第一八二回文楽公演第二部「小鍛冶」「曲輪文章」「関取千両幟」 第三部「妹背山婦女庭訓」 2013年2月
2週連続で国立劇場小劇場へ。キング住大夫、源大夫の不在が残念だけど、客席はかなりの賑わいだ。2部、3部通しの長丁場に挑戦した。両部ともほぼ中央の席で5700円。
2部が変化に富んだ演目で、予想以上に楽しかった。まず「小鍛冶」を30分。二代目猿之助のため、能を義太夫節に移した作品だそうです。美しくてめでたくて、こういうの好きだなあ。刀鍛冶の名人・三条小鍛冶宗近(文昇)が、パートナーである「相槌」を求めて稲荷明神に祈ると、老翁実は稲荷明神(清十郎)自ら相槌をつとめてくれて、銘剣・小狐丸が完成する。千歳大夫以下大夫5人、三味線も5人。
後半のおごそかな祭壇のシーンでは、頭に狐を載せた明神が珍しく左(幸助さん)、足も顔を出す「出遣い」で、激しい動きがよくわかって面白い。三味線と息もぴたりとリズミカルに刀を打ち、派手に六法で引っ込みました。
休憩後はぐっとくだけて「曲輪文章」吉田屋の段を1時間半弱。近松「夕霧阿波鳴渡」を書き替えた、揚屋、年の瀬のたわいない一こまだ。以前、歌舞伎の仁左右衛門・玉三郎で観た演目を、今回は玉女さん・勘十郎さんの豪華コンビで。
導入の「端場」では店先の餅つき、太神楽が存分に笑わせる。そして切で嶋大夫(さすがに味わい深く聴かせる)、富助が登場。傾城・夕霧の悠々とした入りで拍手。人形が思い切り華やかで、大きい。隣座敷の灯りや、幾重もの襖のセットも綺麗。勘当されて「紙衣」姿の伊左衛門は、拗ねて寝たふりをしたり愚痴ったり、何とも情けない。そこでツレの龍爾が加わって夕霧のクドキ。伊左衛門が炬燵をもってウロウロするのが可笑しい。
短い休憩を挟んで「関取千両幟」猪名川内(いながわうち)より相撲場の段を45分。近松半二の世話物で、夫婦愛のストーリー。珍しい曲弾きや、1986年以来という取り組みの場面など趣向がたっぷりだ。代演の呂勢大夫さんのほか松香大夫、相子大夫ら。
人気力士の猪名川(玉也)は、鉄ケ嶽(文司)に八百長をもちかけられて悩む。女房おとわで可愛らしく蓑助登場。夫の髪をなでつけるシーンが愛情深い。人形同士が鏡を通して目を合わすスゴ技。
幕がひかれ、呂勢さんが朗々と曲弾きを紹介。藤蔵、清志郎さんが床に三味線2人だけ残ってスポットライトがあたり、指で弦をはじいたり、バチを飛ばしたり、やりたい放題で客席を沸かせる。そして舞台は大スタジアムばりの土俵へ。引き続き三味線が効果音も兼ねて大活躍だ。取組中に「進上200両」と声がかかり、猪名川は堂々と鉄ケ嶽をくだす。しかし妻が身売りした金とわかって、涙の別れとなる。
息つく間も殆どなく、3部へなだれ込んだ。半二らの時代物「妹背山婦女庭訓」からまず道行恋苧環(おだまき)を30分。大化の改新が題材だけど、扮装なんかは江戸っぽい。大夫は連投の呂勢さんら5人、三味線も清治、こちらも連投の清志郎さんら5人。蝋燭を吊った星空の下、若い男女の三角関係のシーンだ。帰路を急ぐ橘姫(勘彌)に求馬(和生)が苧環の糸を結びつけ、求馬にはお三輪(紋壽)が糸を結んで後を追う。
30分の休憩で食事をとり、ラストは3段続けて1時間半強。まず鱶七上使の段。文字久大夫さん(聴きやすいけど不敵な笑いは今ひとつか)、錦糸。怪物・入鹿の御殿で新築祝いを眺めていると、鎌足の使者・鱶七(玉女、やっぱり優男より大きい役が似合う)が乗り込んでくる。伝法な口調で、土産の酒を飲み干しちゃったり、床から槍が飛び出ても動じなかったりして剛胆だ。
続く姫戻りの段は咲甫大夫、宗助が端正に。御殿に戻った橘姫が入鹿の妹、追ってきた求馬が鎌足の息子・淡海で、敵同士だったと判明、橘姫は兄を裏切る決意をする。
ラストの金殿の段。求馬を慕うお三輪が御殿にたどり着くものの、橘姫と祝言をあげると知って嫉妬に我を失い、そのうえ官女たち(玉勢さん、玉誉さんら)に散々からかわれる。「竹に雀」の馬子歌が可哀想。そして幕切れ、鱶七実は鎌足の重臣・金輪五郎(引き抜きで派手に変身)に刺され、入鹿打倒のため犠牲になっちゃう。英大夫、清介は聴きやすかったけど、ストーリーは悲惨だなあ。
「妹背山」は竹本座復活を賭けたスペクタクル重視のファンタジーで、物語はハチャメチャといった解説を読んだことがあり、納得。オールスターキャストの山の段をいつか観たいものです。お疲れでした!