慙紅葉汗顔見勢(伊達の十役)
明治座五月公演 五月花形歌舞伎 夜の部 2014年5月
市川染五郎が「十役早替り宙乗り相勤め申し候」と銘打っての、大奮闘公演だ。演目は「慙紅葉汗顔見勢(はじもみじあせのかおみせ)」、通称「伊達の十役」。三代猿之助四十八撰の内ということで、7世団十郎・4世南北コンビで大当たりした幻の狂言を、1979年に現猿翁が絵番附などから164年ぶりに復活させたもの。50回近い早変りなどケレン満載で、歌舞伎らしさぎっしりで楽しい。花形・染さん41歳が、連日のフルマラソンで座頭のチャレンジ精神を発揮。もっとアクの強さ、役ごとのメリハリが欲しいところだけど。
私にとって初めての明治座、中央あたりで1万2600円。連休で空席があるものの、小さめの空間で、ロビーに売店がいろいろあって、芝居小屋らしい雰囲気がいい。30分の休憩2回を挟んで5時間弱。
幕開けは口上。染五郎がパネルで善悪に分けた十役を解説しちゃって、発端・稲村ケ崎の場へ。暗闇に鼠が出てきて怪談風だ。赤松満祐の亡霊(染)が、足利家乗っ取りを狙う悪党・仁木弾正(染)に妖術を授ける「術譲り」。忠義者の与右衛門(染)が、妖術を破る古鎌を手に入れる。
そして序幕第一場・鎌倉花水橋の場は人物紹介。土手の道哲(染)が弾正に加担し、足利頼兼(染)はなんと伽羅の下駄を履いて悠然と廓に向かう。意外にやくざ坊主が楽しそうで生き生き、そこから粋な殿様への変身も面白い。
第二場・大磯廓三浦屋の場からは華やかに。頼兼が殿の隠居を狙う敵の計略とも知らず、紅葉の打掛が美しい高尾太夫(染)を身請けしようとするところへ、腰元・塁(染)、善玉・民部之助(亀鶴)や悪玉・鬼貫(吉之助)がからむ。染さん、さすがに傾城はごつくて無理があるかなあ。
第三場・三浦屋奥座敷の場は菖蒲が咲き、舟に見立てたキッチュなセットだ。殿を救おうと与右衛門が、高尾太夫を手にかける。障子を使って切る側、切られる側を一人でスピーディーに演じるのが見事。さらに花道ですれ違いざま、一瞬で道哲と交代! かつて猿之助で観て、衝撃を受けた趣向だ。拍手。新造役の米吉(歌六の長男)が丸顔で可愛い。
続けて二幕目・滑川宝蔵寺土橋堤の場は、まるっきり四谷怪談だ。塁に高尾太夫の霊が乗り移って顔が崩れ、頼兼の許嫁・京潟姫(壱太郎)に襲いかかる。やむなく再び与右衛門が手にかけて、川に落としちゃう。凄惨な展開だけど、幕切れは頼兼、弾正、道哲、局・沖の井(高麗蔵)が加わって「だんまり」となり、早替りを繰り返して、花道を小舟で引っ込む。藤十郎の孫の壱太郎くんが、首が細長くてお姫様らしく、声もよかった。
休憩後は一転、重厚で古風な時代物「先代萩」。亡き芝翫さん、最近では藤十郎さんで観たエピソードだ。第一場・足利家奥殿の場は、乳母政岡(染)がいきなり敵の鳶をやっつけちゃって勇ましい。雀など導入のコミカルさは抑えめ。腰元の芝のぶが相変わらず可愛い。
メインは政岡が跡取り鶴千代(榎本陸)を守るため、我が子・千松(巻島祐希)を犠牲にするお馴染みの悲劇。貫禄の栄御前(秀太郎)と渋い八汐(歌六)を敵に回し、染さんがなかなかだ。栄御前を見送り、人がいないのを確かめつつ長い廊下を戻って千松に駆け寄るあたり、切なかった~
第二場・足利家床下の場はガラッと変わって、荒獅子男之助(染)が鼠を踏みつけて登場。荒事の迫力はいまいちかな~ 幕切れではスッポンから、額に傷、巻物をくわえた怪しい弾正が現れる。花道で顔にスポットをあてて準備してから宙乗り。長袴の裾も吊ってあって、静かに悠々と歩み去るのが格好良かった。
休憩後の大詰め四幕目は、実事に転じて忠臣蔵みたい。室町時代の設定だけど、裃などはまるっきり江戸だし。第一場・山名館奥書院の場で、実直な国家老・外記左衛門(高麗屋の大番頭・錦吾)が御家横領の企みを訴えるが、ワルの管領・山名持豊(桂三)は取り合わない。そこへ名裁判官の細川勝元(染)が颯爽と登場し、「虎の威を借る狐」の故事などでやりこめる。やっぱり弁舌爽やかな捌き役はいちばん似合ってます。
第二場・問註所門前の場は裁断の当日。与右衛門が証拠の密書を届け、民部之助の決死の直訴を、駕籠で通った勝元が受け取ってやる。さらに与右衛門が道哲を倒し古鎌を奪還。大詰めに至って、さらに早替りが加速するのが立派!
舞台が回っていよいよ第三場・問註所白洲の場。種之助(又五郎の次男)がりりしくサポート。敗訴した弾正が外記左衛門に斬りつけ、鎖帷子姿で逃げる。大屋根に巨大鼠が現れ、「土蜘」ノリのスペクタクルだ。与右衛門の自己犠牲で妖術を破る。勝元が鶴千代の家督相続を認めるお墨付を外記左衛門にもたらし、祝儀の謡を一節きかせて大団円。カーテンコール風に皆で挨拶して幕となりました。
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