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ヴェニスの商人

彩の国シェイクスピア・シリーズ第28弾「ヴェニスの商人」  2013年9月

怒濤のエンタメ3連休。1日目は蜷川幸雄演出のオールメール(男性俳優のみ)7作目だ。異文化排除の悲劇を異端の歌舞伎俳優が怪演。澤瀉屋びいきなのか、女性客が目立つ。さいたま芸術劇場大ホールの1F中央やや左寄りで9000円。休憩を挟んで3時間があっという間です。

シャイロックの猿之助が、やりたい放題でとにかく圧巻。猫背でとぼとぼ歩く老人の造形で、登場いきなりニラミ! 1幕ラストには裏切った娘への怒り、アントーニオへの復讐が爆発して、狐忠信かと思うような激しい動き。目の縁と舌に施した赤い化粧が鮮烈だ。続く2幕法廷での憎々しい意固地さ、独特の「笑い」の演技から一転、打ちのめされてからはうずくまって俊寛ばりの悲哀を体現。引っ込みでは客席通路の前方で、熊谷陣屋よろしくたっぷりと引っぱり、さらに戯曲にはないという無言のラストシーンで余韻を残す。シェイクスピアを席巻する歌舞伎、まさに異端のパワーというべきでしょうか。
俳優陣では美と叡智のポーシャ・中村倫也が声が通って立派。横田栄司のバサーニオはヨレヨレの遊び人風で、吉田鋼太郎さんみたいかな。意外にもニナガワ初出演というアントーニオの高橋克美さんはアウェーで我慢の演技だけど、いじめられ役が似合っていた。ポーシャの婿選びや指輪をめぐる騒動など、コミカルな脇筋もいいテンポだ。
猿之助らの存在感を前面に出したかったのか、構成はとてもシンプル。彫刻が描かれたパネルの開閉で、ヴェネチアの街とポーシャ邸を表現する。節目節目で街角や高窓から事態を目撃している、無責任な大衆が怖い。

「肉1ポンド」のエピソードは有名だけど、実は初めてちゃんと舞台を観て、実に多様なテーマを含んだ戯曲だと実感した。現代に通じる反ユダヤ感情、体制と異端の相克、投資や金融業に対する嫌悪、裁くはずの法がはらむ罪…。
個人的には、登場人物全員がさかんにカネに言及する点が面白く、これはシャイロックが持つ天秤が象徴する、「ものの価値を計る」話なのでは、と感じた。自らの価値は金、銀に値すると誇示していた求婚者たちは、結局何も得ることがない。また善人サイドのロレンゾーとジェシカは、持ち出した親の財産を無駄遣いしてしまう。いったい誰が、本当に価値というものをわかっているのか? 面白かったです。翻訳松岡和子。
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