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失望のむこうがわ

アル☆カンパニー第13回公演「失望のむこうがわ」  2014年2月

つかこうへい事務所出身の平田満、井上加奈子夫妻によるプロデュース共同体の公演で、作・演出の三浦大輔らしいリアリズム劇。ほかに劇団ハイバイの平原テツ。100人ほどのキャパのSPACE雑遊で、客層はけっこう幅広く、通路に補助席も出ていた。3800円。休憩無しの1時間40分。

50代・子なし夫婦のごくごく平凡な閉塞を、静かに執拗に描く会話劇だ。めぼしいセットはダイニングテーブルだけで、登場人物が角度を変えながら座る。数度の暗転を挟みつつ、つけっぱなしの隅のテレビがまったりと、日曜の昼下がりから深夜までの時の流れを表す。
夫は妻の火遊びに気づいて動揺し、知りたくもないことまでネチネチ追及せずにいられない。専業主婦の妻はぼそぼそ謝るんだけど、どうも心底、関係を修復しようと思っているふうでもなく、はた目には滑稽なやり取りが、次第に堂々めぐりに陥っていく。終盤には浮気相手のガソリンスタンドに勤める若い男が呼び出され、謝罪しつつも、つい身も蓋もない本音まで語っちゃう。

三浦らしい過激描写はなく、特段の事件も発見もないのだけれど、作家の思考をけっこうよく示した戯曲かもしれないと思った。普遍的な人の情けなさ、家族という密室の欺瞞、生きることの虚しさ。でも日常を続けていくしかない。
芝居を引っ張る平田が、さすがに巧いなあ。誠実さにひそむ歪みがくっきり。

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二月花形歌舞伎「青砥稿花紅彩画」

歌舞伎座新会場柿葺落 二月花形歌舞伎  2014年2月

楽しい花形の夜の部は、お馴染み河竹黙阿弥作「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)白浪五人男」の登場だ。けれんと倒錯、これぞ歌舞伎ともいえそうなエンタメを、今や歌舞伎の中核を担う配役で堪能する。ベテランは深いけど、花形も溌剌として気持ちがいいなあ。歌舞伎座1F中央、やや後ろ寄りで1万8000円。休憩を挟み4時間弱の長丁場です。

なんといっても家の芸・弁天小僧を演じる菊之助が、よく通る声で舞台を牽引。さすがに菊五郎さんの崩れた色気はなく、上品寄りだけど、向こう見ずさがあって芯がしっかりしていて、立ち回りも堂々。どんどん任せたい!という感じ。南郷力丸の松緑は顔がほっそりしているけど、大きな目とよく動く表情がいかにも小悪党で、要所要所では仕草も派手で、いい。神出鬼没の忠信利平は坂東亀三郎(彦三郎の長男)。朗々としていて存在感があるのが、発見だった。一方で大ボス日本駄右衛門の染五郎は、吉右衛門さんっぽい造形が伝わってきたものの、ところどころ声が割れ、あんまり強そうに見えなかったかな。調子、今一つなのかも。個人的に注目している七之助は赤星十三郎で、見せ場が少ない役なのが残念ながら、愁いを含んだ美少年ぶりがさすがでしたね。
私としては白浪五人男は4度目だけど、今回は通しなので、観たことのないシーンもあり、お家騒動に翻弄される5人の事情がよくわかった。それぞれのキャラクターもくっきりして、役者の持ち味が楽しめました~

物語は序幕、初瀬寺(はせでら)花見の場から。小山家の千寿姫(時蔵の長男・梅枝が端正に)が登場し、本殿も衣装も赤が鮮やかで、のっけから派手さ満開です。
人間関係は複雑に絡み合っていて、まず許嫁の信田小太郎に成りすました弁天小僧が千寿姫をたぶらかし、物語の重要アイテム・信田家の重宝「胡蝶の香合」を手に入れる。千寿姫の供えた回向料を盗んだ信田家の赤星は、小山家家臣の悪者に打ちすえられる。その百両を狙って、忠信利平と力丸が争う。
一転して暗闇となる神輿ケ嶽の場では、弁天が正体を現し、髪をふっ立てた日本駄右衛門と遭遇して手下になる。子分1000人という長~い連判状を持った見栄が格好いい。2人を載せたセットが吊り上がっていく、珍しい大ゼリの場面転換の後、稲瀬川谷間の場は、千寿姫に続いて自害しようとする赤星を、家来筋にあたる利平が止める。巡り巡って百両を渡し、2人して日本駄右衛門の一味に入ると決める。5人揃ってのだんまり、そして弁天だけが花道に残り、香合をせしめてニンマリするワルぶりが面白い。

35分の休憩を挟んで、2幕目はお待ちかね雪の下浜松屋の場。導入のコミカルさ、弁天の名台詞、力丸との花道のじゃれ合い&新内節まで、大向こうの声もたっぷり。丁稚長松が松緑の息子・藤間大河くんで、ソチ五輪のフィギュアを真似たのがご愛嬌だ。この後に、珍しい雪の下浜松屋蔵前の場が挟まる。座敷で呑んでいた日本駄右衛門が企みを明かし、倅・宗之助(右近)が生き別れた息子と分かる。さらに弁天は主人・幸兵衛(團蔵)の息子というからビックリ。そんな話だったのかあ、と客席もどよめく。宿命的なダブル親子の対面の割に、からっと終わっちゃうのがユニークです。
稲瀬川勢揃の場はいつものように、青白を基調にした柄の大きい衣装と五七調、様式美満載のツラネを満喫。

20分の休憩の後、怒涛の大詰へ。極楽寺屋根立腹の場は、若々しい菊之助の独壇場になる。ドンタッポに乗った棒や綱、梯子を使った立ち回りに拍手。けっこう長かったよね。がんどう返しもしっかり踏ん張って迫力があった。滅びの美学だなあ。
ラストの極楽寺山門の場はまた、満開の桜と極彩色の世界に戻る。日本駄右衛門を載せたセットが丸ごとせりあがり、滑川土橋の場で、菊之助が唐突に名奉行・藤綱に変身して再登場する。胡蝶の香合を拾い、義賊・日本駄右衛門と互いの人物を認め合って、見栄となりました。家臣で凛々しい歌昇くんがちらりと出てきて満足! 盛りだくさんでした。

ちなみに地下の木挽町広場はもう雛祭り。春ですねえ。

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オーヴォ

ダイハツ オーヴォ 東京公演  2014年2月

私にとって4回目のシルク・ドゥ・ソレイユは、虫たちの1日を描くおとぎ話。元五輪選手らの力と技を、シンプルに楽しむステージでした。何しろ装置に頼らないところが凄い。フジテレビ開局55周年記念と銘打っており、寒風にも関わらず、特設会場のお台場ビッグトップに家族連れやカップルらが大勢。開演前からグッズやポップコーンなどを買い込み、プリクラ風の記念撮影で盛り上がる。席は舞台正面の後ろのほうで1万3500円。30分の休憩を挟み2時間半。
以下ネタバレを含みます。

脚本・演出はシルク初の女性で、ブラジル出身のデボラ・コルカー。虫をデフォルメした衣装や振付が、お茶目で楽しい。新趣向の演目では、真っ赤な衣装の中国ガールたち=アンツが、ちょこまかとキウイなどを運ぶフットジャグリングが可愛いかった。仲間の蟻まで、足で飛ばしちゃう荒業です。
そして大詰めのウオールが見もの! 高さ8メートル、幅19メートルと、ツアーとしては最大のセットだそうで、イギリスやスイスなど欧州出身勢で構成するコオロギたちが、トランポリンを使って垂直に壁を駆け上がったり、ステージを前後左右にポンポン飛び回ったり、フォーメーションが緻密だなあ。それから全身ばねの不思議な生き物クリーチュラも、特に何をするわけでもないのだけれど、不気味で面白かった~
定番の演目のなかでは、ウクライナペアの白いバタフライによるロープダンスが優美。布を使った脱皮シーンもあって、幻想的です。フライングアクトはロシア勢中心のスカラベ(コガネムシみたいなもの)が、ブランコはほとんど使わず、地上数メートルをひたすら飛ぶ、飛ぶ。滞空時間が長い! 綱渡りは今回、スパイダー1匹のスラックワイヤーで、たるんだ紐を上下させつつ、でんぐり返しをしたり、逆立ちで一輪車を漕いだりする。シンプルなだけに一層スリリングです。

次々繰り出される超絶技の間に、クラウンが演じる、お楽しみのコメディパートも健在。不器用なハエのフォーリナー(広島出身26歳の谷口博教が活躍)がてんとう虫のレディーバグに恋をする、微笑ましいストーリーだ。年長者のマスター・フリッポが何かとちょっかいを出し、観客を巻き込んで恋のアピールをさせちゃう。言葉にならない謎の「虫語」を発しながら、ちゃんと状況を伝えるところはさすがだ。バンドは舞台後方、左右に控えていて、ブラジル風でした。
カーテンコールで1日限定10人が花束を渡して終了。楽しかった~ いつか本場のラスベガスに行きたいなあ!

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花子について

現代能楽集Ⅶ「花子について」  2014年2月

東京に2週続けて大雪が降った翌日。芸術監督・野村萬斎が古典劇の現代アレンジを企画・監修するシリーズに、初めて足を運んだ。今回は人気者の倉持裕が作・演出で、才気たっぷり。いろいろチャレンジしてますねえ。
1幕ものの舞踏1本、ドラマ2本はいずれも、「女の怖さ」を軽妙な笑いをまじえて描いていて、分かりやすかった。悪条件にも関わらず、まずまずの入りで、客層も幅広い。シアタートラムの前から2列目左寄りで5500円。休憩2回を含め2時間。

導入の「葵上」は著名な能をコンテンポラリーダンスで。生霊の女(六条御息所、黒田育世と宮河愛一郎)が伏せっている妻(葵上)を脅かし、鬼に変化するものの、祈祷の声に鎮められる。NODA・MAPなどを手掛ける黒田の振付は、鬼気迫りつつもちょっとコミカル。印象的な赤のセットと衣装、揺れ動く布や影の造形が面白かった。

続く「花子(はなご)」は狂言がベースで、「班女」の後日談にあたるとか。歌舞伎「身替座禅」にもなっているコメディーですね。夫(小林高鹿)が愛しい花子に会いに行くべく、取引先の風見(近藤公園)を身替りに置いていくものの、妻(片桐はいり)は企みを見破り、風見と入れ替わって夫を待伏せる。
町工場の設定で、原作の座禅衾のかわりに溶接マスクで顔を隠す工夫。お馴染みペンギンプルペイパルズの小林が軽快に、無茶な言い訳を繰り広げ、あげく相手が妻とも気づかずに、歌や踊りまでまじえて浮気の首尾を語ってしまって、大いに笑わせる。男ってしょうがないなあ。唐突に床下から飛び出す、猫のぬいぐるみも可笑しい。

ラストの「班女(はんじょ)」は世阿弥作とされ、かつて交換した扇に恋人を想う花子を描く能。今回は三島由紀夫のリメイク戯曲「近代能楽集」をベースにしている。孤独な漫画家・実子(片桐はいり)は花子(西田尚美)の狂気をはらんだ美しさにひかれ、同居して面倒をみている。吉祥寺駅のタクシー乗り場で恋人を待ち続ける花子の姿がネットで噂になり、ついに当の吉雄(近藤公園)が家に訪ねてくる。しかし花子が何故か「あなたは別人だ」と言い出して吉雄は去っていき、再び女2人の、ただ待つだけの暮らしが続く。
掲示板やSNSを駆使した設定に、うすら寒くて殺伐とした現代が透けて見えて、巧い。純粋な美が引き起こす悲劇なんだけど、片桐の存在感で、舞台全体にペーソスが漂い、奥行きが加わった。花子を渡すまいと吉雄相手にまくしたてたかと思うと、シュレッダー屑が舞い上がって転じた雪を黙々と箒で掃いたり、振幅が大きくて印象的だ。
カーテンコールでは片桐がちょっと照れながら、来場に感謝してました。

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文楽「御所桜堀川夜討」「本朝廿四孝」

第一八六回文楽公演第三部「御所桜堀川夜討」「本朝廿四孝」  2014年2月

再度足を運んだ文楽の2月公演は、時代物2作。冷え込みがきついせいか、ちょっと空席がある国立劇場小劇場。後ろ寄り、やや左で5700円。25分の休憩を挟んで3時間弱。

まず「御所桜堀川夜討(ごしょざくらほりかわようち)」から、弁慶上使の段を三輪大夫、英大夫で。やや地味だけど、豪傑弁慶が男泣きする珍しい演目ですね。冒頭の「海馬」のシーンは、義経の妻・卿の君を見舞った腰元信夫(一輔が上品に)の母おわさ(和生さん、激しい動きで大活躍)が、安産のお守りにとタツノオトシゴを渡す。他愛無いこよりを使ったクジ引き遊びや、女同士の会話が賑やかだ。
黒髪を振り立てたでっかい弁慶(玉也)が登場すると、一気に空気が重々しくなる。頼朝が義経の謀反を疑い、平家の血をひく卿の君の首を差し出せと迫っており、信夫を身替りにしようとする。おわさは、名も知らぬ父にひとめ会わせたいと必死に抵抗、その手がかりである真っ赤な片袖を示す。それを見た弁慶はいきなり信夫を刺しちゃって、実は自分が父親だ、娘よ、あっぱれお主の犠牲になってくれ、と振袖のもう片方を見せて告白する。英さん、なかなかの迫力だ。最後は信夫と、自害した乳人の首ふたつを持って仁王立ち。相変わらず、強引で悲壮な展開。だけど、不器用な弁慶にもお稚児時代があり、実は生涯一度の行きずりの恋をしていた、というひねりがロマンティック。色気があります。

休憩後に近松半二らの名作「本朝廿四孝」を、人間国宝揃い踏みの豪華配役で。この演目を観るのは2回目。
十種香の段は、嶋大夫さんと富助。さすが渋くて、染みますねえ。導入は鮮やかな黄色い衣装の蓑作、実は勝頼(玉女さんが端正に)を中央に挟んで、許婚の勝頼を想い続ける八重垣姫(待ってました蓑助さん)と、武田家の宝・諏訪法性の兜を探す腰元濡衣(文雀さんが重厚に)が、交互に思いを吐露する。絵画的で美しい。中盤からは無茶で一途な赤姫が暴走して、独壇場。蓑助さんが細かい手の動きなどで、可愛さを存分に見せる。ついに姫の思いが通じるけれど、いとしい勝頼は謙信に見破られて追われる羽目に。
大詰め奥庭狐火の段は、期待の大スペクタクルだ。呂勢大夫に、迫力抜群の清治、ツレは清志郎さん。冒頭だけ琴が加わる。舞台装置は瑠璃灯が下がり、狐火が飛んで外連味たっぷり。
そこへお待ちかね勘十郎さんが、まず白い衣装の狐で登場。やっぱりこの人の狐は生き生きしているなあ。裃をぱっと替えて八重垣姫に変身。勝頼に急を知らせたいと思い詰め、兜に祈ると泉水に狐の顔が映る。諏訪明神の遣い・狐が乗り移って毛振りの激しい動きが続き、姫の早替わりでは左の一輔さんらも顔出しに! 最後は客席も明るくなって、玉勢さんらの狐もわらわらと集まってきて盛り上がりました!

小三治独演会「近日息子」「一眼国」「あくび指南」

柳家小三治独演会  2014年2月

冷え込んだ祭日。えっちら北千住のシアター1010まで、初めて大御所・小三治さんを聴きに行く。さらっとした江戸前の古典が楽しい。年齢層は高め。立派なホールの2階最後列で3800円。

前座は柳家ろべえで「近日息子」。与太郎と父親の頓珍漢なやり取りだ。与太郎は「近日より」をもっとも近い日、つまり明日からだと思い込む、親父が「頭が痛い」と嘆くと、気を利かせたつもりで医者を、さらに葬儀屋を呼ぶ。様子を見ていた長屋の面々は弔問の相談を始めるが、脱線して「お前はソースをホースと言っても間違いを認めない」などと喧嘩しちゃう。ちょっと三三さん風で、聴きやすかった。
続いて小三治さんが登場。「待ってました」と大きな声がかかる。師匠はイメージ通りの淡々とした口調で、大雪の日にタクシーを呼ぶ苦労、都知事選の投票に行き損ねた、といってもろくな候補がいない、談志は巧かったけど政治家にならなきゃよかった、政治家の応援は遠慮したい、自分は青山高時代から人気者で、ついにラジオの素人寄席番組で辞めないでくれと引き留められた、1回だけ若き細川さんの応援に行ったことがあるけど…などとご隠居風ボヤキ節を延々。ひょっとしてマクラだけかな、と思ったころ、「一眼国(いちがんこく)」を短めに。香具師が旅の六部僧に、見世物になる珍しい事物を尋ねる。北のほうで一つ目の少女に遭遇したと聞き、勇んで出かけると、一つ目の村人たちにつかまってしまい、「こいつ目が二つある、見世物に出せ」。現代の感覚だと暗い噺だけど、理屈っぽくなく飄々とした味わいだ。

中入り後、とぼとぼ登場して、今度はマクラ無しで「あくび指南」。唄も踊りも不器用な熊が、嫌がる八に付き合わせて、新しい習い事に行く。ちょっと粋な感じの家で、なんと習うのは「あくび」だ。下地は無いというと、入門編で春夏秋冬バージョンからと言われるが、夏の舟遊びシーンのせりふがなかなか難しくて四苦八苦。待たされて退屈した八のほうが、あくびを褒められる。
春風亭一之輔さんで聴いたことがある呑気な演目。今回のほうがさらっとして、逆に飽きなかったかな。熊はいかにも職人で、師匠の煙草が旨くて稽古どころじゃなくなるあたりで、思わず笑っちゃう。滑稽なぶん、色気は抑え目かな。
考えると落語には、庶民がもてたい一心で芸事を習うシチュエーションがけっこうある。だいたい顛末はくだらないんだけど、江戸っ子の粋を感じますね。

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文楽「七福神宝の入舩」「近頃河原の達引」

第一八六回文楽公演第一部「七福神宝の入舩」「近頃河原の達引」  2014年2月

都心に45年ぶりの大雪が降った翌日。気温は低いけど快晴となり、エンタメ度の高い演目を楽しんだ。いつもに比べればやや空席があるものの、若い人、外国人も含めて客層は幅広い。古典芸能通の知人とも遭遇。席は国立劇場小劇場の中央、やや後ろめで5700円。30分の休憩を挟んで3時間。

2014年の文楽初めは、めでたく「七福神宝の入舩(いりふね)」。東京では10年ぶりだそうです。大夫が松香大夫以下7人、三味線も清友以下7人、床からはみ出してずらりと並んで壮観だ。幕が落ちると、ぱあっと明るい船上に神々が集って、酒盛りの真っ最中。「銀世界」という言葉が、偶然にも今日にぴったりだ。順に隠し芸を披露することになり、三味線陣の腕の見せどころとなる。
寿老人(文司)は琴、布袋(幸助さん)は豪快に腹鼓、大黒天(清五郎)は胡弓。渋っていた弁財天(蓑一郎)も琵琶を披露し、福禄寿(文哉)は獅子頭を載せた長い頭を、器用に伸び縮みさせてコミカルに踊る。さらに恵比寿(紋臣)は手にした長い竿で船べりをリズミカルに打ち、エビスだけに生ビールまで飲んじゃって悪乗り気味。ついに大きな鯛を釣りあげ、受け取った布袋さんたちが上手にピクピクさせるのが可笑しい。最後に甲冑をまとった無粋な毘沙門(玉勢)が、誰も誘わないと文句を言って進み出るが、やっぱり音曲は苦手。大騒ぎして賑々しいエンディングでした。観ているほうも思わずニコニコ。

ロビーで休憩し、「近頃河原の達引(たてひき)」へ。2008、2011年にも観たことがある、変化に富んだ世話物だ。導入の四条河原の段は文字久大夫、咲甫大夫らに宗助。暗闇のなか、官左衛門と勘蔵が悪事を相談している。そこへおびき出され、散々にいたぶられた伝兵衛(勘壽)が無言での激しい立ち回りの末、官左衛門を返り討ちにしてしまう。上方唄「ぐち」とメリヤスが不穏だなあ。大詰めで、背後にぱっと墨絵のような風景が表れるのが、悪夢から我に返る印象で鮮やかだ。

続けて堀川猿廻しの段は、前半でお待ちかねキング住大夫さん、錦糸が登場。滑り出しこそ響きは今ひとつかと思ったけど、やっぱり渋くていいなあ。粗末な猿廻し・与次郎宅で、まず老母(文昇)と近所の娘おつるが三味線を稽古し、悲劇を暗示する地歌「鳥辺山」を聴かせる。ツレは龍爾。
帰ってくる与次郎は玉女さん。玉男襲名のビッグニュースが発表になったばかりとあって、拍手が起きます。武将のイメージが強いけど、コミカルで実直な役も意外と合うんだなあ。与次郎が母に心配かけまいと、精一杯見栄を張る孝行ぶりを見せる。そこへお尋ね者となっちゃった伝兵衛の恋人で妹のおしゅん(紋壽)が、遊女だけにありえないきらびやかな姿で登場。兄はひとり豪快に食事しながら、妹を励ますけれど、おしゅんは煙管をつかいつつ沈み込んでいる。実はもう恋しい伝兵衛との心中を決意していた、というわけで、兄、母に伝兵衛への退き状と偽って書置きをしたためる。文字の読めない兄が切ない。
奥は津駒大夫に、人間国宝・寛治で安定感抜群だ。ついに伝兵衛が訪ねてきて、慌てた与次郎が、間違えておしゅんを締め出しちゃうドタバタを展開。伝兵衛が書置きを読み上げ、妹の真意が明らかになってからは、一転してしんみりと。おしゅんの「そりゃ聞こえませぬ伝兵衛さん」のクドキ、そして母の語りも痛切だ。与次郎は2人に逃げのびてもらいたい一心で編み笠を与え、精一杯明るく祝言の芸を披露する。2匹の猿は一人の遣い手が、左右の指人形でリズミカルに表現。ツレは孫の寛太郎君が堂々と。そんなカラ元気が一層悲しく、2人を送り出して幕となりました~

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天保水滸伝

天保水滸伝 ボロ忠売り出し  2014年1月

恒例の遅い新年会で、神田春陽さんの講談を聴く。日本橋の豊年萬福で。
神田の必修項目だという下総利根川周辺の侠客を描いた物語で、出世談として勢いがあるので、と前置きして「天保水滸伝」。
普段から身なりが貧しく、「ボロ忠」とあだ名される忠吉が、親分が湯あみしている隙に上等な着物と200両を持ち出し、あこがれの賭場に乗り込んで大ばくちを打つ。あまりに無茶な勝ちっぷりで喧嘩になりかけるが、度胸をかった別の親分がとりなしてくれて、任侠の世界でのし上がっていく糸口をつかむ、という夢のようなストーリーだ。
忠吉の、実に人を食った調子の良さ、賑やかな賭場と、そこに集まる侠客たちのひりつく熱気。過去2回参加した新年会で聴いてきた忠臣蔵とまた違って、あっけらかんとしたエンタメで面白かった。
マイ座布団、釈台持参で演じてくれた春陽さん、今年はいよいよ真打昇進ということで、応援したいです!

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