METライブビューイング「ウェルテル」
METライブビューイング2013-2014第7作「ウェルテル」 2014年4月
スターテノールのカウフマンさま、MET今シーズンは意外にもフランス語です。マスネの文芸オペラを、アルメニア系でフランス作品のスペシャリストだというアラン・アルタノグルの指揮で。演出は英国の大御所リチャード・エアだ。3月15日上演。相変わらずよく入っている新宿ピカデリーの最後列で3500円。1、2幕と3、4幕を続けて約3時間。
原作はゲーテの「若きウェルテルの悩み」。1774年の出版当時、ヨーロッパの若者の間でピストル自殺が流行しちゃったほど影響力があったとか。詩人で、外交官として将来を嘱望されているウェルテルが夏のある日、幼い弟妹を世話する従妹のシャルロットに一目ぼれ。亡き母の言いつけを守り、婚約者アルベールと結婚してしまったシャルロットに道徳を説かれて、絶望し旅に出る。ところが実はシャルロットはウェルテルからの手紙に心を揺さぶられ、クリスマスイヴの再会でついに許されざる恋が燃え上がる。夫の指示で残酷にも、手ずから若者にピストルを託すものの、結局、瀕死のウェエルテルに愛を打ち明けて、自らも銃を手にする。
いささか浮世離れしているとはいえ、近松と違って、知性も宗教心もある者同士の心中事件。ロマンチック、かつセンセーショナルです。室内楽的ともいわれるオケはややまったりしてたけど、悲劇の終盤にかけて盛り上がった感じ。
タイトロールのヨナス・カウフマン(テノール)は、相変わらずちょっと暗くて、暑苦しいほど情熱的なのが、この役にぴったりだ。3幕ではオシアンの詩を歌う「春風よ、何故に私を目覚めさせるのか?」をがんがん聴かせて、拍手鳴りやまず。人妻泣かせな奴。カーテンコールの反応も熱狂的でしたね。
対するシャルロットは2010年以降、この演目で組んでいるというフランスのソフィー・コッシュ(メゾ)。ガランチャ降板を受けて、MET初登場となったそうです。3幕冒頭の「手紙の場」などに説得力がある。細身で、色気は控えめかな。妹ソフィー役でニューオリンズ生まれの若手、リゼット・オロペーサ(ソプラノ)が溌剌と可愛いかった。冷酷な夫アルベールは、セルビア出身でイスラエル国籍のデイヴィッド・ビズィッチ(バスバリトン)が堂々と。
演出は初演時の19世紀末の設定で、緻密だ。音調に合わせて、わざと額縁で舞台を狭めてあり、前半はモネの絵画を思わせる緑豊かなシャルロット家の庭先。屋外でのテーブルセッティングなどが開放的だ。間奏曲で映像を重ねて、優美な舞踏会を描くのが手が込んでいる。
後半は一転、中央の赤いソファーが不穏なシャルロットの新居で、陰影が濃い。間奏の舞台転換は上のほうから、ウェルテルの雑然とした小部屋がおりてくる仕掛け。冒頭のシーンとシンクロする、子供たちの可愛いクリスマスの合唱を遠く聞きながら、シャルロットが瀕死のウェルテルとベッドに横たわるシーンが、意外にセクシーでした。
案内役はパトリシア・ラセットで、幕間には恒例の指揮者やキャストのインタビューのほか、次回作「ラ・ボエーム」の稽古風景、ゲルブ総裁によるエアと舞台・衣装R・ハウエルのインタビューもあった。
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