海辺のカフカ
海辺のカフカ 2014年6月
2002年刊行、ニューヨーク・タイムズ紙で2005年ベスト10に選ばれた村上春樹の原作を、蜷川幸雄の演出で。2008年にシカゴで舞台化した折のフランク・ギャラティ脚本、平塚隼介の翻訳という逆輸入バージョンだ。2012年以来の再演で、2015年にロンドン、ニューヨーク上演が予定されている話題作でもある。赤坂ACTシアター、前のほうやや上手寄りで1万1000円。休憩を挟み3時間45分。
「世界で最もタフな15歳」田村カフカ(新人の古畑新之)は、父と決別して東京・野方の家を出、高松の私設図書館に身を寄せる。道中に美容師さくら(鈴木杏)と、また図書館では管理にあたる佐伯(宮沢りえ)、司書の大島(藤木直人)と出会う。一方、猫と話せるナカタさん(木場勝己)は、謎の男ジョニー・ウォーカー(新川将人)を殺すはめになり、星野(高橋努)のトラックに乗って四国へ向かう。やがてカフカとナカタさんの運命がシンクロしていく。
フランツ・カフカ、ギリシャ悲劇を思わせるエピソードや、半分しかない影、「入口の石」。意味深な暗示が盛りだくさんで、特に謎解きはないままイメージが放り出される。確かなのは登場人物誰もが、容赦ない暴力に遭遇し、深く傷ついていること。こんなにも理不尽に満ちた世界を、果たしてカフカは生き延びるのか。
広く暗い舞台に、透明アクリル板でできた大小の箱を人力で出し入れしてシーンを作る。ある箱は書斎、ある箱はサービスエリア、ある箱は樹木が茂る深い森。狭いところに閉じ込められた登場人物たちの、行き場のなさがくっきりする。シガー・ロスなどの音楽、節目にチェンバロや和楽器の演奏を挟むが、全体にはひどく静謐な印象だ。残酷だったりセクシーだったりするのに、透明感があって、風に膨らむ白いカーテン、終盤で舞台いっぱいに降り注ぐこぬか雨が美しい。美術は中越司。
俳優陣は宮沢の歌以外、マイクを使わずに健闘。木場に終始、確かな存在感があり、コンビを組む高橋が伸び伸びといい味。小柄で弱々しい古畑は、迷い続けるカフカを表現し、分身カラス役、柿澤勇人の若者らしさといい対比だ。宮沢は期待通り、たおやかで美しい。前半ほとんど出番がないのが贅沢です。カーテンコールの引っ込みで、宮沢が古畑にちょこんとお辞儀させるのが、親子っぽくて微笑ましい。たださすがに、ちょっと長かったかな。演劇で語るには、イメージが豊富過ぎるのかも。
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