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文楽「増補忠臣蔵」「恋女房染分手綱」「卅三間堂棟由来」

第一八七回文楽公演第一部「増補忠臣蔵」「恋女房染分手綱」「卅三間堂棟由来」  2014年5月

ついに89歳の名人、七世竹本住大夫引退公演です。名演が最後と思うと寂しいけれど、国立劇場小劇場はお着物姿も含めて、若い女性が目立って華やかだ。ロビーには住師匠の奥様も。中ほど下手寄りの席6500円は、全体が見やすいいい席でした~ 2回の休憩を挟んで4時間強。

公演中盤の引退狂言「恋女房染分手綱(こいにょうぼうそめわけたづな)」は、渋いけど、庶民がけなげで味わいのある悲劇。住大夫さんの父・六世も1958年の引退で語った演目だそうです。沓掛村の段は、人形がこれでもかという豪華配役で、キングの花道を飾る。
「前」 は師匠に怒られ続けた文字久大夫を、藤蔵が盛り立てる。馬方・八蔵(勘十郎)は貧しいながらも、追放された主人・与作の嫡男・与之助(簑助、大人を仰ぎ見 る仕草が可愛い)を育てている。掛け乞いたち(幸助さん、玉佳)も同情しちゃって、微笑ましい。無邪気に遊ぶ与之助に、老母(ちょっと足が辛そうな文雀) は武士らしくと諭す。
「切」で住大夫さん、錦糸が登場し、長い拍手と掛け声。人物の心理が刻々変わるので、難しいそうです。ふうっと深く息を吐いてから語りだした師匠、大病をしてさすがに声は細いけど、胸に染みいり、表現力は絶品でした! 物語では八蔵が追剥に狙われた座頭・慶政(端正な和生)を連れ帰 り、夜半に刀を研ぎ始める。三味線の音が不気味。さては慶政を斬るのかと切なく叱る母に対し、八蔵の嘆き。そうではない、主人を陥れた悪党・八平次を見つ けたので仇を討つのだ、と明かす。泣けるなあ。それを立ち聞きしていた慶政は、何故か急いで出立。そこへ昼間の追剥(なんと端役で玉女、紋壽)が現れ、八蔵が火鉢で応戦。慶政の300両を見つけて、慌てて慶政を追いかける。語り終えて大拍手に、盆もいつもよりゆっくり回った感じでした~

夜道のセットに転じて、坂の下の段は連投の文字久に咲甫、始の大夫掛け合い。口三味線しながら夜道を行く慶政が、追剥に襲われ る。追いついた八蔵に、実は与作の兄・与八郎だと名乗り、眼病を患い身を引いた、300両を役立ててほしい、と打ち明けて息絶える。八蔵は追剥、実は憎い八平次を見事に討ったものの、与八郎の亡骸を負って村へ帰っていく。無念… 大夫はみな朗々としてるけど、やっぱり住さんの後だと情が今一つの印象。頑張ってほしいです!

ランチの前の幕開けは「増補忠臣蔵」本蔵下屋敷の段。原作にない加古川本蔵のエピソードゼロだ。地味な時代物だけど、人物の境遇や心理が複雑で、すごく見応えがあった。
「前」は次代を担う千歳大夫、團七。悪者・伴左衛門(玉輝)は殿の妹・三千歳姫に言い寄ったり、殿・若狭之助(紋壽)毒殺を企んだり。蟄居中の本蔵(玉也)は姫を逃がすのが精いっぱいだ。無骨な本蔵が格好いい。
「奥」では津駒大夫を寛治が支える。奥庭に引き出された本蔵は殿に、かつて「松の枝」を渡したのは短慮を諌めたのだと明かす。それを聞いた殿が、いきなり伴左衛門を斬る驚きの展開。曰く、いじわる師直は討たれて当然、だけど本蔵が賄賂を贈ったのは、忠義の行動で感謝している、とはいえ刃傷に及んだ塩谷判官を抱き止め、本懐を遂げさせなかったのは罪でしょ、と吐露する。善悪で割り切れない屈折。さらに殿は、由良助に討たれる本蔵の覚悟を察し、暇を与えて師直邸の絵図を託す。尺八と琴が加わって幕となりました。

そしてラストは「卅三間堂棟由来(さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい)」平太郎住家より木遣り音頭の段。鶴の恩返しですね。「中」は睦大夫、清志郎さん、「切」は嶋大夫、富助がたっぷりと。熊野に住む平太郎(玉女)は女房お柳(簑助)、息子みどり丸(玉誉)と幸せに暮らしていたが、白河法皇の病気平癒を祈願する三十三間堂の建立で、近くの柳が伐られることになって暗転する。実はお柳は柳の精で、伐採で姿を消してしまう。京都へ運ばれていく大木を、みどり丸が引き、平太郎が木遣り音頭で送る。舞台に葉が舞うメルヘンでした。

いや~、感慨…
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