歌舞伎座新会場柿葺落 二月花形歌舞伎 2014年2月
楽しい花形の夜の部は、お馴染み河竹黙阿弥作「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)白浪五人男」の登場だ。けれんと倒錯、これぞ歌舞伎ともいえそうなエンタメを、今や歌舞伎の中核を担う配役で堪能する。ベテランは深いけど、花形も溌剌として気持ちがいいなあ。歌舞伎座1F中央、やや後ろ寄りで1万8000円。休憩を挟み4時間弱の長丁場です。
なんといっても家の芸・弁天小僧を演じる菊之助が、よく通る声で舞台を牽引。さすがに菊五郎さんの崩れた色気はなく、上品寄りだけど、向こう見ずさがあって芯がしっかりしていて、立ち回りも堂々。どんどん任せたい!という感じ。南郷力丸の松緑は顔がほっそりしているけど、大きな目とよく動く表情がいかにも小悪党で、要所要所では仕草も派手で、いい。神出鬼没の忠信利平は坂東亀三郎(彦三郎の長男)。朗々としていて存在感があるのが、発見だった。一方で大ボス日本駄右衛門の染五郎は、吉右衛門さんっぽい造形が伝わってきたものの、ところどころ声が割れ、あんまり強そうに見えなかったかな。調子、今一つなのかも。個人的に注目している七之助は赤星十三郎で、見せ場が少ない役なのが残念ながら、愁いを含んだ美少年ぶりがさすがでしたね。
私としては白浪五人男は4度目だけど、今回は通しなので、観たことのないシーンもあり、お家騒動に翻弄される5人の事情がよくわかった。それぞれのキャラクターもくっきりして、役者の持ち味が楽しめました~
物語は序幕、初瀬寺(はせでら)花見の場から。小山家の千寿姫(時蔵の長男・梅枝が端正に)が登場し、本殿も衣装も赤が鮮やかで、のっけから派手さ満開です。
人間関係は複雑に絡み合っていて、まず許嫁の信田小太郎に成りすました弁天小僧が千寿姫をたぶらかし、物語の重要アイテム・信田家の重宝「胡蝶の香合」を手に入れる。千寿姫の供えた回向料を盗んだ信田家の赤星は、小山家家臣の悪者に打ちすえられる。その百両を狙って、忠信利平と力丸が争う。
一転して暗闇となる神輿ケ嶽の場では、弁天が正体を現し、髪をふっ立てた日本駄右衛門と遭遇して手下になる。子分1000人という長~い連判状を持った見栄が格好いい。2人を載せたセットが吊り上がっていく、珍しい大ゼリの場面転換の後、稲瀬川谷間の場は、千寿姫に続いて自害しようとする赤星を、家来筋にあたる利平が止める。巡り巡って百両を渡し、2人して日本駄右衛門の一味に入ると決める。5人揃ってのだんまり、そして弁天だけが花道に残り、香合をせしめてニンマリするワルぶりが面白い。
35分の休憩を挟んで、2幕目はお待ちかね雪の下浜松屋の場。導入のコミカルさ、弁天の名台詞、力丸との花道のじゃれ合い&新内節まで、大向こうの声もたっぷり。丁稚長松が松緑の息子・藤間大河くんで、ソチ五輪のフィギュアを真似たのがご愛嬌だ。この後に、珍しい雪の下浜松屋蔵前の場が挟まる。座敷で呑んでいた日本駄右衛門が企みを明かし、倅・宗之助(右近)が生き別れた息子と分かる。さらに弁天は主人・幸兵衛(團蔵)の息子というからビックリ。そんな話だったのかあ、と客席もどよめく。宿命的なダブル親子の対面の割に、からっと終わっちゃうのがユニークです。
稲瀬川勢揃の場はいつものように、青白を基調にした柄の大きい衣装と五七調、様式美満載のツラネを満喫。
20分の休憩の後、怒涛の大詰へ。極楽寺屋根立腹の場は、若々しい菊之助の独壇場になる。ドンタッポに乗った棒や綱、梯子を使った立ち回りに拍手。けっこう長かったよね。がんどう返しもしっかり踏ん張って迫力があった。滅びの美学だなあ。
ラストの極楽寺山門の場はまた、満開の桜と極彩色の世界に戻る。日本駄右衛門を載せたセットが丸ごとせりあがり、滑川土橋の場で、菊之助が唐突に名奉行・藤綱に変身して再登場する。胡蝶の香合を拾い、義賊・日本駄右衛門と互いの人物を認め合って、見栄となりました。家臣で凛々しい歌昇くんがちらりと出てきて満足! 盛りだくさんでした。
ちなみに地下の木挽町広場はもう雛祭り。春ですねえ。