七月大歌舞伎「正札附根元草摺」「夏祭浪花鑑」
七月大歌舞伎 2014年7月
熱波とスコールの夏の日、歌舞伎見物に出掛けた。市川海老蔵がテンポよく躍動し、後味が良い。浅はかで哀しいキャラが生きるなあ。歌舞伎座昼の部、1階後ろ寄りの花道そばで1万8000円。休憩2回を挟んで約4時間。
幕開けは「正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)」。舞台後方に長唄囃子連中が並ぶ舞踏劇だ。曽我ものとあって舞台いっぱいの富士山と紅白の梅がおめでたい。
仇・工藤との対面に駈け出そうとする五郎(若々しい市川右近、蝶模様)を、女形バージョンで朝比奈の妹・舞鶴(笑三郎、鶴模様)が、鎧の草摺を引いて制止する「引合事」。二畳台に乗って登場する冒頭が華やかだ。荒事らしい力比べのあと、舞鶴が一転、髪の力紙をとってクドキにかかるのが面白い。
休憩の後、お楽しみ「通し狂言 夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」。勘三郎さんのコクーン版や文楽でも観た、任侠に生きる庶民男女の熱いドラマだ。今回は珍しいお鯛茶屋の場から。団七の女房お梶(吉弥)が、傾城琴浦(尾上右近がきれい)に入れあげる磯之丞(コミカルに門之助が達者)を屋敷に帰そうと、徳兵衛(猿弥がいい味)を使ってひと芝居うつ。チャリ場の楽しさと共に、人間関係がよくわかり、磯之丞の小物ぶりが後段の無常を引き立てる。
続いて住吉鳥居前の場。釈放されてすぐは俯いて、ぼそぼそ喋っていた団七(海老蔵)が、浴衣に着替えて颯爽と再登場するシーンが鮮やか。細身が形よく、下駄を鳴らして歩くだけで意気がる心根が伝わる。スターだなあ。癖のある声もあまり気にならない。倅・市松をおんぶするシーンは微笑ましくて、ニコニコしちゃう。線が細い分、危うさがあって、後の破綻を予感させる。
ランチ休憩を挟んで二幕目はまず三婦内の場。顔に疵をつけてまで女をたてる徳兵衛女房お辰は、意外な配役の玉三郎。まさに凄みのある美人だけど、伝法というよりすっきりした印象だ。世話にくだけるとか、引っ込みのキメ台詞の微妙な軽みとか、難しい役ですね。深く腰を折った義平次は、なんと新歌舞伎座初登場の中車。次の場のメークと共に、ちょっと怪演過ぎか。
続く長町裏の場でいよいよ団七が義平次を殺めちゃう。暗闇に映える彫物、リアルな泥や水、高揚する高津宵宮の灯、だんじりの掛け声とのコントラストなど、何度見ても見せ場がたっぷりですね。油殺の若い身勝手とはまた違う、愚かさの悲劇。海老蔵に色気があり、激しく動揺しながら神輿の列について花道を引っ込むところが、情けなくて哀しい。
大詰の田島町団七内の場、通称「蚤取り」では徳兵衛、三婦(愛嬌あるベテランの味、左團次)がなんとか団七を救おうと、侠客の心意気を見せる。屋根上の場ではお約束立ち回りの後、定式幕をひいて団七が花道で見得を切り、花道を必死で逃げのびていく。
安倍首相とケネディ駐日大使も観劇したとか。良かったです!