日の浦姫物語
こまつ座&ホリプロ公演「日の浦姫物語」 2012年12月
「井上ひさし生誕77フェスティバル2012」第7弾として、中期作を蜷川幸雄演出で。1978年初演以来34年ぶりの上演。暗い設定なのに哄笑に満ちたなかなか難しい脚本を、意外にも初共演という大竹しのぶと藤原竜也がこれ以上ない安定感でみせた。シアターコクーンの2階中央、かなり遠いけどS席で1万円と贅沢。客層は幅広いが、やや年齢層が高めか。休憩を挟んで約3時間。
兄妹の間に生まれた「罪の子」が、長じて母の夫になってしまい、その母と息子が苦しみ、流転をへて救済される物語。グレゴリウス伝説、日本の中世説話、ギリシャ悲劇を縦横無尽にミックスしており、文学座の杉村春子に当て書きしたとあって「女の一生」からの引用も。
深刻なシーンに限って、家族関係が混乱しちゃうギャグやら、魚の名前の駄洒落やらが飛び出し、以前に観た井上作品「薮原検校」「たいこどんどん」などに比べずいぶんと軽妙だ。ラストは現代人たちが石を投げ、世間というものを見せつけるものの、苛烈さよりむしろ運命を引き受けて生き抜く「罪ある人々」の強靱さが胸に残る。
主役2人がコミカルなシーンをリズムよくこなし、しかも小舟の別れや見つめ合う贖罪のラストなど、泣かせどころはきちんと泣かせて抜群の説得力。特に大竹は少女時代のわざとらしさも含め、変転ぶりがさすがだ。藤原はいつもながら立っているだけで色気があり、声も切なさ全開で目が離せない。
脇も充実。平安時代、奥州の伝説を説教聖夫婦が語り聞かせる設定で、語り部である木場勝己と立石涼子が、歌もまじえて達者。叔父のたかお鷹、父の辻萬長らもそろって巧い。
渡り廊下と箱型のセットの出し入れだけでシンプルに場面を表現し、スポットライトや妖しく色を変える月を効果的に使用。バックグラウンドの知識が求められるところは字幕で理解を助けていた。
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