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遠い夏のゴッホ

遠い夏のゴッホ 2013年2月

作・演出は元「惑星ピスタチオ」の西田シャトナー。赤坂ACTシアター、かなり前のほう中央で9800円。ところどころマイクを使う形式で、客席は宝塚ファンが多いか。休憩を挟んで2時間半。

松山ケンイチの初舞台が話題。幼虫のときの訛りとか唐突な宙乗りとか、なかなかの奮闘ぶりだ。お話は昆虫たちの世界で、とってもファンタジー。一足先に羽化しちゃったユウダチゼミのゴッホ(松山)が、地中に残してきた恋人ベアトリーチェ(美波)を思い、必死で冬を生き延びようとする。運命とか、生きる意味とかを感じさせ、「生きる意味なんてわからない、わからないということは、世界は自分が知っているよりずっと広いのだろう」というメッセージが印象的だ。

背景で大きな木を動かし、照明で雨や日差しなどを表現。ただ大人が観るにはもっとお洒落さや、キレのいいダンスが欲しかったかも。全員で夏を感じ始める冒頭はいい動きなんだけど。
俳優陣では美波が出色だ。仕草の可愛さ、よく届く声、そして何ともいえない切なさ。大詰めの涙が胸をつく。ゴッホに森の摂理を説くクワガタ石川禅や、ハチの小松利昌、クモの姉さんの保村大和、暴れるカマキリの細貝圭らも存在感を示した。一方、やる気のないセミの筒井道隆、ミミズの吉沢悠、長老カエルの田口トモロヲ、哲学的なアリの手塚とおるらの配役は、しどころが少なくてちょっと豪華過ぎたかも。
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落語「真田小僧」「高砂や」「源平盛衰記」「短命」「井戸の茶碗」

江戸の四派花形落語会 2013年2月

4団体が並ぶ、ちょっと渋い会に行ってみた。よみうりホール中央前寄りで3600円。
前座はさん喬の弟子・柳家さん坊で、子供のころ出身地別海から釧路のマクドナルドに行くのが楽しかった思い出、東京からなら熱海の距離だった、という微笑ましいマクラから「真田小僧」。談春さんで聴いたことがある前座噺だ。元気が良い。
本編トップバッターは円楽一門会の三遊亭兼好さん。昨秋に初めて聴いて以来だ。結婚式の司会経験からカップル仲の分析で笑わせて「高砂や」。八五郎が仲人を務めることになり、隠居に謡を習ったけど、豆腐売りの真似になってしまい…という他愛ない「オウム」噺。明るくて、表裏のない感じが楽しめる。
続いて落語芸術協会の桂文治が、先代文治や協会長歌丸、「真打ち」「トリ」の語源、池袋演芸場番頭の進藤さんなどのマクラから地ばなし「源平盛衰記」。談志さんで聴いたのが懐かしい。今回は義仲入京あたりを少ししゃべって、あとは出身地宇佐の宣伝などお約束の脱線また脱線。崩れた感じに、宗家の余裕がにじみます。

中入りを挟んで立川流の立川志らく。軽く家元のエピソードから「短命」。艶っぽい川柳のやり取りが面白いのだろうけど、この人の場合、ちょっと理屈っぽいかな。落ち前の八つぁんが女房と食事するシーンが長めのバージョンでした。
トリは落語協会の柳家さん喬で、マクラはそこそこに「井戸の茶碗」。正蔵さん、志の輔、歌丸で聴いたことがある定番人情噺。持ち時間25分とあってはしょり気味だけど、正直者3人、特に屑屋・清兵衛のキャラクターが泣かせる。落ち着いた語りに、気持ちよくしみじみ。喬太郎さんの師匠とは思えないなあ。
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文楽「小鍛冶」「曲輪文章」「関取千両幟」「妹背山婦女庭訓」

第一八二回文楽公演第二部「小鍛冶」「曲輪文章」「関取千両幟」 第三部「妹背山婦女庭訓」 2013年2月

2週連続で国立劇場小劇場へ。キング住大夫、源大夫の不在が残念だけど、客席はかなりの賑わいだ。2部、3部通しの長丁場に挑戦した。両部ともほぼ中央の席で5700円。

2部が変化に富んだ演目で、予想以上に楽しかった。まず「小鍛冶」を30分。二代目猿之助のため、能を義太夫節に移した作品だそうです。美しくてめでたくて、こういうの好きだなあ。刀鍛冶の名人・三条小鍛冶宗近(文昇)が、パートナーである「相槌」を求めて稲荷明神に祈ると、老翁実は稲荷明神(清十郎)自ら相槌をつとめてくれて、銘剣・小狐丸が完成する。千歳大夫以下大夫5人、三味線も5人。
後半のおごそかな祭壇のシーンでは、頭に狐を載せた明神が珍しく左(幸助さん)、足も顔を出す「出遣い」で、激しい動きがよくわかって面白い。三味線と息もぴたりとリズミカルに刀を打ち、派手に六法で引っ込みました。

休憩後はぐっとくだけて「曲輪文章」吉田屋の段を1時間半弱。近松「夕霧阿波鳴渡」を書き替えた、揚屋、年の瀬のたわいない一こまだ。以前、歌舞伎の仁左右衛門・玉三郎で観た演目を、今回は玉女さん・勘十郎さんの豪華コンビで。
導入の「端場」では店先の餅つき、太神楽が存分に笑わせる。そして切で嶋大夫(さすがに味わい深く聴かせる)、富助が登場。傾城・夕霧の悠々とした入りで拍手。人形が思い切り華やかで、大きい。隣座敷の灯りや、幾重もの襖のセットも綺麗。勘当されて「紙衣」姿の伊左衛門は、拗ねて寝たふりをしたり愚痴ったり、何とも情けない。そこでツレの龍爾が加わって夕霧のクドキ。伊左衛門が炬燵をもってウロウロするのが可笑しい。

短い休憩を挟んで「関取千両幟」猪名川内(いながわうち)より相撲場の段を45分。近松半二の世話物で、夫婦愛のストーリー。珍しい曲弾きや、1986年以来という取り組みの場面など趣向がたっぷりだ。代演の呂勢大夫さんのほか松香大夫、相子大夫ら。
人気力士の猪名川(玉也)は、鉄ケ嶽(文司)に八百長をもちかけられて悩む。女房おとわで可愛らしく蓑助登場。夫の髪をなでつけるシーンが愛情深い。人形同士が鏡を通して目を合わすスゴ技。
幕がひかれ、呂勢さんが朗々と曲弾きを紹介。藤蔵、清志郎さんが床に三味線2人だけ残ってスポットライトがあたり、指で弦をはじいたり、バチを飛ばしたり、やりたい放題で客席を沸かせる。そして舞台は大スタジアムばりの土俵へ。引き続き三味線が効果音も兼ねて大活躍だ。取組中に「進上200両」と声がかかり、猪名川は堂々と鉄ケ嶽をくだす。しかし妻が身売りした金とわかって、涙の別れとなる。

息つく間も殆どなく、3部へなだれ込んだ。半二らの時代物「妹背山婦女庭訓」からまず道行恋苧環(おだまき)を30分。大化の改新が題材だけど、扮装なんかは江戸っぽい。大夫は連投の呂勢さんら5人、三味線も清治、こちらも連投の清志郎さんら5人。蝋燭を吊った星空の下、若い男女の三角関係のシーンだ。帰路を急ぐ橘姫(勘彌)に求馬(和生)が苧環の糸を結びつけ、求馬にはお三輪(紋壽)が糸を結んで後を追う。

30分の休憩で食事をとり、ラストは3段続けて1時間半強。まず鱶七上使の段。文字久大夫さん(聴きやすいけど不敵な笑いは今ひとつか)、錦糸。怪物・入鹿の御殿で新築祝いを眺めていると、鎌足の使者・鱶七(玉女、やっぱり優男より大きい役が似合う)が乗り込んでくる。伝法な口調で、土産の酒を飲み干しちゃったり、床から槍が飛び出ても動じなかったりして剛胆だ。
続く姫戻りの段は咲甫大夫、宗助が端正に。御殿に戻った橘姫が入鹿の妹、追ってきた求馬が鎌足の息子・淡海で、敵同士だったと判明、橘姫は兄を裏切る決意をする。
ラストの金殿の段。求馬を慕うお三輪が御殿にたどり着くものの、橘姫と祝言をあげると知って嫉妬に我を失い、そのうえ官女たち(玉勢さん、玉誉さんら)に散々からかわれる。「竹に雀」の馬子歌が可哀想。そして幕切れ、鱶七実は鎌足の重臣・金輪五郎(引き抜きで派手に変身)に刺され、入鹿打倒のため犠牲になっちゃう。英大夫、清介は聴きやすかったけど、ストーリーは悲惨だなあ。
「妹背山」は竹本座復活を賭けたスペクタクル重視のファンタジーで、物語はハチャメチャといった解説を読んだことがあり、納得。オールスターキャストの山の段をいつか観たいものです。お疲れでした!

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METライブビューイング「マリア・ストゥアルダ」

METライブビューイング2012-2013第8作「マリア・ストゥアルダ」  2013年2月

ドニゼッティ女王3部作の2作目をMETが初演。指揮マウリツィオ・ベニーニ。演出は昨シーズンの「アンナ・ボレーナ」に続いてデイヴィット・マクヴィカー、美術・衣装はジョン・マクファーレンでスコットランド出身コンビだ。1月19日上演のものを東劇で。

物語は、幽閉の身のマリア(スコットランド女王メアリー・スチュアート)と、王位への脅威を恐れるエリザベッタ(イングランド女王エリザベス1世)とのプライド対決、これに尽きる。2人が直接顔を合わせ、決定的に決裂する1幕、2幕を続けて1時間強。インタビューと休憩を挟んで、ついにエリザベッタが執行状にサインし、マリアが断頭台に向かう3幕を1時間。

歌手陣ではマリアのジョイス・ディドナート(メゾソプラノ)が圧巻だ。2幕でエリザベッタ(エルザ・ヴァン・デン・ヒーヴァー、ソプラノ)にいたぶられ、我慢が限界に達して「賤しい庶子」とぶち切れる場面の迫力、さらに3幕では次から次へとアリアを連投。コロラトゥーラはもちろん、合唱を従えて弱音からずうっと声を引っ張るところが凄い。対する南ア出身、これがMETデビューのヒーヴァーも吹っ切れたヒールぶりが堂々として立派!
女王たちに比べると、2人の板挟みになるレスター伯爵のマシュー・ポレンザーニ(テノール)、タルボット卿のマシュー・ローズ(バス)らは悪くないけど、いかんせん影が薄い。この作品の上演の機会が少ないのは、やや単調なせいか、イングランド側が悪者過ぎるからかと考えていたけれど、終わってみると男性陣に見せ場が無さ過ぎるからかもと思えてくる。

四角い台を据えたセットはシンプルで、衣装も襞襟などテューダー朝の伝統を踏まえつつ、すっきりしている。エリザベッタは冒頭の白ドレス、真紅の狩り装束から、後半は構築的でゴージャスなドレスに変化して年輪がくっきり。対照的にマリアはずっとモノトーンだけど、大詰めで鮮やかな短髪と赤のドレスに転じて悲劇性を印象づけていた。

テイキングサイド

テイキングサイド〜ヒトラーに翻弄された指揮者が裁かれる日〜 2013年2月

「戦場のピアニスト」のロナルド・ハーウッド作、行定勲演出。翻訳は渾大防一枝。天王洲銀河劇場の真ん中あたりで9000円。東京の千秋楽で、客層は幅広い。休憩を挟んで約2時間半。

舞台は1945年、瓦礫の街ベルリン。戦勝国米軍の少佐アーノルド(筧利夫)のオフィスというワンセットで展開する、濃密なセリフ劇だ。焦点は実在の巨匠フルトヴェングラー(平幹二朗)を、「非ナチ化」審理で追及できるかどうか。
とにかく平の存在感が凄い。ドアの向こうでシルエットになった登場シーンのたっぷりのタメ、説得力ある声と滲み出す苦悩、印象的なラストまで。とても今年80歳とは思えません。対抗する筧も、固有名詞が多い膨大なセリフをものともせず、いつもの速射砲で繰り出しながら、全体には抑えめの演技でバランスをとる。証人ローデの小林隆、タマーラの小島聖は危なげなく、アーノルドの助手を演じた鈴木亮平、福田沙紀の若手コンビも健闘。

タイトルの意味は、どちらの味方か。無教養だけど強烈な怒りを突きつけるアーノルドと、偉大なフルトヴェングラーとの対決が物語の柱だ。しかし決して、単純な2項対立ではない。大きな歴史のうねりの中で、個人一人ひとりはどう身を処し、責任をとるべきか。救う価値の有る命、というものは存在するのか。簡単には答えのでない問いが、観る者の胸に降り積もっていく。
登場する指揮者と第2ヴァイオリン奏者の関係は、独裁者と庶民にも重なる。硬質な言葉もそのままに、こけおどしを排した淡々とした演出が、正義の不確かさを突きつけて深い。

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文楽「摂州合邦辻」

第一八二回文楽公演第一 部「摂州合邦辻」  2013年2月

国立劇場小劇場の左後方で5700円。説教節「しんとく丸」や謡曲「弱法師(よろぼし)」をベースにした人気演目とはいえ、美少年とトンデモ継母の恋だから、暗い話という先入観があった。ところが今回観た限りでは意外にドロドロしてなくて、新鮮だった。
元々の設定では継母・玉手御前は二十歳くらいで、俊徳丸とかわらないわけだし、随所にユーモアもある。四天王寺・玉手の名水や月江寺の由来、料亭「浮瀬」の鮑の大盃まで登場して実はお伽話みたいな雰囲気だ。

まず万代池の段を30分。三輪大夫ら大夫7人が入れ替わり立ち替わりして、最後はひとりになっちゃうし、三味線も清友に途中だけツレが加わって、床は忙しい。こんなの初めて観たなあ。
舞台は天王寺西門近く。まず合邦道心(玉也)が閻魔の徳を賑やかに唄って寄進を募る。庵に隠れていた俊徳丸(玉佳)が日想観を修していると、派手な赤姫姿の浅香姫(一輔)と奴入平(幸助)が訪ねてくる。姫が悪者・次郎丸に襲われ、車に俊徳を乗せて懸命に綱を引く姿が可笑しい。合邦が次郎丸をムシロで押さえ、池に叩き落とす立ち回りが派手。

30分の昼休憩を挟んで、山場の合邦庵室の段を約100分。床は咲甫大夫に始まり津駒大夫・寛治と安定感。そして切の咲大夫・燕三コンビが、期待通り明朗でリズムがあって、聴かせる。ラスト近くの怒濤の三味線ソロも格好よかった。
お話は合邦の庵室。娘・玉手(和生)が現れ、実直な父母の葛藤をよそに、かくまっていた浅香姫を平手打ちし大暴れする。たまりかねた合邦に刺されちゃってから、苦しい息の下で驚きの「モドリ」となる。このちゃぶ台返しぶり、文楽だなあ。自己犠牲の真意を知り、合邦の悲痛な「でかした」で拍手。全員が泣き崩れる「大落とし」から、なんと長い数珠を持ち出し百万遍の念仏を唱え始める。その間にも玉手を刺せと言われた入平があたふたし、笑いがおきるシーンも。俊徳丸が魔法にように回復し、玉手が息絶えて幕となりました。

愛の妙薬

愛の妙薬   2013年2月

新国立劇場オペラハウスに2週連続で行く。観客は女性が多めだ。ゆったりとした指揮はジュリアン・サレムクール、オケは東フィル。休憩を挟んで2時間半。通路に面したど真ん中という、これ以上ないいい席で2万790円。ステージまるごと自分のものという感じだ。

演目は先週のワーグナーとはうって変わって、METライブビューイングのシーズン幕開けでも観たガエターノ・ドニゼッティの能天気な喜劇。ベルカント満載のアリアやチェンバロ付きのレチタティーヴォというロマン派の古風なところと、若者の成長に的を絞った現代的かつシンプルな物語の組み合わせを楽しむ。
純朴な青年ネモリーノはご機嫌なアントニーノ・シラグーザ(テノール)。第一声から朗らかで、甘いと同時に気負いがなく、イタリア魂を感じさせる。日本語をまじえたり、アディーナに近づこうとして村人を将棋倒しにしちゃったり、遊び心で客席を沸かせつつ、徐々にパワーを高めて2幕のロマンツァ「人知れぬ涙」で全開に。拍手が鳴り止まず小さく投げキッス。格好いい。
気の強いヒロイン、アディーナはニコル・キャベル(ソプラノ)。声が柔らかく、スラリとしたスパニッシュっぽい姿が映える。怪しいけどラストのいいところをさらっていく薬売り(実はワイン)のドゥルカマーラ、レナート・ジローラミ(バリトン)が堂々としていい。恋敵・軍曹ベルコーレの成田博之(バリトン)はこの役としては少し色気が足りないか。おきゃんな村娘ジャンネッタの九嶋香奈枝(ソプラノ)が健闘。そして合唱は相変わらず聴きごたえがあった。

チェーザレ・リエヴィの演出は、ファンタジックでとてもお洒落。文字を並べた紗幕や、キャンディカラーの鮮やかな衣装、かつらがポップだ。物語の鍵「トリスタンとイゾルデ」を題材に、大小の本、照明で色が変わる「Lelisir」の文字や飛行機などのセットが、大がかりだけど端正。プロンプターが演技に参加したり、2幕冒頭でチャーミングな女性2人が通路を歩いてきて、指揮者に偽薬を売りつけちゃったり、ドゥルカマーラが宴会のパスタをポケットに突っ込むといったギャグも楽しかった! やや空席があったのは残念だけど、タンホイザーとアイーダの間だから仕方ないかな。

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ペンギンプルペイルパイルズ#17  cover   2013年2月

お気に入り倉持裕の作・演出。2009年の代表作の再演だ。芝居好きが集まった感じのシアタートラム、最前列で4800円。休憩無しの2時間弱。

30年前に行方不明になった姉の手紙を入手したという男・万田(谷川昭一朗)を追いかけて、弟2人(玉置孝匡、吉川純広)が山あいにある、時代に置き去りにされたような邸宅を訪れる。そこに暮らす千都(ちづ、鈴木砂羽)、弟2人(小林高鹿、近藤フク)、家政婦(ぼくもとさきこ)と織りなす一夜の人間模様。
瞬発力のある、からっとした笑いやファンタジー要素をまじえつつ、試練を乗り越えようとする家族の情愛に、やがて胸がじわっと温かくなる。意外に手堅くて、上質の短編小説を読むような印象だ。
冒頭にコミカルなカーチェイスがあり、その後はかつて子供部屋だった、朽ちかけた離れのワンセットで物語が進む。滑り出しは噛み合わない感じの会話にちょっと集中力をそがれたけれど、中盤から意表を突く洋服ダンスの仕掛けにすっかり引き込まれた。そのうち蔦でがんじがらめになった離れそのもの、また冒頭で宙づりになった鹿のエピソードが象徴するものに気付いて、愕然とする。幕切れの銃声とスポットライトは、計算が行き届いていて巧い。
鈴木砂羽が綺麗で上品で、期待通りの存在感。お馴染み玉置孝匡も切なくていい。じっと足の裏を見つめて回想する姿、それから姉の手紙を弟にみせるシーンが泣かせる。ぼくもとさきこは展開の強引な部分を引き受ける役回りで、さすがの間の良さだ。松田聖子とか、時間軸の設定がツボでした。

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大高源吾

當ル巳歳古遊座新年会 講談「赤穂義士銘々伝~大高源吾」  2013年2月

伝統芸能好きが集まる新年会に参加した。上野広小路の居酒屋のお座敷で、楽しい宴会、抽選会も含め8000円。
ちょっと遅れちゃったけど、幸いお楽しみ神田春陽さんの講談はほとんど聴けた。芭蕉門弟の宝井其角が両国橋で、旧知の義士・大高源吾(俳号子葉)と出くわし、煤竹売りに身をやつした様子に心を痛めて羽織を渡す。その羽織を拝領した松浦のご隠居に報告に行き、其角の発句、源吾が返した付句について話すと、公は源吾が吉良邸を探っており、いよいよ討ち入りの決意なのだと悟る。その問答から其角も事情に気付いて吉良邸の隣家に駆け付け、陣太鼓を耳に、はなむけの句を送る。
俳句を解する粋な感じ、其角の友情や松浦公の大人物ぶりが爽快だ。歌舞伎「松浦の太鼓」のもとになった話だそうです。

タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦

タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦  2013年2月

ワーグナー生誕200年で初期の「タンホイザー」を。ウィーン版、ハンス=ペーター・レーマン演出の再演で、指揮コンスタンティン・トリンクス、東フィル。新国立劇場オペラハウスの通路後ろ中央あたりの極上の席で2万3625円。客席にはワグネリアン多数、そして財界人、政治家のお顔も。2回の休憩を挟み4時間強。

当然だけど曲の力が凄い。あまりに有名なバレエ付き「序曲」の分厚さ、2幕の「入場行進」の高揚感は圧倒的だ。子音まできっちり聴かせる3幕のアリア「エリーザベトの祈り」や「夕星の歌」も美しいなあ。
物語はワーグナーらしく、中世ドイツを舞台にしたお伽噺。騎士で芸術家のハインリッヒ(タンホイザー)が竜宮城みたいなヴェーヌスベルクで放蕩。いったんヴァルトブルク城に戻るが、歌合戦でヴェーヌス讃歌を披露してしまい、贖罪のためローマへ巡礼しても許されない。エリーザベト姫の自己犠牲で救済されるものの、力尽きる。単純なようだけど、精神と官能、神と自然の2項対立をめぐる苦悩と超越、というテーマは普遍的だ。

歌手陣は女性陣が総じて優勢だったかな。無垢なエリーザベト役の若いミーガン・ミラー(ソプラノ)、対する魅惑的なヴェーヌスのお馴染みエレナ・ツィトコーワ(メゾ)はそれぞれ声に迫力があり、外見も美しい! 実直な親友ヴァルフラムを歌った長身ヨッヘン・クプファー(バリトン)は声がふくよかだし、領主ヘルマンのクリスティン・ジグムンドソン(バス)、ハインリッヒを追いつめちゃう騎士ヴァルターの望月哲也(テノール)もなかなか。代役でタイトロールをつとめたスティー・アナセン(テノール)、そしてオケの管楽器陣は、この演目としてはちょっとパワー不足だったか。牧童の国光ともこ(ソプラノ)がチャーミング。そして何より新国立劇場合唱団が聴かせる~ 特にラスト、奇跡によって芽吹いた杖を掲げるシーンはぐっときました。

演出は比較的動きが少なく、スタイリッシュ。冒頭で氷のような巨大アクリル柱がせり上がり、そこに印象的な映像や照明、十字架を配していた。色彩を抑え、でも現代的になりすぎない衣装もお洒落。序曲で拍手が出て、たしなめられるハプニングも。
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