木の上の軍隊
こまつ座&ホリプロ公演「木の上の軍隊」 2013年4月
敗戦後、2年も木の上に潜伏していた兵士ふたりの実話をもとに、井上ひさしがずっと上演を目指していたという原案を、蓬莱竜太が戯曲化、栗山民也が演出。女性グループ、年配の男性と観客はけっこう幅広い。シアターコクーンの1F中段左寄りで1万円。
国家と故郷、支配と信頼、名誉と良心、さらには国民感情というものの危うさ。様々な矛盾を矛盾のまま提示する戯曲は、この時期に観る価値があるものではないか。プログラム「前口上」に掲載された井上メモの強い思いを、1976年生まれの蓬莱さんが独自に、そして知的に消化した印象だ。現実を想定しつつ、寓話的な広がりを感じさせる。
中央にそびえるガジュマルの木だけのワンセットで、上官の山西惇と新兵の藤原竜也が、濃密なやり取りを繰り広げる。登場人物はほかに木の精のような「語る女」の片平なぎさだけ。でも、2時間近くがちっとも長くない。
前段は潜伏生活の悲惨と滑稽さや、2人の関係の変化で軽妙に笑わせておいて、終盤に向かってじわじわと緊張感を高めていく。いつもながら藤原くんの切なさが絶品。泣かせます。もちろん山西さんも、屈折した人物像に説得力がある。この2人は急傾斜の木を昇ったり降りたり、かなりハードだ。2時間ドラマの女王のイメージしかなかった片平さんも声に力があって、なかなかよかったな。カーテンコールがチャーミングだし。役どころはちょっと説明過多ではあったけど。
抑制のきいた演出に、照明の鮮やかな移り変わりと、遠くから聞こえてくる潮騒が映える。ヴィオラの演奏は徳高真奈美。
« レミング | トップページ | 歌舞伎「伽羅先代萩」「廓文章」「梶原平三誉石切」「京鹿子娘二人道成寺」 »
「演劇」カテゴリの記事
- ドードーが落下する(2025.01.18)
- 消失(2025.01.25)
- 2024年喝采尽くし(2025.01.01)
- 天保十二年のシェイクスピア(2024.12.28)
- モンスター(2024.12.28)
コメント