ビッグ・フェラー
ビッグ・フェラー 2014年6月
偶然にも2週連続でアイルランドものを観る。1956年英国生まれのリチャード・ビーンによる2010年の戯曲を森新太郎の演出で。精神の閉塞と排他性が、いかに救われないか。緊張感ある王道の大河ドラマだ。小田島恒志訳。浦井ファンらしき女性が目立つ。世田谷パブリックシアター2F席で7500円。休憩を挟み約3時間。
1972年の「血の日曜日」から98年の和平合意を経て2001年まで、ニューヨークでIRA地下活動に携わる男たちの30年。大立者コステロ(内野聖陽)はアメリカンドリームを掴み、純な消防士マイケル(浦井健治)は移民として自らIRAに加わったものの、恋人の死を契機に揺れ始める。アイルランドから逃れてきたお調子者ルエリ(成河=ソンハ)は、ニューヨークで人生を再構築しようとする。それぞれの苦しい選択から、年月の重みや、アイルランドにとどまらず連鎖するテロの虚しさ、正義の不確かさを描く。自由の国で大統領を輩出したアイルランド系社会が、裏ではテロを支え、中東紛争ともつながっていた現実。
シビアなストーリーだけど、テンポがよくて、笑いも多い。男同士の下ネタ満載の悪ふざけに、クラブ活動みたいな無邪気さと色気が漂う。やたらビールを飲むし。それだけに後半冒頭、田舎のおっちゃんにしかみえない幹部フランク(渋く文学座の小林勝也)がふるう唐突な暴力が、テロ組織の正体を見せつけるようで衝撃的だ。またラスト、おそらくこれから9・11の現場に赴くであろうマイケルの、ごくごく平凡な朝食風景が、皮肉で哀しい。
俳優陣は安定感があり、内野はマフィア風の格好よさ、そして長台詞のセント・パトリックス・デイ演説で圧倒する。ちょっと正当派過ぎるかもしれないけど。成河は相変わらず、声と動きに張りがあっていい。奇妙な訛りがだんだん洗練されていくあたりが巧くて、はまり役だ。2人に比べると浦井は抑えた演技だけど、雰囲気がある。三谷、蜷川、野田と、けっこう観ている人なんだなあ。ほかに謎のカギとなる美女カレルマに町田マリー(毛皮族)、怜悧なマイケルの恋人エリザベスに色っぽい明星真由美(氣志團のマネジャーもしていたという変わり種)、無骨な警官トムに黒田大輔(元THE SHAMPOO HAT)、声の出演は大谷亮介ら。
森演出は3月に観たイプセン「幽霊」のようにスタイリッシュではなく、リアルで丁寧だ。かつてアイルランドものの「ロンサム・ウエスト」も演出してたんですねぇ。セットの大部分を占めるマイケルのアパートは、時の流れとともに家具を入れ替えていて、きめ細かい。照明の変化が印象的で、奥のバスルームはラストで重要な謎をはらむ。一部マイク使用。プログラムは北アイルランド紛争やイエーツなど、背景の解説が充実してました。
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