杉本文楽 曽根崎心中
杉本文楽 曽根崎心中付り観音廻り 2014年3月
世界的な現代美術作家・杉本博司が構成・演出・美術・映像、人間国宝の鶴澤清治が作曲・演出を担い、2013年秋にマドリード、ローマ、パリで公演したプロダクションの、話題の凱旋公演に足を運んだ。これまで文楽、歌舞伎で観たことがある演目だけど、今回は近松の原文に忠実な「黒部本」バージョンだそうです。予想よりも文楽の伝統を感じさせつつ、暗い舞台に照明などで深みを加えた舞台でした。客席には美術ファンらしいお洒落さんが目立ち、いつもの文楽とはずいぶん雰囲気が違ってたな。世田谷パブリックシアターの中央いい席で9000円。休憩にはロビーで杉本さんが、気さくにプログラムにサインしてくれました~ トータル2時間半。
プロローグは暗い舞台の中央に清治さんが陣取って、聴きごたえある三味線のソロ。続く観音廻りは山村若振付による復活で、桐竹勘十郎さんが信心深くお参りに歩くお初を、珍しい一人遣いでみせる。衣装はエルメス! 念仏らしき声をサラウンドで、過ぎゆく細道を束芋のアニメーションで表現し、ラストには杉本さんの三十三間堂の仏像が瞬いて迫力がある。床は呂勢大夫、藤蔵、清馗。
次の生玉社の段からはお馴染みの展開だ。人形陣はずっと頭巾姿で、徳兵衛は一輔、お初は可愛く勘十郎。幸助さんの九平次がステレオタイプな憎々しい造形ではなく、新しい2枚目のカシラでクールなワルなのが現代的だ。ぼこぼこシーンもあっさりめ。白い鳥居がぼおっと浮かび、手すりが無くて、足遣いの動きや小道具の出し入れまで、よくわかる。明晰な津駒太夫、清志郎。
休憩を挟んで天満屋の段では、舞台上部の真っ赤な暖簾が鮮やかだ。店の中を手すりで表し、あとは手前に板戸があるだけ。お初が梯子段の途中から扇子で灯りを消すところの、照明の揺らぎが巧い。ひょうきんな下女は蓑二郎。嶋大夫がいつも通り、絞り出すように熱演を聴かせ、清治が力強く盛り上げる。
クライマックスは天神森の段ではなく、山村若振付の道行で、通常より長い感じ。前半は白い細棒を橋げたに見立て、後半はグレーの森をバックに。演出がスタイリッシュな分、2人の幼さ、愚かな純粋さは影をひそめ、哀しくも色っぽい印象でした。文字久大夫、呂勢大夫、靖大夫、清介、藤蔵、清志郎。
カーテンコールはまず人形のお初、徳兵衛が可愛く挨拶し、杉本さん、格好いい清治さん、床の迫力からは想像できない小柄な嶋大夫さんら全員が登場して幕となりました。
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