テイキングサイド
テイキングサイド〜ヒトラーに翻弄された指揮者が裁かれる日〜 2013年2月
「戦場のピアニスト」のロナルド・ハーウッド作、行定勲演出。翻訳は渾大防一枝。天王洲銀河劇場の真ん中あたりで9000円。東京の千秋楽で、客層は幅広い。休憩を挟んで約2時間半。
舞台は1945年、瓦礫の街ベルリン。戦勝国米軍の少佐アーノルド(筧利夫)のオフィスというワンセットで展開する、濃密なセリフ劇だ。焦点は実在の巨匠フルトヴェングラー(平幹二朗)を、「非ナチ化」審理で追及できるかどうか。
とにかく平の存在感が凄い。ドアの向こうでシルエットになった登場シーンのたっぷりのタメ、説得力ある声と滲み出す苦悩、印象的なラストまで。とても今年80歳とは思えません。対抗する筧も、固有名詞が多い膨大なセリフをものともせず、いつもの速射砲で繰り出しながら、全体には抑えめの演技でバランスをとる。証人ローデの小林隆、タマーラの小島聖は危なげなく、アーノルドの助手を演じた鈴木亮平、福田沙紀の若手コンビも健闘。
タイトルの意味は、どちらの味方か。無教養だけど強烈な怒りを突きつけるアーノルドと、偉大なフルトヴェングラーとの対決が物語の柱だ。しかし決して、単純な2項対立ではない。大きな歴史のうねりの中で、個人一人ひとりはどう身を処し、責任をとるべきか。救う価値の有る命、というものは存在するのか。簡単には答えのでない問いが、観る者の胸に降り積もっていく。
登場する指揮者と第2ヴァイオリン奏者の関係は、独裁者と庶民にも重なる。硬質な言葉もそのままに、こけおどしを排した淡々とした演出が、正義の不確かさを突きつけて深い。
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