METライブビューイング2013-14第10作「ラ・チェネレントラ」 2014年6月
今シーズンライブビューイングの締めくくりは、古風で能天気、イタリア版松竹新喜劇とも思えるロッシーニ作品を、「オリー伯爵」でも観た黄金コンビ、ディドナート&フローレスで。ファビオ・ルイージの指揮で、休憩1回を挟み3時間半。東劇の通路少し後ろで。上演日は5月10日。
2009年に新国立劇場のシラグーザで聴いた、童話シンデレラをベースにした演目だ。王子ドン・ラミーロ(ファンディエゴ・フローレス、テノール)が従者ダンディーニ(ピエトロ・スパニョーリ、イタリアのバリトン)と入れ替わっていて、チェネレントラ(ジョイス・ディドナート、メゾ)も舞踏会に仮面をつけて現れ、お互いに素性を知らないまま恋に落ちる。チェネレントラはとても善良でしっかり者の造形だ。対するパパ(アレッサンドロ・コルベッリ、イタリアのベテランバリトン)と姉たち(ソプラノのラシェル・ダーキン、メゾのパトリシア・リスリー)は愚かな打算のドタバタを繰り広げて可笑しい。
言ってしまえばベタなロッシーニ節を、歌手陣の力で聴かせる。フローレスはやっぱり、張りのあるベルカントが抜群。実は休演していたが、ライブビューイングにはしっかり間に合わせたそうで、2幕「あの娘を探し出してみせる」の高音を軽々決めて鳴りやまない拍手に再登場してた(アンコールは無し)。ディドナートは大詰めの大アリア「悲しみと涙のうちに生まれ」など、全編で超絶技巧を披露。ただ幕間のインタビューによると、この出世作も歌い納めらしい。さすがに幼すぎる設定なので、昨年の「マリア・ストゥアルダ」のような役にシフトしていくのかな。
新国立の「愛の妙薬」も手掛けたチェーザレ・リエーヴィの演出は、ポップ。ちょっと退屈な曲の繰り返し部分を、傾くソファーや登場人物を束ねちゃうリボンなど、動きのある笑いで埋めていく。白塗り、頬紅姿でわかりやすく道化に徹した脇役たちが、難しい早口の歌と演技をこなし、隙がない。なかでも後見人アリドーロのルカ・ピザローニ(ベネズエラ生まれのイタリア人、バスバリトン)が、すらりとして美声だし、突然天使になっちゃうし、チャーミングだ。2011年の「ドン・ジョバンニ」従者役でも、格好良かった人ですね。要注目。おじいちゃんコルベッリや2人の姉は、息が合っていてコメディをエンジョイしてる感じ。聴衆もよく笑ってました~
解説者で対照的なワーグナー歌手、デボラ・ヴォイトと歌手陣のやり取りも軽妙だった。来シーズン予告では定番演目にまじって、馴染みのない2本立て公演や、新進スターもあり、秋以降も楽しみです! 客席にはドナルド・キーンさんらの姿も。