歌舞伎座新開場柿葺落四月大歌舞伎 第一部「寿祝歌舞伎華彩」「お祭り」「熊谷陣屋」 第二部「弁天娘女男白浪」「忍夜恋曲者」 2013年4月
怒濤のお名残りから3年。いよいよお祭り気分の新開場公演だ。早めに到着して、まず地下鉄から直結した「木挽町広場」を見学。大きな提灯が下がった中央のスペースが広く、お菓子屋さんに早くも行列ができてました。1Fでお稲荷さんにお参りし、入場してあちこちウロウロ。綺麗で気持ちいいし、エスカレーターやトイレが充実したのがいい。やはり着物姿のグループが目立つ。1部、2部とも1F右端の、ちょっと見づらい席で各2万円。休憩を含めてそれぞれ約3時間。
幕開けの「寿祝歌舞伎華彩 鶴寿千歳」は昭和天皇即位の大礼の奉祝曲で、箏が入った舞踊。まず松をバックに染五郎、魁春が爽やかに。背景が明るい富士山に変わって、御曹司たちが踊った後、セリから大御所・藤十郎さんがゆったりと登場。鶴の姿が上品で清々しい。
短い休憩に続く「お祭り」は、十八世中村勘三郎に捧ぐと銘打ち、ぐっと庶民にくだけて鳶や芸者衆の粋が華やかだ。三津五郎、橋之助、弥十郎、獅童、亀蔵、福助、扇雀ら中村屋ゆかりの役者が勢揃いで楽しく踊る。花道から勘九郎に手を引かれて登場した2歳の七緒八くんが可愛い。正面奥の床几にちょこんと座っていて、七之助がそっと立たせると、ちゃんと真似して踊ってました! 七之助は独特の声、妖艶さがなかなか。
35分の休憩でお弁当を食べ、お待ちかね豪華顔合わせの「一谷嫩軍記 熊谷陣屋」。ちょうど1年前、亡き団十郎さんが醸し出す見事な無常観に胸打たれたことを思い出す。代わって熊谷次郎直実を務める吉右衛門さんが圧巻。冒頭の桜を眺めるシーンから、妻・相模(玉三郎)と藤の方(菊之助)への「物語」へと、抑制のきいた悲しみを表現し、「首実検」「制札の見得」ではぐっとスケールが大きく。次代へ繋ぐ規範を一身で表すようだ。玉三郎の崩れ落ちる姿の美しさ、ほとんど動かない義経・仁左衛門の上品さもさすが。後半では石屋、実は平宗清の歌六が溌剌として得な役回りでした。
いったん外へ出て、売店でいろいろと買い物を楽しんでから第二部へ。まずは極めつけ「弁天娘女男白浪」。「雪下浜松屋見世先の場」は弁天小僧・菊五郎さんが突き抜けた役者ぶりで、貫録だ。70歳で史上最高齢だとか。さすがです。南郷力丸は左団次、日本駄右衛門は吉右衛門、鳶頭はご馳走の幸四郎。隅田堤の桜も華やかに、音楽的なツラネが楽しい「稲瀬川勢揃いの場」は、忠信利平に三津五郎、赤星十三郎に声がいい時蔵。
休憩を挟んで珍しい「極楽寺屋根上の場」。菊五郎さんが斜めになった屋根での立ち回り、さらに立腹と大奮闘だ。なにせ70だもの、チャレンジですねえ。セットが後ろに倒れて転換する大がかりな「がんどう返し」にびっくり。「楼門五三桐」を模した「山門の場」「滑川土橋の場」で吉右衛門さん、藤綱の梅玉さんが、胡蝶の香合(こうごう)を巡って大らかに対決を演じ、幕となりました。
幕間20分のあと、ラストは初めて観る常磐津舞踊「忍夜恋曲者 将門」。冒頭から山颪の太鼓が不気味だ。珍しく場内を真っ暗にし、花道のスッポンからスモークと共に玉三郎さんの傾城如月、実は将門の娘・滝夜叉姫が登場すると、その怪しさに大拍手。何しろ後見が持つ本物の蝋燭のあかりで踊るんだもの。「面灯り」というんだそうです。凝ってるなあ。
将門の残党を捜す光圀役の松緑を味方にしようと、クドキ、色っぽい廓話の踊り。大詰めでは一転して「見顕し」となり、妖術を使う立ち回りでスピード感を出す。稲妻が光り、セット全体が崩れ落ちる「屋体崩し」のあと、姫がちょっとユーモラスな大蝦蟇を従え、衣装はぶっ返し、「相馬錦の旗印」を掲げる「引っ張りの見得」というスペクタクルシーンで終わりました。人間国宝・玉三郎がお祝いムードのなか、あえて怪奇で勝負したのが天晴れでしたね。満喫しました!
筋書の祝辞は安部首相、文科大臣になんとピーター・ゲルブ氏の英文付きでした。字幕ガイドを特価500円で借りてみた。詞章がわかるのは便利だけど、解説はイヤホンの方が詳しいかな。