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殺風景

シアターコクーン・オンレパートリー2014  殺風景  2014年5月

俳優としてよく観ている赤堀雅秋の作・演出。観客はジャニーズファンなのか、ヒラヒラスカートの女性が目立つ。シアターコクーンの2階前の方で9500円。休憩を挟んで3時間。

大劇場にはあまり似合わない、時代と家族の閉塞の物語だ。2004年の夏、大牟田で起きた一家殺人事件。落ち目の任侠者・国男(西岡徳馬)に対する刑事(近藤公園)の執拗な取り調べで、一見おとなしそうな妻マリ(荻野目慶子)、粗暴な長男・直也(大倉孝二)と次男・稔(八乙女光、若き日の国男と2役)という一家ぐるみで、隣人を惨殺するに至った経緯が明らかになる。被害者は高利貸しで稼いでいる節子(キムラ緑子、国男の母と2役)と長男・(尾上寛之、若き日の任侠者・兵頭と2役)、次男(太賀)。そして国男は1963年の、家族の原点を回想していく。

国男らの不器用さをじっくり描いていて、全編が息苦しいほどリアル。近所のスーパーにまつわる会話とか。不自然に挟まる「黒の舟唄」に、ほっとしちゃうくらいだ。
炭鉱夫だった国男は、娼婦マリ(若き日は大和田美帆)と一緒になるが、結婚祝いの花見は暗転、同じく娼婦の母がはずみのように死んでしまう。悲劇の現場、広い舞台にどーんと立つ一本桜がこのうえなく空疎だ。そんな底辺から築きあげた一家の暮らしもやがて行き詰まり、ついには笑えるほど稚拙な犯罪に走る。平凡なダイニングで暴走する大間違いと、緩やかに衰退していく町の逃げ場のなさ。繰り返される「何か臭う」というセリフが、ざらっとして印象的だ。

観劇前には配役が揃い過ぎているかと思ったけど、うまく組み合わせていた感じ。罪の女・荻野目と、利己的なキムラという女優ふたりが、キレキレで圧巻だ。西岡は一本気で格好いい。八乙女はジャニーズとは思えない暗さで、なかなか曲者かも。相変わらず抜群の間合いの大倉が全体を引き締め、淡々と普通な江口がラストをかっさらう。最近、急速に色気を増している尾上に期待通り存在感があり、大和田、太賀も健闘。節目のBGMは三味線でした。

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