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フィガロの結婚

フィガロの結婚  2013年10月

台風接近の雨のなか、新国立劇場オペラハウスへ。定番モーツァルトとあって客層は幅広く、ホワイエにはなんだか浮き浮きした雰囲気が漂う。1階中央あたりの良い席で1万8900円、休憩を挟んで3時間強。
実はこのアンドレアス・ホモキ演出は、個人的に思い出深い。というのも、2007年にオペラ観劇デビューを飾ったプロダクションなんですねえ。その後、プッチーニからドニゼッティ、ワーグナー、ヴェルディなどを体験し、ついにはライブビューイングに通っちゃうほどオペラにはまりました。最初にこの、普遍的で明朗なドタバタ劇を、お洒落な演出で観たおかげかも。勧めてくれた知人に感謝。
演出は現代風だけど、決して奇をてらってはいない。段ボール箱が転がるシンプルな装置と、モノトーンの衣装、繊細に移ろう照明。改めて観ると、物語が進むにつれ徐々に壁が崩れて、人々の目論見が崩壊していくさまが面白い。

序曲から、ドイツ出身の指揮ウルフ・シルマーと東フィルに少し過剰なくらい「ブラボー」の声がかかって盛り上がる。歌手陣は新国立初登場の若手が中心で、溌剌とした印象。筆頭は伯爵夫人のマンディ・フレドリヒ(ソプラノ)かな。「愛の神様」「あの喜びの日は」で、堂々と舞台を牽引していた。フィガロは当初のキャストが交代してマルコ・ヴィンコ(バス)。声が通り、長身、表情も豊かでいい。
伯爵のレヴェンテ・モリナール(バリトン)も声量十分で安定していたし、スザンナのチャーミングな九嶋香奈枝(ソプラノ)は、滑り出しの声がイマイチだと思ったけれど、徐々に乗ってきた。終始よく動いて歌いきり、カーテンコールでは自ら感激していた様子。ケルビーノのレナ・ベルキナ(メゾ)は、この役にしては女性らし過ぎたかな。マルチェッリーナの竹本節子(メゾ)、ドイツに本拠をおくバルトロの松位浩(バス)は巧くて喜劇がはまっていた。

軽やかなモーツァルト節が、全編心地よいのはもちろんだけど、今回は大詰めで、伯爵が臆面もなくいきなり赦しを乞うところの不似合いなほどの音楽の美しさが、特に胸に響いた。全体にはのんびりしたテンポの古典だし、さほどドラマチックな展開もない。けれど、いつの時代も人は愚かで、だからこそ愛おしい!と思える作品なんだなあ。
ところで今回は館内のあちこちに、1997年以来「来場者累計300万人感謝」の掲示があった。この機会に、一段の動員の工夫を期待しましょう!
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