おとこたち
ハイバイ「おとこたち」 2014年7月
昨年「て」を観た岩井秀人の作・演出。劇団ハイバイの新作は2年ぶりとか。これはオススメですね。向田邦子を思わせる半径3メートルの人生の苦さは、前作と共通する雰囲気だけど、視点がぐっと多様になった感じだ。「老いのリアル」というテーマを扱ったせいか、笑いが多くて、後味が深い。進化し続けているんだなあ。若者が多い東京芸術劇場シアターイースト、上手寄り前のほうでお得な3500円。休憩なしの約2時間。
80代になった山田(菅原永二)の混乱した脳裏に、学生時代からの友人4人組のしょうもない思い出がフラッシュバックする。心優しい山田はクレーム処理でこつこつ働くけど神経をすり減らし、鈴木(声のいい平原テツ)は製薬会社のやり手営業マンだが子供に手ひどく裏切られ、森田(岡部たかし)はフリーターのくせに愚かな不倫でずぶずぶ、太っちょ津川(用松亮)は戦隊もので人気を得た俳優だけど、実はアル中。
平凡に暮らしたいだけなのに、なぜ思い通りにならないのだろう。夢なき世代のしらじらとした老境が胸に染みる。友人に語っていることと真実との間には、ときに微妙、ときに決定的なズレがあって辛辣だ。だけど描き方が冷静だから、決して絶望的ではない。
段差のあるシンプルなステージで、前方にカラオケボックスのテーブルセット。ところどころマイクを使った歌(「太陽と埃の中で」がテーマにはまる)とナレーション、映像を挟んで、20代からの半世紀を寸劇風にテンポよく綴っていく。部下との徹頭徹尾かみ合わないやり取りとか、ゲームセンターの「シルバー割」への無性な苛立ちとか、年金繰り下げに感じる国家的陰謀とか、会話の細部に説得力があって、可笑しい。病を得て、テレビに向かいポリポリせんべいを齧る妻、その背をぼんやり眺める夫のシーンが、すぐ近くにいるのに遠くて切ないなあ…
俳優陣はメークに頼らずに、年齢の変化を見せていて巧い。特に鈴木の息子も兼ねる用松がいい存在感だ。安藤聖は森田の不倫相手&鈴木の妻と、シビアな役だけど、やっぱり可愛くて好き。ほかに永井若葉と岩井。先行特典で配られたオリジナルのポストイットが微笑ましかったです。
« リヨン歌劇場「ホフマン物語」 | トップページ | 抜目のない未亡人 »
「演劇」カテゴリの記事
- 私を探さないで(2025.10.13)
- ここが海(2025.10.12)
- 最後のドン・キホーテ(2025.09.23)
- みんな鳥になって(2025.07.18)
- はぐらかしたり、もてなしたり(2025.07.02)

コメント