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酒と涙とジキルとハイド

酒と涙とジキルとハイド  2014年4月

三谷幸喜作・演出。昨年のシリアスな「ドレッサー」などから一転、オリジナルでドタバタに徹したコメディだ。出演は花形歌舞伎役者、さらにバラエティで活躍する女性タレントの初舞台と、話題十分です。東京芸術劇場プレイハウスの前のほうで9500円、ノンストップの1時間45分。

ジキル博士(片岡愛之助)は人格を善悪に分離する画期的新薬の発表を明日に控えているが、実は研究は失敗。助手のプール(迫田孝也)と共謀して、あろうことか売れない役者ビクター(藤井隆)をハイドに仕立て、窮地を切り抜けようとしている。しかしお嬢様で婚約者のイヴ(優香)が事情を知らずに、とんでもない行動に出て…。
ジキル博士の実験室のワンセットで、衝立と階段を使って立体的に人物を動かし、入れ替わりや取り違えを繰り出す。後半ギャグのリフレインが目立つものの、スピード感があり、「キャラの解放」という前向きなメッセージも三谷さんらしい。

ドタバタはお手のものの藤井が、汗びっしょりで奮闘。優香がやや声を枯らしつつも、堂々のコメディエンヌぶりで舞台を掌握してた。チャーミングだし、壁にぶつかっちゃうなどアクションも思い切りよく、さすが長年、志村けんと組んでいるだけのことはある。
愛之助はさすがの安定感で、大げさな表情、オネエ言葉など笑いも十分なんだけど、存在に色気があるので、今回の場合、世間体にとらわれていて退屈、という人物設定にどうにも違和感が…。年齢はともかく、中井貴一とか西村雅彦とかだったら、もっと落差が出て可笑しかったかも。アテ書きって難しいもんですねえ。
なかなかの存在感を見せたのが迫田。のっけから長い金髪が怪しく、博士を助けるふりをして、どんどん状況をややこしくしちゃう。ワルの表情、声がよくて要注目だ。
音楽は「おのれナポレオン」に続き高良久美子。青木タイセイと一緒にセットの屋上で生演奏も担当し、効果音でわかりやすくギャグをアシスト。前説は優香の仲良し、さまぁ~ずでした。客席に獅童さんがいらしてましたね。銀河劇場、大阪でも公演あり。
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パン屋文六の思案

ナイロン100℃41st SESSION「パン屋文六の思案~続・岸田國士一幕劇コレクション~」   2014年4月

岸田國士が大正から昭和初期に発表した会話劇7作をコラージュし、ケラリーノ・サンドロヴィッチが潤色・構成・演出。岸田國士って戯曲賞で名前を知っていても、こういう企画がないと内容を知る機会がないですよね。「よござんすよ」調の言葉遣いこそレトロだけど、女性の経済力とか低温恋愛とか終末論とか、テーマは現代的だし、シュールな都会的センスが満載で新鮮だ。鯉のぼりがいっぱいの青山円形劇場、最前列で6900円。

主要なストーリーは2つ。「ママ先生とその夫」と、「麺麭屋文六の思案」、続編の「遂に『知らん』文六」だ。「ママ先生~」は寄宿学校を経営するしっかり者の女性(松永玲子)と、浮気なダメ夫(萩原聖人)の愛憎を描く。浮気相手で素っ頓狂な女性教師(小野ゆり子)が読んでいる本の内容、という設定で、本音を言わない若い男女(緒川たまき、花組芝居の植本潤)を描く「恋愛恐怖症」、契約で夫婦(廣川三憲、緒川)が夫婦を休みにする「世帯休業」。さらに人物が少し重なっているショートストーリーとして、生活力のない夫婦(みのすけ、村岡希美)の憂さ晴らし「かんしゃく玉」、姉弟(長田奈麻、眼鏡太郎)と図々しい居候(みのすけ)の確執「長閑なる反目」が挟まる。
どれも情けないニート男とか、カネで簡単に変化しちゃう人間関係とかをシニカルな笑いで描き、決して古びていない。「文六」シリーズだけはちょっと異色で、彗星が地球に衝突する、という噂が広がったパニックの一夜に、人生観が揺らいじゃうパン屋(志賀廣太郎)と一家のドタバタ劇だ。なかなか深い。執筆当時の震災や、軍国主義の台頭が影響してるんだろうか。

シーンに合わせて観客が使う「ニオイシート」や、井手茂太振付のポップな群舞がアクセントになっていたけど、10分の休憩をはさんで3時間10分はちょっと長かったかな~ 俳優はみな安定感があり、間近で見る緒川が綺麗。豆千代監修の和服に、ところどころ洋風をトッピングした衣装が洒落ていた。客席には津田大介さんらしき姿も。

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ハルナガニ

ハルナガニ 2014年4月

藤野千夜の小説をベースに木皿泉が脚本を担当した、胸にしみるファンタジー。「南河内万歳一座」座長の内藤裕敬が演出、梅田芸術劇場の企画・製作だ。ちょっと男性が多めのシアタートラム、中央あたりの席で7500円。休憩なしの1時間20分。

雑然とした平凡なマンションのLDKワンセット。1年前に妻をなくして立ち直れずにいる春生(渡辺いっけい)を、息子の亜土夢(細田善彦)が慰めていると、何故かその亡妻・久里子(薬師丸ひろ子)が普通に勤めから帰ってきて、「春生が亡くなってもう1年」とかいいながら、夕食の鰻弁当を用意しはじめる。古い友人である同僚・西沢(菅原大吉)と、部下の三浦(菊池亜希子)が訪ねてきて、さらに状況は混乱していく。
夫婦どちらが幽霊なのか、いったい誰に誰が見えているのか? ずっと謎のままなんだけど、だんだんそれはどうでもいい、と思えてくる。いつも側にいて、意識していない存在のかけがえのなさ、そして自分の存在を確かにしてくれる人とのつながり。使用済みの湿布を捨てられなかったり、ネギでパカパカ叩いちゃったり、小ネタとドタバタで存分に笑わせておいて、終盤の思い出の喧嘩シーンでほろりとさせる。

2012年に同じ脚本・演出コンビで14年ぶりに舞台に立ったという薬師丸が、リズム感があり、声も出ていて、いい存在感だ。ごくごく庶民的な母でいて、上品さが漂う。1964年生まれなんだなあ。同年輩の渡辺ともいい呼吸。切なさのある細田、やけに指の長い菊池の若手2人が奮闘していて楽しみだ。
ホワイトデーの菓子とか手巻き寿司。食べるシーンが重要なのが、ホームコメディらしい。謎のタイトルは、「いずれ春永に」とすると能の別れの言葉になり、三島由紀夫が手紙の結びに使っていたそうです。蟹じゃなかった~

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あやなすひびき

あやなすひびき~春の光。花と輝く~  2014年4月

知人の中尾幸世さんの朗読会。大久保のスタジオ・ヴィルトゥオージ。背後が普通の掃き出し窓で、日の光が気持ちいい。3500円。休憩を挟んで2時間。

幸世さんは元東京キッドブラザースで、NHKドラマ「川三部作」やラジオドラマに出演。1989年から朗読会を開いているそうです。表情豊かで引き込まれる。
短く吉野弘の詩「生命は」、ふんわりした雰囲気で情景が目に浮かぶ安房直子の童話「花びらづくし」、そしてアンダルシアのノーベル賞詩人、ホワン・ラモン・ヒメネスの散文詩「プラテーロとわたし」。ロバと人々の交流が楽しい。多摩美出身らしいスケッチの紹介があり、後半は宮沢賢治で詩「春と修羅」、そして童話「虔十公園林」。虔十が育てた盆栽みたいな杉林を通して、本当の知恵というものを素朴に語る。
演奏は朗らかなアイルランド音楽の守安功、雅子夫妻。「前座」曲から始まって「A Ground」「グリーンスリーブス」などをリコーダー、フルート、アイリッシュハープ、小さいアコーディオンのコンサーティーナなどで。器用にスプーンを使ったリズムセクションも面白かったです。

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METライブビューイング「ウェルテル」

METライブビューイング2013-2014第7作「ウェルテル」  2014年4月

スターテノールのカウフマンさま、MET今シーズンは意外にもフランス語です。マスネの文芸オペラを、アルメニア系でフランス作品のスペシャリストだというアラン・アルタノグルの指揮で。演出は英国の大御所リチャード・エアだ。3月15日上演。相変わらずよく入っている新宿ピカデリーの最後列で3500円。1、2幕と3、4幕を続けて約3時間。

原作はゲーテの「若きウェルテルの悩み」。1774年の出版当時、ヨーロッパの若者の間でピストル自殺が流行しちゃったほど影響力があったとか。詩人で、外交官として将来を嘱望されているウェルテルが夏のある日、幼い弟妹を世話する従妹のシャルロットに一目ぼれ。亡き母の言いつけを守り、婚約者アルベールと結婚してしまったシャルロットに道徳を説かれて、絶望し旅に出る。ところが実はシャルロットはウェルテルからの手紙に心を揺さぶられ、クリスマスイヴの再会でついに許されざる恋が燃え上がる。夫の指示で残酷にも、手ずから若者にピストルを託すものの、結局、瀕死のウェエルテルに愛を打ち明けて、自らも銃を手にする。

いささか浮世離れしているとはいえ、近松と違って、知性も宗教心もある者同士の心中事件。ロマンチック、かつセンセーショナルです。室内楽的ともいわれるオケはややまったりしてたけど、悲劇の終盤にかけて盛り上がった感じ。
タイトロールのヨナス・カウフマン(テノール)は、相変わらずちょっと暗くて、暑苦しいほど情熱的なのが、この役にぴったりだ。3幕ではオシアンの詩を歌う「春風よ、何故に私を目覚めさせるのか?」をがんがん聴かせて、拍手鳴りやまず。人妻泣かせな奴。カーテンコールの反応も熱狂的でしたね。
対するシャルロットは2010年以降、この演目で組んでいるというフランスのソフィー・コッシュ(メゾ)。ガランチャ降板を受けて、MET初登場となったそうです。3幕冒頭の「手紙の場」などに説得力がある。細身で、色気は控えめかな。妹ソフィー役でニューオリンズ生まれの若手、リゼット・オロペーサ(ソプラノ)が溌剌と可愛いかった。冷酷な夫アルベールは、セルビア出身でイスラエル国籍のデイヴィッド・ビズィッチ(バスバリトン)が堂々と。

演出は初演時の19世紀末の設定で、緻密だ。音調に合わせて、わざと額縁で舞台を狭めてあり、前半はモネの絵画を思わせる緑豊かなシャルロット家の庭先。屋外でのテーブルセッティングなどが開放的だ。間奏曲で映像を重ねて、優美な舞踏会を描くのが手が込んでいる。
後半は一転、中央の赤いソファーが不穏なシャルロットの新居で、陰影が濃い。間奏の舞台転換は上のほうから、ウェルテルの雑然とした小部屋がおりてくる仕掛け。冒頭のシーンとシンクロする、子供たちの可愛いクリスマスの合唱を遠く聞きながら、シャルロットが瀕死のウェルテルとベッドに横たわるシーンが、意外にセクシーでした。
案内役はパトリシア・ラセットで、幕間には恒例の指揮者やキャストのインタビューのほか、次回作「ラ・ボエーム」の稽古風景、ゲルブ総裁によるエアと舞台・衣装R・ハウエルのインタビューもあった。

四月大歌舞伎「寿春鳳凰祭」「鎌倉三代記」「寿靭猿」「曽根崎心中」

鳳凰祭四月大歌舞伎  2014年4月

歌舞伎座新開場1周年記念、歌舞伎座松竹経営100年の記念でもある公演の昼の部。療養中だった三津五郎の復帰、さらに御大・藤十郎の「一世一代」が話題だし、演目自体も踊りに時代に世話にと盛りだくさんだ。客席にはいつになく着物の女性が多い感じ。上手寄り、中ほどの席で1万8000円。5時間の長丁場です。

幕開けは明るい富士の緞帳で、新作舞踊「寿春鳳凰祭(いわうはる こびきのにぎわい)」。左右に長唄囃子連中が並び、竹と松の日本画をバックに、座紋である鳳凰の冠をつけた女御(時蔵が上品)が舞う。息子・梅枝も綺麗。時蔵の弟・錦之助と隼人の親子も加わり、芸の継承を感じさせる。橋之助が歌舞伎らしい佇まい。扇雀は女御にしては気風が良過ぎるかなあ。
背景が桜に変わると、従者(進之助)に手を取られて帝が進み出る。我當さん、随分とぼとぼしていたけど、まずはご祝儀の1幕ですね。振付は藤間勘祖。

15分の休憩後、文楽で観たことがある義太夫狂言「鎌倉三代記」から絹川村閑居の場。大坂夏の陣に重ねた悲劇だ。時姫(=千姫)が熱烈に思う敵の若武者・三浦之助(=木村重成)に説得されて、ついに父・時政(=家康)を討つ覚悟を決める。額に入墨をした百姓・藤三郎、実は生きていた軍師・佐々木高綱(=真田幸村)の策謀が、筋を複雑にしている。
見ものはやっぱり時姫だろう。田舎家にはあり得ない真っ赤な振袖姿で、三浦之助の老母を看病する。魁春は姉さん被りが引っかかって、キンキラ髪飾りが折れちゃうハプニングがあったものの、愛しい三浦之助のために父を裏切る悲嘆をたおやかに。深手を負いながら、緋縅の鎧姿で母を訪ねてくる三浦之助の梅玉さんと共に、決して派手じゃないけど時代物らしい古風さがいい。
幸四郎はコミカルな藤三郎で笑わせ、いったん空井戸に隠れちゃうけど、時姫が決意した後は一転して重々しく、らしくなる。井戸の中から敵の見張り役を槍で突いて、ぬっと再登場し、「高綱物語」、さらに銭模様の衣装への豪快なぶっ返りで拍手。後半、ちょっと元気がなかったかな。滅びの予感を色濃く漂わせながら、絵面の見得で幕。

30分の休憩でランチをとり、後半はお待ちかね「寿靭猿(ことぶきうつぼざる)」鳴滝八幡宮の場から。明るい狂言を素材に、常磐津連中が盛り上げる舞踊だ。弓矢を持った女大名・三芳野の又五郎が、でっぷりと愛嬌があり、頬を赤くしてやたら男に言い寄ったりして、おおらか。繻子奴と呼ばれる従者・橘平は、父の復活を助ける巳之助だ。声が通って、いい男ぶりが頼もしい。花道から猿曳・寿太夫の三津五郎が出てくると、大向こうからたっぷり声がかかる。病み上がりで衣装が軽い役を選んだというけれど、手つきが美しく、声も出てました。偉いなあ。初舞台で巳之助が務めたという小猿はぴょんぴょん跳ねたり、見得を切ったり、実に可愛い。
三芳野が猿をうつぼ(弓入れ)にしようとし、寿太夫もあきらめて小猿を諭すが、猿は何も知らずに芸をする。そんな姿に女大名がほだされてハッピーエンド。、ラストは皆の舞いが晴れやかでした。

20分の休憩後、いよいよ「曽根崎心中」。1953年に宇野信夫脚色・演出の復活公演で大ヒットし、以後ほぼ一人で1300回以上演じた坂田藤十郎が「一世一代にてお初相勤め申し候」。確かに2009年に同じ演目を観た時と比べて、セリフは聞きづらいけど、冒頭、藤が満開の生玉神社境内の場の可愛さは、変わらず絶品だ。徳兵衛(鴈治郎襲名を発表したばかりの翫雀が実直に)の説明に一喜一憂し、82歳が19歳に見えるのが凄過ぎます。九平次の橋之助がワルらしく、でもワル過ぎなくて存在感がある。
北新地天満屋の場ではお初は煙管をコツコツと打ち付け、足を使って色気満載、強くて迫力満点だ。文楽に比べて下女のチャリ場は少なく、徳兵衛が潔白になったのを知らずに死を選んでしまう展開なので、無常感が強い。天満屋惣兵衛は東蔵、平野屋久右衛門は左団次。大詰め曽根崎の森の場はもう涙涙。文楽のようにリアルではなく、美しく演じ納めとなりました。あ~、堪能した。
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春の正蔵「道灌」「徂徠豆腐」「壺算」「山崎屋」

第二期「林家正蔵独演会 春の正蔵」  2014年4月

定例の正蔵さんの会。いつものように200人ほど、親密な雰囲気の紀尾井小ホールで3000円。最前列の席が続いていたけど、本日は中央あたりだった。休憩なしで2時間。

前座はたま平がお馴染みの「道灌」。元気だけど、まだ頼りない。
正蔵さんがトコトコ登場。近くの下町に成城石井ができたら、今までのスーパーに比べてだいぶ上品だ、値の張る湯布院の豆腐があってとろとろで…といったマクラからネタ卸しの「徂徠豆腐」。以前に春陽さんの講談で聞いた逸話だ。増上寺門前の豆腐屋が、食うや食わずで学問する若い徂徠にほれ込み、おからを届け続ける。高熱で寝込んでいる間に徂徠が居なくなって、てっきり死んだかと悲しんでいたが、火事で店を無くした後、仕官して立派になった徂徠が現れて恩返ししてくれる。
赤穂浪士切腹の解説などは一切なくて、とてもシンプルな人情噺になっていた。徂徠さんの偉さ加減は控えめ、むしろ豆腐屋の気立ての良さ、苦境でも飛び出す女将さんのナンセンスジョークがいい味だ。それにしても、落語に出てくる物売りの声って、のんびりして好きだなあ。

中入りなしで、つる子が出てきたのでびっくり。二つ目が手配できず、前座2人の合わせ技で…と、初めはちょっと不安だったけど、どうしてどうして。増税前に回数券を買った、4月になっても値下げされないから、得して嬉しかった、たいした額じゃないけど、という親しみがもてるマクラから「壺算」。はきはきしてましたね。
続いて着替えた正蔵さんが、再登場。江戸時代の廓言葉を説明してから「山崎屋」。初めて聞いた噺です。
日本橋の鼈甲問屋の若旦那が、堅いはずの番頭にお妾さんがいるのを知り、それをネタに廓通いのカネをせびる。番頭は本気なら花魁と一緒にしてやろう、と一計を案じる。その策とは、若旦那が遊びを半年我慢して、ようやく任された掛けの大金を落としてしまう、それを近所の鳶頭が届けてくれ、父親が礼を言うため頭の家に行くと、姪という触れ込みの花魁と出会う、というもの。父親がしとやかな娘を気に入って、首尾よく一緒になるハッピーエンドだ。
花魁が思わず口にしちゃう「北国」とか花魁道中とか、オチの「三分で新造がつきんした」とか、解説を聞かないとわからない難しい噺だけど、ストーリーは他愛なくて明るい。策略をめぐらす番頭がなかなか曲者なんだけど、そのあたり正蔵さんは素朴であっさりした造形。これはこれでいい。
本日の2題、古風さが似合ってましたね。少しお疲れ気味に見えたのが心配ながら、段々にそういう年齢なのかなあ。

万獣こわい

パルコ・プロデュース ねずみの三銃士第3回企画公演「万獣こわい」  2014年4月

生瀬勝久、池田成志、古田新太と、舞台、ドラマでよく共演しているクセ者兄貴3人が集結して、存分に笑わせる。宮藤官九郎作、河原雅彦演出のダークコメディだ。俳優陣、スタッフとも人気者ぞろいで客層は幅広く、若者が多めかな。パルコ劇場の前のほう、上手端の席で8500円。休憩をはさんで2時間半。

凄惨な一家軟禁事件を題材に、マインドコントロールの恐怖を落語「まんじゅうこわい」に重ねた。こうして観ると、今更ながらよくできた落語だなあ。後味の悪さを狙っているというけど、冒頭から3人が、グロテスクな妖怪被りもので登場し、通路を歩きながら「空席がこわい」とつぶやくなど、余裕たっぷり、アドリブも自由自在だ。

ハロウィンの夜、住宅街の喫茶店で脱サラしたマスター(生瀬)と、もとは不倫相手の妻・陽子(小池栄子)が開店を準備しているところへ、少女トキヨ(夏帆)が飛び込んでくる。軟禁されていた近くのマンションから逃げてきたという。7年後、事件を生き延びて成長したトキヨが表れて、店を手伝うようになるが、怪しい里親アヤセ(古田)が合流。マスターの前妻の弟・馬場(小松和重)、裏がありそうな常連のフリーライター(池田)も加え、一同を支配するようになる…。

喫茶店のセットの上方にセットを重ね、時間軸の異なる軟禁事件当時や裁判の様子とをうまく行き来して、真相をあぶりだしていく。ダンスのキレ抜群の古田、意外に色白で女性役もこなしちゃう池田ら、出演陣はみな達者。なかでも「今ひとたびの修羅」でもよかった小池が、なかなかのコメディエンヌぶりで、嬉しい発見だ。蛸ダンスは一見の価値あり。KERAバージョン「祈りと怪物」で仕立て屋の娘だった夏帆ちゃんも健闘してましたね。

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