか、力自慢の達引が面白い。
続けて「大宝寺(だいほうじ)町米屋の段」は奥の津駒大夫に、三味線で寛治さん休演につき、なんと寛太郎くんが堂々と。頼もしいなあ。搗(つき)米屋で長吉は相変わらず悪友と呑んだり、訪ねてきた長五郎と斬りあいかけたり。しっかり者の姉・お関(勘弥)が、箪笥に盗みの証拠を仕込む芝居までうって、諌める。長吉は詫び、諭してくれた長五郎と義兄弟に。同行衆の尼妙林(文昇)が特殊なカシラでコブをつくったり、長五郎に熱を上げたりして面白い。
そして荒涼とした「難波裏喧嘩の段」は、津国大夫らの掛け合いで。吾妻(清十郎が端正に)と廓を逃げ出した与五郎(文司)を、郷左衛門(文哉)らが捕えてなぶる。駆けつけた長五郎が悪者を手にかけてしまい、長吉が逃がす。

25分のランチ休憩の後は、切場語りの豪華リレーだ。人形も総出! 「橋本の段」で、お待ちかね渋い嶋大夫、錦糸がタッグを組み、1時間強を語り抜く。情がこもります。舞台は与五郎の本妻・お照(一輔)の実家。里帰りしているお照、図々しくも頼ってきた逃亡者・与五郎と吾妻を巡って、離縁を迫るお照の父・治部右衛門(玉女)と、それを止めたい与五郎の父・与次兵衛(勘壽)が争うが、吾妻の父・甚兵衛(勘十郎)が割って入って、何とか協力し、子供たちを救おうとする。

10分の休憩を挟んでいよいよ「八幡里引窓の段」。こちらは長五郎の顛末だ。端場の「欠け椀」は明朗に呂勢大夫、清友。長五郎が久々に母(紋壽)と嫁おはや(可愛く簑助)の家を訪ねてくる導入だ。
そして切は、咲大夫が緩急自在に。燕三さん、元気になってよかったなあ。時は石清水八幡宮の放生会の待宵。めでたく代官となった長五郎の異父弟・十次兵衛(和生)が、皮肉にも長五郎探索を手伝う羽目になる。2階から様子を伺う長五郎の姿が手水鉢に映ったり、明かりとりの開け閉めで時刻を読み替えたり、ドキドキの展開。母の切ない思い、見逃そうとする弟、義理を通したい兄と、クドキもたっぷり。最後は目印のほくろを取って逃げ延びていく。起伏があるなあ。

プログラムには源大夫さん引退の挨拶が載っていて、大夫の紹介ページではついに、最上段の人間国宝が空欄になってしまい、寂しい限り。それでも1部の古典の充実、そして3部の新作へのチャレンジと、工夫がある。応援していきたいです!

今回は開演前に楽屋と舞台を見学させてもらう機会があり、興味津々。何もかもが小ぶりなんだけど、床にはさすがに緊張感が漂う。濃密ですね。

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