2012年喝采づくし
昨年の談志さんに続き、勘三郎さんの悲報が何よりショックだった2012年。個人的には3月の平成中村座で「傾城反魂香」のおとくを観たのが最後になってしまった。でも脚本に宮藤官九郎を迎えたコクーン歌舞伎「天日坊」で、襲名披露中の勘九郎や七之助、獅童が見事な高揚感をみせ、次世代への期待も膨らんだ。歌舞伎では話題の新・猿之助も襲名披露の狐忠信で躍動し、ベテランでは国立劇場「熊谷陣屋」の団十郎さんが素晴らしかった。
文楽は補助金削減騒動のほか、キング住大夫さんが5月「傾城反魂香」で聴いた後に長期の病気休演に入ってしまい、太夫冬の時代を感じさせた。しかし作・演出三谷幸喜の意欲作「其礼成心中」が大変面白く、本家の国立劇場も展開の速い「彦山権現誓助剣」や玉女・勘十郎・蓑助が揃った「夏祭浪花鑑」、咲大夫・嶋大夫の豪華リレー「冥途の飛脚」などで楽しませてくれた。人形では中堅の一輔、幸助らを応援したい。
伝統芸つながりで落語は、志の輔、談春、正蔵、兼好、喬太郎さんらにたっぷり笑わせてもらいました。
演劇はたくさん観たけど、イキウメ「ミッション」の前川知大が一押し、次にモダンスイマーズ「楽園」の蓬莱竜太か。日常の延長線上に現代的な矛盾を鋭く示していて、2人とも今後が楽しみだ。また鄭義信「パーマ屋スミレ」が強靱な問題意識を示しつつ、決して頭でっかちにならないエンタメ性もみせて秀逸。野田秀樹は「THE BEE」再演、「エッグ」で力業を見せつけた。ほかには長塚圭史の「ガラスの動物園」「南部高速道路」がスタイリッシュだったし、ケラリーノ・サンドロヴィッチは「百年の秘密」のほろ苦さが巧かっった。蜷川幸雄は相変わらず驚異的な仕事量で、さいたま芸術劇場「シンベリン」などが痛快。井上ひさし生誕77フェスティバルでは「十一匹のネコ」や栗山民也・野村萬斎の「薮原検校」、蜷川幸雄演出で大竹しのぶと藤原竜也が抜群の安定感を示した「日の浦姫物語」がよかった。
演劇のなかで女優を一人あげるなら、何と言っても宮沢りえ。「下谷万年町物語」「THE BEE」での美しさと危うさが素晴らしかった。男優は「トップドッグ/アンダードッグ」の堤真一も捨てがたいけど、ここは若手に期待して高橋一生。深津篤史の難解な「温室」、白井晃の実験劇「4 four」で図抜けた存在感を示した。
オペラはコンサート形式ながら、マリインスキー歌劇場「ランメルモールのルチア」の歌う女優、ナタリー・デセイが圧巻だった。意外に後ろの方の席にいた小泉元首相もお喜びの様子でしたね。来日公演ではベテラン・グルベローヴァの最終公演で盛り上がったウィーン国立歌劇場「アンナ・ボレーナ」、文句なしに楽しいウィーン・フォルクスオーパー「メリー・ウィドウ」、新国立劇場でも人気者クヴィエチェンが活躍した「ドン・ジョバンニ」や「トスカ」がよかった。
さてさて2013年は歌舞伎座が復活するし、ますます忙しくなりそうです!