METライブビューイング「パルシファル」
METライブビューイング2012-2013第10作「パルシファル」 2013年4月
ワーグナー生誕200年に、最後の大作オペラをMETらしいキャスティングで。休憩2回を挟み、なんと5時間35分の長尺だけど、新宿ピカデリーはけっこう入ってました。3月2日上演。いつもの最後列で、料金も特別5000円。
なにしろオケが美しくて圧倒的でした! 「タンホイザー」や「リング」に比べるとわかりやすい旋律は少ないけれど。指揮はバイロイトでもこの曲を振っているというダニエレ・ガッティで、ゆったりした演奏。ひときわ喝采を浴びてましたね。インタビューでエリック・オーウェンズが「全部暗譜しているのは凄い」と振ったら、「それはたいしたことじゃない」とさらり。格好良いなあ。
物語は幻想的かつ難解だ。ドラマというより脳内世界。1幕だけで何と2時間あって、無垢の青年パルシファル(ヨナス・カウフマン、テノール)が聖杯守護団の国モンサルヴァートに迷い込み、傷ついたアンフォルタス王(ペーター・マッティ、バリトン)による儀式に参加するものの、騎士グルネマンツ(ルネ・パーペ、バス)に追放される。
2幕は70分。魔人クリングゾル(エフゲニー・ニキティン、バス)の城にたどり着いたパルシファルが、謎の女クンドリ(カタリーナ・ダライマン、ソプラノ)に誘惑されたことで突如知性に目覚め、魔人から聖槍を奪回する。3幕は80分で、舞台は再びモンサルヴァート。聖金曜日の朝、聖槍を携え凛々しく生まれ変わったパルシファルが、アンフォルタスの傷を癒して王位を継ぐ。社会の精神的な荒廃を、犠牲と高潔さによって乗り越えていくイメージが強烈だ。
長丁場をほぼ5人で歌いきるドリームキャストは皆、驚異的な歌唱と我慢の演技で大拍手でした。出身はドイツ2人、スウェーデン2人、ロシア2人。堂々たるパーペは1幕ほとんど歌いっぱなしだし、マッティは高めの声が綺麗で、苦悶ぶりを熱演。ダライマンも女性から母性への変化が貫録だ。カウフマンは暗めの声がイメージにぴったりで、上半身裸で奮闘してました~
演出は映画「レッド・バイオリン」やシルク・ドゥ・ソレイユ「ZED」のフランソワ・ジラール。男性はシンプルな白シャツと黒ズボン、女性は黒いドレスです。冒頭でネクタイや時計を外す演出があり、時空にとらわれない普遍的な設定かな。キリスト教に立脚した物語だと思うけど、ゆっくりとしたモダンダンスには仏教っぽい仕草も。
セットが雄大で気持ちいい。1幕で荒涼とした大地に亀裂が走り、血が流れて2幕の禍々しさを暗示する。2幕は全編、驚きの赤い水につかりながらの演技だ。生々しいし、30人くらいの「貞子」が登場して怖い。3幕に至り、一転して巨大な地球の映像が背景に浮かび、絵画のような美しさで世界の救済を示す。幕間のインタビューでは技術監督のセラーズ氏が、水の温度を保つ工夫を明かしてました。いやー、贅沢でした。
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