火のようにさみしい姉がいて
シス・カンパニー公演 火のようにさみしい姉がいて 2014年9月
1978年初演の清水邦夫の戯曲を、盟友・蜷川幸雄が初演出。確かなものは何ひとつない詩的なホンと、なんと5月以降、毎月観ているニナガワワールドとのコラボを堪能する。2大女優の初対決も話題の舞台。なんといっても母を亡くしたばかりの宮沢りえの、透明な存在感には凄みさえ漂っていた。休憩を挟んで2時間15分。
俳優の男(段田安則)がすっかり日々に疲れて、20年ぶりに妻(宮沢)と故郷に帰る。この2人、そもそも妊娠という幻想を共有していて危うい。立ち寄った床屋の女主人・中ノ郷の女(大竹しのぶ)が姉だと名乗るが、男にそんな覚えはなく、精神の混乱が深まり、追い詰められていく。
すべては男の脳内幻想なのか。まるで「オール・ザット・ジャズ」のようだ。うらぶれた昭和の床屋という狭いワンセットに、繊細な不条理世界が展開する。効果的に繰り返される「オセロー」のセリフが、男の焦りとか、女優を辞めた妻への後ろめたさとかを思わせ、さらに老女が売り歩く「毒消し」やシバタサーカス、降りしきる雪、でかい汽車といった、故郷・新潟のイメージが錯綜。長く顧みなかった家族に対する罪の意識が積み重なる。切ないなあ。
宮沢は混乱する夫をかいがいしく世話する。唐突にバナナを食べさせたりするんだけど、ナチュラルだ。一段と細身で、声も凛としていて、圧倒的に美しい。またひとつ、伝説を作ったのかな。
段田は容赦なく錯乱を演じて、舞台を牽引。大竹は母であり、許されざる女であり、どちらかというと我慢の演技だけど、計算された視線や独特の低いセリフ回し、カミソリを研ぐ仕草などで着実に緊迫感を高める。とても7月の「抜け目のない未亡人」コンビとは思えません。さすが実力派。
ほかにコミカルな女装の「みをたらし」に山崎一、美容室の見習は西尾まりと達者揃い。舞台助手の満島真之介がみずみずしく、さらに弟と名乗る「スキー帽」に平岳大、故郷の人々は中山祐一朗、市川夏江、立石涼子、新橋耐子。キャストが豪華過ぎます。
セットは冒頭の楽屋と床屋に、鏡を並べて重ね合わせ、さらに紗幕で舞台手前と奥にシーンを並列させて、心の迷宮を表現。幻惑的な美術はいつもの中越司。幕切れのデモの残響がちょっと唐突だったけど、学生運動の挫折というテーマを表すのかな。
開演前、普通にロビーでお茶を飲んでいた平幹二朗さん(客席ではほかの観客を、ちゃんと立って奥に入れてあげてた)をはじめ、池田成志、草刈民代、蒼井優と、観客もびっくりの豪華ぶりでした!