幽霊
幽霊 2014年3月
近代家族の崩壊をシビアに描く、イプセンの18881年の代表作を、1976年生まれ、気鋭の森新太郎演出で。休憩無しで2時間強。シアターコクーン前の方やや下手寄りで8000円。
白い長椅子があるシンプルな居間のワンセット。遠く雷鳴が響く不穏な空気のなか、誰もが深刻な欺瞞を抱える、濃密なセリフ劇が展開される。
孤児院の落成を控えたアルヴィング夫人(安蘭けい)は、かつて自分を拒絶したマンデルス牧師(吉見一豊)にしたり顔で義務を説かれてキレたのか、名士と言われた亡夫が実は放蕩を尽くしており、小間使いレギーネ(松岡茉優)はその不義の娘だと暴露する。肝心の孤児院は出火し、欲得づくでレギーネの父になった過去を持つ大工エングストラン(阿藤快)は、またしてもカネ目当てで牧師と手を結び、原因を隠蔽。レギーネはパリから戻った夫人の一人息子オスヴァル(忍成修吾)を慕っていたが、衝撃の事実を知らされ、意外にもしたたかな顔を見せて屋敷を後にする。そのオスヴァルは父から病を受け継いでしまい、絶望的な状況で夫人がモルヒネを握りしめて幕となる。
夫人は制度や道徳という幽霊から逃れられず、嘘を重ねて生きたあげくに、息子から「こんな命なんか要らない」と糾弾されちゃう。なんとも救いがなく、発表当時スキャンダラスだったのも肯けるが、周到に笑いをまぶし、さらに美しい照明の変化でスタイリッシュに見せた。
ラスト近くで長椅子の背を危なっかしく歩いたり、背からこわごわ顔をのぞかせたりするなど、動きのアイデアが面白い。ただ中盤までは、ちょっと平板だったかな。床に埋め込んだ白い灯りで部屋を囲み、下手の橋、前面の降りる階段で俳優が出入りする構造。
安蘭は役柄と比べると若々しく、細身の忍成は神経質な印象でぴったりなものの、全体にヒリヒリ感は薄め。初舞台の松岡が、冒頭の腰に手を当てた強気のポーズから終盤の豹変ぶりまで奮闘していた。客席には黒柳徹子さんがいらしてたみたいです。