獣の柱
イキウメ「獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)」 2013年5月
お気に入り前川知大の作・演出。よく働いているなあ。期待通り、とても面白かった。昨秋、東京芸術劇場で観た「上」は短編リミックスだったが、今回の「下」は2008年の短編を膨らませたSF年代記。知的で、笑いや可愛らしさもあり、ジンときて、そして考えさせられる。時代性が鋭敏。シアタートラム、前寄り中央のいい席で4200円。休憩無しの2時間強。
2008年、四国で暮らす天文ファンの青年・二階堂望が隕石を拾う。それは見るものを圧倒的に幸福にし、思考と行動を奪ってしまう不思議な力を持っていた。1年後、都市に隕石と同じ効果をもつ巨大な柱が降り注ぎ、社会は大きく変貌してしまう。
隕石と柱は、バベルの塔に対する姿なき神の制裁を思わせ、黙示録のラッパ吹きのエピソードも登場。それまでの豊かな暮らしは絶望的に否定されるが、二階堂の高校の先輩、通称「部長」は新しいコミュニティーを構築して、ディストピアを生き伸びる道を拓く。
しかし話がそこで終わらないのが、この作家の一筋縄ではいかないところ。約100年後、部長の曾孫・山田は運命的な出会いをへて、さらなる止揚へと若者を導く。奢りは思考停止を招くが、内省もまた一種の思考停止なのかもしれない。簡単に答えは見つからないけれど、否定を乗り越えようとする新たなる意志に、一筋の明るさが見える。
時制は2008~2012年と2096年を頻繁に行き来し、場所も高知の山間、東京、大阪に飛ぶが、観ていて全く混乱しない手際が鮮やか。簡単な椅子とテーブル、カーテンなどで場面を転換していく。劇団イキウメのお馴染みメンバーの演技も確かだ。二階堂の浜田信也は奇妙なダンスで独特の存在感を発揮。物語の軸である部長の安井順平や二階堂の妹・伊勢佳世は、普通らしさとほどよいコメディセンスに説得力がある。客演の池田成志が、怪しさを一手に引き受け、かつ切なさも漂わせて絶妙のバランス。