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伊賀越道中双六

第一八四回文楽公演「伊賀越道中双六」  2013年9月

竹本義太夫300回忌で、「曾我兄弟」「赤穂浪士」と並ぶ3大仇討ちの物語を15年ぶりの通しで。絶筆となった近松半二、加作の時代物だ。まず初日の第1部に足を運んだ。国立劇場小劇場。約5時間の長丁場。
有名な「沼津」は2009年にキング住大夫さんで、また亡き勘三郎さんの歌舞伎版を2011年に平成中村座で観たことがある。今回は発端の鎌倉から東海道を西へ向かう旅情とともに、巻き込まれる人々の悲哀、地味だけど変化に富んだ筋立てがよくわかる上演。

冒頭の和田行家屋敷の段は口が御簾内で、人形も頭巾を着用。悪者・沢井股五郎(玉輝)が名刀正宗を狙って、いきなり家老・和田行家を斬っちゃう。乱暴だなあ。
続く円覚寺の段で冷徹な黒幕の沢井城五郎(蓑二郎)が登場。行家の弟子で賢い佐々木丹右衛門(玉志)と、股五郎、その母・鳴見(文司)の身柄交換で駆け引きを繰り広げる。老女の鳴見が、刀のすり替えに協力する自己犠牲が壮絶だ。丹右衛門は斬られて、行家の子息・志津馬(清十郎さん)に仇討ちを託す。代演の靖大夫、奥は文字久大夫さん・藤蔵さんコンビで。明朗だけど情感は今ひとつかな。ここまでで約1時間半。

ランチ休憩を挟んで唐木政右衛門屋敷の段。格好良い剣豪・政右衛門(玉女さん)が突然、行家の娘・お谷(和生さん)を離縁して幼い妹と再婚する。滑稽なやり取りがあった後、助太刀を引き受ける真意が明かされる。睦大夫・清志郎さんのあと、ベテラン咲大夫さん・燕三さんでしっとりと。
誉田家大広間の段は政右衛門が、仇討ちの旅に出るためわざと御前試合に負けるが、主君の大内記(勘壽)は意図を察して暇を与える。試合や槍のシーンでお囃子が入ったり、無音になったりするのが面白く、咲甫大夫・喜一朗は伸び伸びとしていい。珍しく語りながら人形の動きを確認してた感じ。2時間弱。

10分の休憩を挟んでいよいよ沼津里の段。股五郎サイドの呉服屋十兵衛(和生さんが大活躍)が、年寄りの雲助・平作(勘十郎さん。老け役は珍しい気がするけど、たどたどしさが巧い)と巡り会う。コミカルな道中から平作の粗末な家へ。津駒大夫をベテラン寛治さんが支えます。ツレは寛太郎クン。
続く平作内の段で、美人の娘・お米(蓑助さん)が恋人・志津馬の傷を治すため、十兵衛が持つ妙薬の印籠を盗もうとする。元は傾城瀬川とあって、クドキがなんとも色っぽい。十兵衛が実は2歳で養子に出した平作の息子という皮肉な因縁も明らかに。志津馬の家来・池添孫八で幸助さん。呂勢大夫さんとベテラン清治さんは、なかなか細やかで聴かせます!
大詰め千本松原の段で、お待ちかね住大夫さんが登場。もちろん錦糸さんと、胡弓で清公。夜道を行く十兵衛に平作が追いつき、自己犠牲によって股五郎の行き先を聞き出す。親子の対面、ため息のような念仏で涙、涙。住さんが聴けてよかった!

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そして嵐が去った三連休最終日に、怒濤の第二部を観劇。今度はやや左寄りの席で6500円。
藤川新関の段は大夫5人、三味線6人で、コミカルかつ軽快だ。茶店の娘・お袖(文雀)が志津馬(清十郎)に一目惚れし、「茶の字づくし」で言い寄る奴の助平(代役で勘十郎さん)をあしらって、持っていた関所の手形と沢井家の手紙を手に入れる。途中で幕が下り、助平が遠めがねで夢中になる三河万歳「寿柱立万歳」を勘市・一輔コンビで演じる趣向が面白い。
続く竹藪の段は御簾内で靖大夫・寛太郎くん。飛脚に身をやつした政右衛門(玉女)が雪のなか、鳴子が仕掛けられた竹林で捕手を蹴散らし、関所を破るのがスリリングだ。

10分の休憩後、いよいよ文楽屈指の大曲という岡崎の段を、4組の大夫・三味線でたっぷり2時間。切の嶋大夫・富助が切々と染みいり、後の千歳大夫・団七がドラマチックだ。運命的に引き寄せられてくる人々の不幸が壮絶で切ない。
まず「相合傘」でお袖と志津馬がお袖の家にやってくる。父で関所の下役人・幸兵衛(勘十郎さんが柄の大きい演技)に対し、志津馬は自分がお袖の許嫁で仇の股五郎だと偽る。また幸兵衛は追われる政右衛門をかくまい、かつての師弟だとわかって、婿の股五郎に加勢してほしいと頼む。
女房が糸を紡ぎ、政右衛門が煙草を刻むかいがいしい場面があり、悲劇のクライマックスへ。乳飲み子を抱えた巡礼姿のお谷(和生)が政右衛門を追いかけてきて、癪を起こし門口で倒れ込む。女房が子供だけは炬燵に入れてあげるものの、政右衛門はお谷を助けることを頑なに拒む。
ついに子供の素性が露見すると、なんと政右衛門は自ら手にかけ、庭に投げちゃう。悲惨だなあ。その涙を見て幸兵衛は、2人こそ志津馬と政右衛門だと悟り、協力を決意して股五郎が中仙道へ向かったと教える。さらに隠れていた仇サイドの眼八を切り捨て、一行を見送る。

30分の休憩で食事した後、ついに大団円。伏見北国屋の段は英大夫・清介で明るくテンポ良く。船宿で志津馬と瀬川(一輔)、家来の孫八(幸助さんが生き生きと)、ヤブ医者実は孫六(玉勢)が仇一味の林左衛門(文司)をだまして、股五郎の居所をつかむ。沼津の十兵衛(和生)が再登場、身を挺して立ちふさがるが、股五郎たちは伊賀を通ることを教えて息絶える。つくづく可哀想です。
大詰め伊賀上野敵討の段は大夫5人、三味線1人による立ち回り。名乗りを上げ、見事股五郎(玉輝)を討って本懐を遂げる。

そして通し観劇の記念品「沼津の段の懐中稽古本復刻版」をゲット。いや~、お疲れさまでした!
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