ロンサム・ウェスト
シス・カンパニー公演 ロンサム・ウェスト 2014年5月
ロンドン生まれのアイルランド人作家、マーティン・マクドナーの1997年の戯曲を、小川絵梨子の翻訳・演出で。雰囲気のある芸達者が揃った、タイトな舞台。とはいえ内容は難しかったな。若い女性客が多い新国立劇場小劇場、後ろのほう下手寄りで7500円。休憩なし、数回の暗転を挟んで1時間40分。
アイルランド西部の田舎町にあるコナー家のワンセットで、湖のほとりは下手端に桟橋を据えて表現。兄コールマン(堤真一)と弟ヴァレン(瑛太)は、父の埋葬を終えたばかりなのに、子供っぽい喧嘩を繰り広げる。父の死は事故とされているが、実はコールマンの仕業。また近所のガーリーン(オーディションを突破した木下あかり)はまだ17歳なのに、密造酒で小金を稼いでいる。ウェルシュ神父(北村有起哉)は彼らのすさんだ暮らしを案じるものの、無力感で酒におぼれ、悲劇に至る。
兄弟の喧嘩がとにかくくだらなくて、えげつなくて笑える。ポテトチップスを砕いちゃうとか、大事なフィギュアをストーブで溶かしちゃうとか。マシンガントークと乾いた笑いのかげで、はっきりとは説明されないけれど、歪んだ少年期や母の不在、仕事も恋愛もろくになさそうなドンづまりの境遇、そして絶望的に依存しあう兄弟の関係が見え隠れする。ラフなサッカーチームの噂など、暴力のイメージが充満するなか、神父を慕うガーリーンの純な未熟さが切ない。
面白いんだけど、どうも空気が掴めなくてもどかしかった。希望のない町の殺伐とか、どこか土着的なカトリックの感覚とかがピンとこないからか。特にフィギュアが聖人だったり、ガーリーンの本名がマリアだったり、宗教のアイコンが散りばめられているだけに。
救いのない話を、ありふれたブラックコメディや考えオチの寓話にしないのは、俳優陣の水準の高さ、チャーミングさのおかげ。意外に舞台初共演という兄弟の激しい取っ組み合い、神父の淡々とした長セリフも危なげない。なかでも堤は髪をぼさぼさにして、格好悪さにチャレンジ。惜しむらくは、それほど野卑にみえないんだよなあ。2012年に同じ小川絵梨子と組んだ兄弟もの「トップドッグ/アンダードッグ」で、千葉哲也を相手に弟のほうを演じた時のほうが合ってたかな。