ヘンリー四世
彩の国シェイクスピア・シリーズ第27弾 ヘンリー四世 2013年4月
演出蜷川幸雄、翻訳松岡和子、構成河合祥一郎。2部作を1本にまとめており、15分休憩を挟んで約4時間半という大作だけど、欲望のパワーがみなぎり、長さを感じさせない楽しい舞台だ。さいたま芸術劇場大ホール、2F最後列の中央寄りで9000円。俳優の表情を観るにはオペラグラスが必要なものの、広い舞台全体がよくわかる。季節はずれの冷たい雨をものともしない盛況で、旬の俳優・松坂桃李人気なのか若い女性も多い。
タイトロールは14世紀末にランカスター朝を開き、敵対勢力との闘いに明け暮れたイングランド王。しかし物語の中心となるのは皇太子ヘンリー(ハル王子)のほうだ。父に背を向け放蕩の日々を送っていたが、やがて覚悟を決めて後に名君と呼ばれるヘンリー五世となる。
そんな成長ぶりとの対比で舞台を席巻するのは、欲望のまま生きる悪友ファルスタッフ。このシェイクスピア史劇屈指といわれる人気キャラを、吉田鋼太郎がお茶目に演じて、痛快な存在感を示した。
毛むくじゃら、巨漢の扮装をして、誰かれ構わずバンバン体当たりするわ、居酒屋の女将クイックリー役の立石涼子がセリフを言い間違えると、しつこく突っ込むわ。2幕冒頭では客席に座り込んじゃうし、とても1年前に観た「シンベリン」の重厚な吉田さんと同じ人とは思えない暴れっぷり。1幕では酒と女に明け暮れる奔放さに色気があって、ちょっと掠れた声が魅力的だし、2幕からは隠しようのない老いと強がりが、哀愁を醸し出して切ない。
対する皇太子は注目の松坂桃李。白い衣装を翻し、細身で爽やか、初舞台から2年ぶりというけれど、膨大なセリフをこなして健闘していた。ファルスタッフとの息のあったじゃれ合いもチャーミング。パパ・ヘンリー四世の木場勝己が、静かなセリフもよく聞こえて驚異的な説得力だ。ほかに高等法院長の辻萬長やたかお鷹ら、いつもの面々はもちろん安定している。情熱的な敵役ハリー・パーシー(ホットスパー)の星智也が長身でよく声が通り、予想以上に目立ってましたね。
演出はいたってシンプルで、鏡など大がかりなセットは無し。今回は俳優陣のパワーに任せたということだろうか。宮廷のシーンは舞台の奥行きいっぱいに柱や燭台が並び、その彼方からいちいち俳優が駆けてくる。スケールの大きさが気持ちいい。一方で庶民側である居酒屋などは、背景を幕で区切って親密に。大詰めでは2010年「ヘンリー六世」の百年戦争につながる赤いバラが降ってました。
1月に狭心症で入院した重鎮・蜷川さん。入り口付近でお元気に財界人と談笑してました。シェイクスピア全戯曲37本の上演を目指すこの企画もあと10本だそうです。応援したい!
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