今ひとたびの修羅
シス・カンパニー公演 今ひとたびの修羅 2013年4月
雨風のなか、新国立劇場中劇場へ。なんと前から2列目、やや左寄りの特等席で、堤真一、宮沢りえ、風間杜夫という豪華キャストを堪能した。SS席1万500円。15分の休憩を挟んで3時間弱。
尾崎士郎「人生劇場」を原作にした1985年初演の宮本研脚本を、いのうえひでのりが演出。なぜこのタイミング、といぶかりつつも、昭和初期、すでに時代遅れになっていた渡世人の世界を楽しむ。短く言っちゃうとベタな任侠映画風。冒頭、着流しの堤さんが土手から姿を現し、タイトルの横断幕が下りるところから、おひねり投げたい気分!
設定の割に猥雑さや、戦争に向かう世相の不穏といった仕掛けは薄くて、全体にシンプル。特に回り舞台で転換していく和室の様式美が印象的だ。時代がかったセリフも端正。飛車角は意外によく喋るし、遊郭に身を沈めたお袖の言葉遣いも現代に照らせば丁寧なものだ。日本語って、こうだったんだなあ。
物語はお馴染み飛車角(堤真一)とおとよ(宮沢りえ)、若い宮川(岡本健一)、そして小説家・瓢吉(小出恵介)とお袖(小池栄子)、照代(村川絵梨)という2組の三角関係。そこに昔気質の侠客・吉良常(風間杜夫)、風狂の人・黒馬先生(浅野和之)、左翼の横井(鈴木浩介)らがからむ。人物がみな格好良く、義侠心やら愛情やらをガンガンぶつけ合う。「好き」というキーワードが、このうえなくストレートだ。悪人は目立たないし、もう少し歪みがあれば、と思うけど、そういう話ではないのだろう。
豪華俳優陣は何と言っても宮沢りえ。ファムファタールに説得力があり、ひところより少しふっくらした着物姿と声が綺麗で、大詰め吉良港での華やかな芸者ぶり、雪降りしきる中えんえんと立ち去っていくシーンが舞台をさらう。対する堤真一も期待通りにベタな「昭和の男」を見せつけ、照代にからんだ軍人を睨むあたりの色気はこの人ならでは。「トップドッグ/アンダードッグ」に比べると余裕だったかな。そして岩松さん「シダの群れ」でも、堤と一緒にヤクザを演じた風間杜夫さんが、見事にはまっていた。出所した飛車角と宮川の対決を納めて引っ込むところは大拍手だし、死を覚悟しての「人の心に墓を建てる」というセリフが泣けた。
女流作家の照代は、数少ない屈折をみせる役どころで、村川絵梨がなかなか達者。意外に少ない笑いの要素を、浅野さん、鈴木浩介がいい呼吸でこなした。浅野さんはいつもながら軽妙です。「君!」を連呼しちゃう小出恵介、個性は抑えめだけど所作が丁寧な小池栄子も悪くない。短髪でキメた岡本健一は、思っていたより淡々としていたかな。もうちょっと危うさがあったら良かったかも。キメの盛り上がりを担うオリジナル・メインテーマはalan。
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