唐版滝の白糸
シアターコクーン・オンレパートリー2013 唐版滝の白糸 2013年10月
唐十郎作、蜷川幸雄演出コンビの1975年初演作で、4度目の再演だ。「下谷万年町物語」「盲導犬」に続いて足を運んでみて、蜷川さんの唐作品への並々ならない思い入れを感じる。Bunkamuraシアターコクーンの1F最後列右寄りで9500円。年配の演劇ファンから宝塚派らしい女性まで観客は幅広い。休憩無しの1時間半強。
新派劇にもなった泉鏡花「義血侠血」に想を得つつも、ストーリーは独自のもの。取り壊しを待つ安アパート(長屋)前のワンセットで、少年アリダ(窪田正孝)が、1年前に兄と心中をはかりながらひとり生き残った水芸人・お甲(大空祐飛)と待ち合わせる。そこへ少年を幼いころに誘拐したらしい銀メガネ(平幹二朗)や、兄と一旗揚げようとしていた羊水屋(鳥山昌克がパワフルに)という胡散臭い人物がからむ。
相変わらず、かけ言葉満載のセリフ劇だ。猥雑さは薄くて、むしろ淡々と感じられるほど。登場人物も少なく、冒頭などは少年と銀メガネふたりだけの言葉の応酬が延々と続く。地下水脈や血管に通じる「蛇口」とか、「自分の影を踏む」といった飛び交うイメージの断片が、豊かで切ない。
もちろん蜷川さんならではのメリハリはある。冒頭、雑踏の効果音のなかを、客席の通路から白いフードをかぶった少年が歩いてくるシーンの詩情。暗転からぱあっと照明があたって、古箪笥の上に真紅のドレスのお甲がすっくと立ち、なぜか三輪車が空を飛んでいくシーンの鮮やかさ。
そしてクライマックス、袴姿のお甲が派手な水芸を披露するところまでは題名から予想していたけど、大音響の「ワルキューレの騎行」と爆撃音にのってお甲が飛翔し、そのまま幕切れになっちゃったのにはいささか呆然とした。初演時、大映の撮影所を借り切って実現したという伝説のスペクタクル。すべては肉親を奪われて憎いはずのお甲から、未熟な少年が受け取ったタフな生命力、捨て身の優しさへの憧憬だったのかな、と思えてきた。ロマンチックだなあ。
映像でいつも独特の存在感を示す窪田、宝塚退団後の初舞台で蜷川さんにチャレンジした大空が、大量のセリフと激しい動きで健闘。でも席が遠かったせいか、あまり色気とか、吸引力とかを感じられなかったのが残念でした。それに比べると、終始謎めいた悪人の平さん80歳が、堂々たる声と姿に品格があって、ちょっと可愛げさえ漂わせていて、さすがでした!
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