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シダの群れ 第三弾 港の女歌手編

シアターコクーン・オンレパートリー2013「シダの群れ 第三弾 港の女歌手編」  2013年11月

大好きな岩松了さん作・演出。任侠シリーズの3作目は第1作で抜群の存在感だった阿部サダヲが待望の復活、しかも小泉今日子が登場して大充実! シアターコクーンの前の方中央で9500円、休憩を挟んで2時間45分。

港町のクラブ「スワン」のワンセットで、チンピラ森本(阿部サダヲ)は行きがかりから都築組の若頭結城(小林薫)を手伝い、対立する和田部組との抗争に巻き込まれる。ふたつのストーリーが同時進行しており、ひとつは和田部組への内通者は誰なのか、という探り合い。もうひとつが渡米話が持ち上がっているクラブの看板歌手ジーナ(小泉今日子)を巡る、恋の危うい均衡だ。
終始抑えた演技の阿部が、いつになく大人っぽい。流れ者で、傍観者のポジションに立ちながらも、男と女であれ、上にたつ者と部下であれ、寄せられる思いに応えてやれよ、と全身で訴え続ける。本当に切ないなあ。そしてなぜか小箱を大事に持ち歩いている小泉今日子が、艶やか、かつ可愛い。ドレスにスパンコールのハイヒール、態度ははすっぱなんだけど、「長い腕」のエピソードとか、思わずスターらしさがあふれちゃう。この2人は存在自体が本当に魅力的だ。

加えて、渋い小林はもちろん、弱っちいマネジャー山室の吹越満、都築組を手助けするようにみせかけて分裂を仕掛ける大庭組幹部・清水の豊原功補、さらには第2作で水野の女だった、いわくありげなヨシエの市川実和子が、それぞれ存在感を示す。任侠ものとあって一人残らずやたら格好つけてるし、ばんばん怒鳴り合うしで、なんだか気持ちよさそう。ほかに組長の単純な長男ノブに赤堀雅秋、若い者にAAAの末吉秀太、佐藤銀平ら。

戯曲はいつものように、裏のあるセリフのひりつく応酬が続く。シリーズ2作目ほどではないが、決してわかりやすくはない。とはいえ、予告無しでドンパチが始まってびっくりさせるし、ジャズの生演奏もあるしで、エンタテインメント性が高い。70年代っぽい「Summer Wine」の小泉・豊原デュエット、そして終盤のオリジナル曲「Sailing」がしびれます。お約束のダンスシーンはヨシエとノブの弟・新太郎の岡田力が格好良く。バックをつとめるSwan House Bandはピアノのエミ・エレオノーラら。

カーテンコールはダンスをまじえ3回。ラストでキョンキョンが客席から花束を受け取り、阿部が恥ずかしそうに挨拶。プログラムの裏表紙には岩松さんの渋い写真と東映マークのパロディが入って、遊び心がある。このシリーズは観ていてどんどんいとおしくなる感じ。森本が組長になるまで是非続けてほしいな~ 客席にはなんと渡辺えり、能年玲奈の「あまちゃん」陣がいらしてました!

ライクドロシー

M&O playsプロデュース「ライクドロシー」  2013年11月

お気に入り倉持裕の作・演出で、2月の「cover」以来です。下北沢本多劇場の後ろ寄り中央で7000円。若い男女を中心に客層は幅広く、立ち見も出る盛況だ。休憩無しの2時間。

「オズの魔法使い」をイメージした可愛らしいファンタジーだ。プログラムの装丁もまるで絵本。ある島に流れ着いた脱獄囚のアクロ(高橋一生)、バイス(片桐仁)、リオ(塚地武雅)はそれぞれ知恵、優しさ、勇気という足りない部分を抱えている。勝ち気な娘マッツ(長澤まさみ)に率いられて芸術家に化け、スラー実はマッツの兄ウルバ(川口覚)を救おうと、独裁者ザボット市長(銀粉蝶)と闘う。
往年のハリウッド映画みたいな、小ネタ満載の上質なコメディ。トンネル掘りというテーマは普遍的だし、軽やかな笑いにますます磨きがかかっている感じだ。もちろん可愛いだけでなく、市長と双子の姉シーベル(銀粉蝶の2役)の対立を解こうと、アクロが必死で演説するシーンには、身近ないじめから地域紛争までに通じる確かなメッセージもある。

長澤まさみがすらりとして、声も出ていて予想以上の達者なコメディエンヌぶり。大好きな高橋一生クンら、脱獄3人組もそれぞれ切なさがにじんで、いい。そして銀粉蝶が大きなカツラで銃を振り回し、存在感をいかんなく発揮。悪役がはまらないと、ファンタジーは気恥ずかしくて成立しないと思うんだけど、このかたはどんな荒唐無稽でもこなせて、さすがです。さいたまネクストシアターの川口クンが健闘。
客席にはなんと三谷幸喜さん、瀬戸康史クンが来てました~

鉈切り丸

いのうえシェイクスピア「鉈切り丸」 2013年11月

脚本青木豪、演出いのうえひでのり、音楽岩代太郎、豪華キャストによるあっけらかんとしたチャンバラ・ファンタジーだ。東急シアターオーブの2階席でなんと1万2500円。新感線ファンにジャニーズ、宝塚ファンと女性が多い。俳優はヘッドセット使用。休憩を挟んで3時間半。

怪異な容貌で口がうまく、残忍な野心家リチャード3世の強烈なキャラクターを、平安末期の武将・源範頼(森田剛)に移して創作。策を弄して平家、木曽義仲、純な弟・義経(須賀健太)、忠臣・和田義盛(木村了)、さらには権力者の兄・頼朝(生瀬勝久)まで、次々と滅ぼして、ついに将軍まで上り詰めるものの、梶原景時(渡辺いっけい)に裏切られて蓮池で最期を迎える。
陰惨な物語だけど、冒頭から本水を降らし、衣装はきらびやか、バックは篳篥(ひちりき)入りのロック生演奏という派手なエンタテインメントだ。スピーディーな立ち回りと、軽い頼朝と鬼嫁・北条政子(岩村麻由美)、史書を執筆する大江広元(山内圭哉)らによるコミカルなシーンを交互に展開。そこに範頼がむりやり妻にした巴御前(成海璃子)、範頼を捨てた母(秋山菜津子)との愛憎がからむ。

アクションばっちりの森田剛が舞台を引っ張る。やっぱり独特の声がいい。印象的だった「金閣寺」に比べると切なさ、屈折ぶりはかなり物足りないけれど。岩村が堂々と見得をきめ、意外にいのうえ作品初登場という生瀬や、渡辺、秋山らがさすがの安定感を発揮する。加えて建礼門院(生霊)に麻実れい、弁慶に千葉哲也と、なんとも贅沢な布陣だ。初舞台の成海ちゃんや須賀も健闘してましたね。

片鱗

イキウメ「片鱗」 2013年11月

大好きな前川知大作・演出。新作は日常の地続きで起こる奇妙な出来事を描いたホラーで、またしても知的、かつ刺激的でした。青山円形劇場の最前列で4200円。客層は若く、芝居好きの雰囲気が漂う。休憩無しの1時間45分。テーマが真摯だし、演技がすぐ目の前で展開され、緊張感があって全く飽きさせない。

舞台は地方都市の住宅街。ある父娘が引っ越してきてから、平和なご近所付き合いが破綻していく。街をうろつく不審者、なぜか枯れ始める草木、住民の奇天烈な言動…。
現代社会には、必要だけど周囲に脅威を与えてしまう存在がたくさんある。便利さは享受するけれど、面倒を遠ざけたい、自分だけは無関係でいたいと願う、ごく普通の庶民感覚の甘さ、身勝手さ。繰り返される「許さない」という神経に触る言葉が、人々の悪意なき狭量さを見せつけ、そこへ謎の水「重水」が、まさに重くのしかかってくる。シリアスな内容なんだけど、随所に笑いをまぶしてあり、決して大仰に拳を振り上げることなく、観る者の想像力に訴えるところが巧い。

360度の客席の中央に、卓球台のような黒い腰高のステージを4つ並べ、1つずつを家、隙間を十字路に見立てたシンプルな構成だ。セットは無く、小道具は紙袋や大きな模造紙くらい。透明な「水」がじわじわと日常を浸食し、滴ったり、意表をついて突如ぶちまけられたりする。とても効果的だ。
客演で不審者役の手塚とおるが、終始無言、ゾンビみたいな動きでひときわ目を引き、時に客席に座ったりして存在感たっぷり。引っ越してきた娘・清水葉月が「宿命の少女」を演じてフレッシュだ。ほかはお馴染みの達者なメンバーで、地元FM局に勤める男・安井順平、その妻・岩本幸子、高校生の息子・大窪人衛、不動産管理業の盛隆二、ガーデンデザイナーの伊勢佳世、その恋人・浜田信也、そして越してきた父・森下創。これからも目を離せない劇団です。

ザ・スーツ

パルコ劇場40周年記念公演「ザ・スーツ」  2013年11月

シンプルだけど含意の深い、同時に歌や笑いでしっかりエンタテイメント性もある舞台を観た。もとになっているのは南アフリカ出身の黒人作家キャン・センバが、1950年代に書いた短編。モトビ・マトローツ、バーニー・サイモンの原作に、イギリスの巨匠ピーター・ブルック、長年の制作パートナーであるマリー=エレーヌ・エティエンヌが演出・翻案・音楽、さらに作曲家フランク・クラウクチェックという「魔笛」チームが揃った。パルコ劇場前のほう中央といういい席で8400円。お洒落な年配のひとり客が目立つ。約1時間15分。

物語は大人の寓話のように語りだされる。アパルトヘイト下のヨハネスブルグ郊外・黒人居住区に住むフィレモンは、妻マチルダの不倫に深く傷つき、浮気相手が残したスーツを客として扱う罰を与える。マチルダは地域活動や、才能ある歌に救いを求めるが、スーツを食卓にかけさせ、散歩に持ち歩く奇矯な行動を執拗に強いられて、自尊心を失っていく。精神の抑圧という残酷さ、罪深さが様々な差別と重なる普遍的な悲劇。

椅子数脚とテーブル、パイプハンガーで寝室やバス車内などを自在に表現、登場するのは俳優4人とミュージシャン3人(アコースティックギター、キーボードとアコーディオン、トランペット)だけ。知的だけど、気取ってはいない。どこかのジャズクラブにいるように女優が歌い、ホームパーティーの場面では観客を舞台にあげちゃったりして、意外に親密で素朴な手触りだ。日本語を織り交ぜ、ユーモアも随所に。
マチルダ役のノンランラ・ケズワが力強く、ニーナ・シモンのジャズ「フィーリング・グッド」などを達者に歌う。南ア出身のミリアム・マケバがヒットさせたというタンザニア民謡「マライカ」が胸にしみたなあ。終盤、ビリー・ホリディの「奇妙な果実」も重く哀しい。スーツの片袖に腕を通して踊るシーンは色っぽいし。ほかにシューベルトやバッハ、「禁じられた遊び」など耳慣れた曲も登場。
舞台上部に字幕付き。岡本健一さんが来ていたらしいです。

「通し狂言 仮名手本忠臣蔵」

歌舞伎座新開場柿葺落「吉例顔見世大歌舞伎」夜の部 2013年11月

新開場イヤーの大詰めは、もう新年気分の顔見世で、なぜか2カ月連続「忠臣蔵」の通し上演だ。地下の木挽町広場はちなんだ菓子など義士特集で賑やかだし、客席は団体も含めて、なかなかの盛況だ。俳優陣はついに仁左衛門さんまで病気休演という事態。初の全段通しで由良之助を演じる吉右衛門さん、そして菊五郎さんのベテラン2人が昼夜で舞台を支える。かなり苛酷だと思うけど、存在感はさすがです。前から3列目、花道を間近で見る席で1万8000円。約4時間半。

筋書と、浮世絵をあしらった「歌舞伎絵暦」をゲットし、まず5段目・山崎街道鉄砲渡しの場から二つ玉の場。猪が走ってくるときのテンテレツクなどの効果音、暗闇での無言の演技に緊迫感がある。斧定九郎の松緑は、割とあっさりしてたかな。
舞台が回って6段目、こってりと与市兵衛内勘平腹切の場。メーンの配役は2009年のさよなら公演で観たのと同じ、菊五郎の勘平、時蔵のおかる、東蔵の母おかや。浅黄の紋服が哀しい菊五郎さんが、袖で財布を確認して、驚きのあまり煙管を取り落としたり、切腹してから延々と名セリフをしゃべったりして、大活躍する。「金」という言葉が47回出てくるという、人間くさい、庶民的な場だから音羽屋がはまるのかな大向こうが活発で、盛んに「七代目」の声がかかっていた。

30分の休憩中に喫茶室「檜」で一服し、起伏のある7段目祇園一力茶屋の場。由良之助の吉右衛門さんが「蛸肴」など廓遊びの色気、「釣燈籠」あたりからの冷徹、ラストの怒りの長セリフで、柄の大きさをみせつける。平右衛門は仁左衛門の代役でベテラン梅玉さん。おかるとのコミカルなやりとり、実直さが意外に合っていた。さよなら公演の時の幸四郎も良かったけどね。六代目歌右衛門の養子で元福助だった梅玉とコンビを組む遊女おかるは、いよいよ2014年3月に歌右衛門襲名が決まった、おきゃんな福助さん。上手屋台に登場して由良之助とじゃらつき、途中は花道をどたばた、父と夫の死を知ってからは悲嘆のクドキと、大忙しだ。女形の大黒柱として貫録十分だけど、はかなさ、色気は今ひとつかな~。力弥は富十郎さん遺児の鷹之資くん。お座敷で志のぶさんら脇が活躍する「みたて」が、暢気で歌舞伎らしくていい。
10分の休憩を挟んで11段目は、勇壮な高家表門討ち入りの場からテンポよく。奥庭泉水の場では竹森喜多八の歌昇くんが平八郎の錦之助と、雪つぶてを投げ合ったりして立ち回りを演じる。溌剌として格好良いぞ! そして炭部屋本懐の場で幕。
体調万全ではないらしい吉右衛門さん、お疲れでした~ 赤川次郎さんがいらしてたかな。

031 033 048

METライブビューイング「エフゲニー・オネーギン」

METライブビューイング2013-2014第1作「エフゲニー・オネーギン」  2013年11月

METのシーズン開幕作は、私にとって初めてのチャイコフスキー。絶対的スターソプラノのアンナ・ネトレプコが、恩師ワレリー・ゲルギエフの指揮で3シーズン連続となる開幕登板。華やかな存在感に酔いました~ 2011年のリングに始まるワーグナー、ヴェルディシリーズの後、今季のMETはロシアシフトなのかな。新宿ピカデリーのいつもの最後列中央で3500円。けっこうお洒落な中高年カップルらで満席だ。休憩2回を挟み4時間弱。

プーシキンの韻文小説を元にした悲恋物語は、けっこう単純。放蕩者オネーギンが、地主の娘タチヤーナの純な恋を一度は拒絶する。決闘で友人レンスキーを倒してしまう悲劇を経て、再会。美しい成長ぶりに真実の愛を告白するが、公爵夫人となったタチヤーナは思いを残しつつ去っていく。3幕冒頭の有名なポロネーズなど、ベタなほど甘く、ゆったりとドラマティックな旋律にどっぷり浸かる。

豪華歌手陣は聴かせどころ満載だ。なんといってもネトレプコ。1幕の美しく長大な「手紙の場」で大拍手を浴び、3幕では夢見る文学少女から堂々たるサンクトペテルブルク社交界の華に変身。真っ赤なドレスと自信満々ぶりがはまるなあ。インタビューでキャピキャピ少女役は卒業と言ってたけど、まさにそんな感じ。
男性陣ふたりはポーランド出身。タイトロールのお馴染みマリウシュ・クヴィエチェン(バリトン)は、ダメ男役がますます色っぽい。親戚の財産目当てで選んだ農村暮らしに退屈し、ニヒルな態度でタチアーナに説教するわ、友人を手ひどくからかうわ。傷心の旅から戻っても嫌われ者。でもタチアーナとの2度のキスが切ないんだな。小道具のリンゴをかじりながらのインタビューでは今回、傲慢さは抑え気味とコメントしてた。気の毒なレンスキー役はピョートル・ベチャワ。テノールでは珍しく脇に回り、「わが青春の輝ける日々よ」の美声が繊細な理想家らしくていい。妹オリガは「リゴレット」で観た細身のオクサナ・ヴォルコヴァ(メゾ)。

演出は英国のデボラ・ワーナーが病気降板し、ハリーポッターシリーズなどの女優フィオナ・ショウが引き継いだとか。幕間の風景映像、田舎屋敷の背の高いガラス窓や貴族の館の柱列、ラストに舞う雪がシンプルで美しい。衣装などは19世紀末の設定でリアル。冒頭の収穫を喜ぶ農夫たちや、タチアーナの誕生日パーティー、サンクトの舞踏会のダンスが現代風で面白かった。

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