冒した者
葛河思潮社第三回公演「冒した者」 2013年10月
三好十郎作、長塚圭史演出の深い舞台を観る。吉祥寺シアターの中段右端で6300円。小さい劇場が、若者中心に満席です。休憩を挟んで3時間強。
長塚さんの葛河プロジェクトによる三好作品は、2011年の「浮標」以来2度目。砂場だった前回に引き続き、今回もセットはシンプルこのうえなく、モノトーンの暗い舞台にぽつぽつと椅子があるだけ。小道具もないので、食事シーンなどはマイムのようで不思議だ。その分、詰め込まれた言葉、問いかけに緊迫感が満ちて、ちっとも飽きない。時折斜めに差すスポットの照明が、闇の深さをくっきりさせて効果的。
設定は終戦後まもなく、東京郊外の塔がある大きな屋敷。妻をなくして意欲を失っている劇作家の「私」(田中哲司)と、屋敷の持ち主の縁者、管理人ら、それぞれ思惑を抱えた9人が、表面は穏やかに暮らしている。そこへ私を訪ねてきた物静かな演劇青年(松田龍平)。彼が実は殺人を犯したばかり、とわかって住人の間に動揺が走り、複雑な愛憎やエゴが噴出する。
戯曲の執筆は1952年。原爆投下によって神の領域を侵してしまった人間の、身勝手な生。テーマはちっとも古くない。観念的なばかりではなく、日常の恋愛やら投資やらの話題、コミカルなやり取りも散りばめられている。難しそうだけど、じっくり読んでみたい戯曲だ。
俳優陣では飄々として観察者めいた松田龍平が、不思議な透明感を漂わせて秀逸。塔から街を逆さに眺める、意表を突く姿が目に焼き付く。「浮標」に続いて膨大なセリフをこなす田中哲司、とても色っぽいのに清潔さが漂う松雪泰子(声に力があっていい)はもちろん、江口のりこ、中村まこと、長塚らが安定して達者。被爆したモモちゃん役の木下あかりになかなか存在感がある。
客席には堤真一さん、常磐貴子さんらしき姿も。内容の濃い舞台でした~
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