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こどもの一生

PARCO&cube Presents「こどもの一生」 2012年11月

中島らもの1990年初演作を、枡野幸宏潤色、G2演出で。パルコ劇場の左寄り後ろの方で8000円。客層は若めだ。休憩無しの2時間。

孤島の診療所に集まった5人の男女。ストレス症状緩和のため暗示によって子供に還るが、子供らしい悪ふざけが思わぬ波乱を招く。
チラシによると、初演当時は「テクノストレス」「ヴァーチャル・リアリティ」などのキーワードを意識したという。細かい設定は変えているが、現代人を取り巻く抑圧というテーマは決して古びていない。後半で本音が暴走してしまうあたり、この作家らしく知的な展開。ただ、たまたま大人が子供を演じるという共通項があった「楽園」などと比べると、やや意外感、ぞくっとするような怖さは薄かったかも。舞台はシンプルなモザイク状の壁や格子、長テーブルなどを出し入れして、洒落ていた。

従順な秘書の谷原章介は、お辞儀がうまくてはまり役。暴君の社長・吉田鋼太郎と怪しい男の山内圭哉(本当に怪しい)、看護師・鈴木砂羽が引き締める。山内のハプニングに吉田が笑っちゃって、苦しそうな場面があり、カーテンコールも和気藹々。抑えめだった玉置玲央がちょっと楽しみ。20121125a

トスカ

トスカ  2012年11月

2012年オペラ鑑賞の締めくくりは新国立劇場で、ジャコモ・プッチーニの名作を堪能。ホワイエに飾られたクリスマスツリーに浮き立つオペラハウス、1F左寄りのS席で2万790円。演目のせいか客層が幅広く、いい雰囲気だ。沼尻竜典指揮、東フィルで休憩2回を挟み約3時間。

それにしても、なんて起伏に富み、スピーディーな物語だろう。美女で幼いほどに純粋なスター歌手、理想に燃える恋人、そして希代の敵役と、人物造形が複雑かつ魅力的。1900年初演とあって、現代的な音楽は映画を観ているようでもあり、甘美かつドラマティックだ。

舞台は1800年、ナポリ王党派支配下のローマ。1幕の聖アンドレア・デラ・ヴァレ教会で、共和派の画家カヴァラドッシ(サイモン・オニール、テノール)は親友で脱獄してきた政治犯のアンジェロッティに会い、自分の別荘に匿う。冒頭で堂守(志村文彦、バス・バリトン)に仕掛ける悪戯とか、信仰にあついけれど嫉妬深い歌姫トスカ(ノルマ・ファンティーニ、ソプラノ)のわがままぶりが愛らしい。やがて残忍な警視総監スカルピア(センヒョン・コー、バリトン)が登場、扇の小道具を使ってトスカの猜疑心をあおる。オテロのハンカチみたいですね。カヴァラドッシのアリア「妙なる調和」や、トスカとの二重唱が美しく、幕切れのカトリック聖歌「テ・デウム」は壮麗だ。
2幕はスカルピアの公邸ファルネーゼ宮殿(現代ではフランス大使館というから皮肉だ)。ナポレオンがナポリ王党派に勝利した、という共和派にとっては朗報がもたらされるものの、トスカはカヴァラドッシへの拷問に耐えかねて、アンジェロッティの居場所を白状してしまう。さらにカヴァラドッシを救うべく、空砲で銃殺刑にみせかけるよう取引した後、迫るスカルピアをついに刺殺。激しい展開だなあ。トスカがカンタータで高音を披露し、さらにハイライトの「歌に生き、恋に生き」で喝采。
大詰め3幕は、夜明けの聖アンジェロ城。羊飼いの歌が響く。トスカはカヴァラドッシの牢を訪れてすべてを語り、銃殺刑での「演技」に満足するが、実はスカルピアに騙されていて恋人は息絶えてしまう。絶望したトスカは追っ手の前で城壁から身を投げる。カヴァラドッシの「星は光りぬ」が甘く劇的だ。

新国立ではお馴染みのファンティーニが貫録を示し、最後は直立のまま倒れ込む熱演を披露。何度もカーテンコールに登場し、投げキッスを繰り返してお茶目だった。コーも堂々としていていい。オニールは声量十分なものの、細やかな情感の点では今ひとつだったか。日本人キャストも健闘して、とても楽しめた。
プロダクションはアントネッロ・マダウ=ディアツ版を田口道子が再々演出。オーソドックスで落ち着いていた。1幕フィナーレのきらびやかな教会やライティングが印象的。3幕の満月から夜明けに至るシーンでは、高い天井を生かしてセットを上下させるなどダイナミックだった。

マダムバタフライX

ネオ・オペラ「マダムバタフライX」プッチーニのオペラ「蝶々夫人」より  2012年11月

構成・演出宮本亜門、編曲山下康介。KAAT神奈川芸術劇場ホール、前より中央で8500円。
オペラをテーマにした第19回神奈川国際芸術フェスティバルのフィナーレとして、歌手(嘉目真木子、与儀巧、大沼徹ら)が劇中劇の形で「蝶々夫人」のダイジェストを演じる。公演のドキュメントを撮るプロデューサー(神農直隆、内田淳子)が、自己犠牲を描いたストーリーの解釈やスポンサーへの配慮をめぐって議論する設定だ。
幼い息子に対する母の愛情に、現代との接点を見いだす展開だが、やや説得力に欠けるか。オペラパートにセットがなく、クロマキー合成をスクリーンに投影するスタイルは、舞台と客席が近いせいか、どうにも違和感がぬぐえなかった。嘉目が可愛くタイトロールを熱演し、ファンの反応もいい。演奏はピアノ2台、ヴァイオリン、トロンボーンとパーカッション。

ランメルモールのルチア

富士通コンサートシリーズ「ランメルモールのルチア」  2012年11月

ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー歌劇場管弦楽団の来日公演。サントリーホール大ホールの2F右端でS席2万7000円。オペラのコンサート形式は初体験だったけど、以前METのライブビューイングで観た「歌う女優」ナタリー・デセイによるベルカントオペラを体感したくて、足を運んだ。休憩を挟み3時間弱。期待通りの圧巻でした!

オーケストラ、ゲルギエフのあとに歌手が登場、ステージ前列に椅子を並べて座る。小柄なドレス姿のデセイ(ソプラノ)は、終始集中力を漂わす。予定を変更し、前半で1幕から2幕までを一気に。恋人エドガルドとの2重唱「そよ風に乗って届くでしょう」、婚礼で登場人物それぞれの思惑、混乱が交錯する2幕ラストの六重唱「このような時に誰が私を引き止めるのか」など十分聴かせるが、表情には「まだまだ、こんなもんじゃないわよ」感が。そうですよね~ オーケストラは速いテンポで緊迫感を醸す。
休憩後にいよいよ「狂乱の場」。ホールを制する声量、上がったり下がったり超絶技巧を駆使しつつ、技に溺れることなく幼い恋心と深い絶望を表現して素晴らしい! 大拍手に対して相変わらず無愛想なのも、格好良いなあ。フルートではなく、本来意図されたグラス・ハーモニカが使われており、妖しい音色も面白かった。演奏はガラス楽器作家でもあるサッシャ・レッカート。

デセイと比べ周囲の歌手陣はどうしても見劣りがしたものの、ルチアを追いつめる兄エンリーコのウラジスラフ・スリムスキー(バリトン)が頭ひとつリードする存在感を発揮。エドガルドのエフゲニー・アキーモフ(テノール)も代役の代役ながら、終幕の「神に向かって羽ばたいた君よ」などで健闘。デセイのソロに惜しみなく拍手を送る姿が好ましかった。オーケストラの後ろにずらり並んだのは新国立劇場合唱団。カーテンコールではお馴染み合唱指揮の三澤洋史も登場した。

左右の高い位置に置いた字幕は少々読みにくかったものの、ライブビューイングでの予習効果でシーンが目に浮かび、十分楽しめた。後ろの端っこの席になんと小泉元首相の姿も。お喜びの様子でした~

4 four

4 four  2012年11月

川村毅作、白井晃演出。シアタートラムで5700円。世田谷パブリックシアターの劇作ワークショップ「劇作家の作業場」の第一弾で、稽古場発表や朗読公演を経て戯曲を作ってきたそうです。

非常に実験的なスタイルでした。チケットには通し番号付入場引換券とあるだけ。劇場に付くとステージと座席がなく、がらんとした床にランダムに番号が書いてある。観客は入り口でクッションを受け取り、チケットにあるのと同じ番号あたりに思い思いに木箱を置いて腰をおろす。スカート厳禁だね。野間口徹さんが観客の間を回って、小声で話しかけるサービス。

劇が始まると、役者は中央の狭い空間で演じるけれど、観客の間を歩き回ったり、すぐ後ろで控えていたりもする濃密さ。でも端正で、アングラな雰囲気ではない。休憩無しの約2時間、膨大なモノローグを課せられた俳優陣は大変な負荷だろうが、観客もひりひりした緊張感に包まれ、座りこむ態勢のせいもあって終わるとぐったり。観劇というより経験かな。

テーマは死刑制度。4人の俳優がうつろう四季を背景に、裁判官、法務大臣、刑務官、未決囚それぞれの立場を語る。途中からクジで役を入れ替えちゃうので、枠組みが流動化。謎が膨らむうちにショッキングなシーンがあり、やがてずっと背後で見守っていた第5の男が語りだす。彼らが膨大な時間を費やして、いったい何を終わらせたがっていたのかが明かされるけれど、結局何も終わらないのでは、と思わせる。宙づり感を味わう感じ。

というわけで俳優陣は高水準だ。ご贔屓の高橋一生がずいぶん痩せて研ぎ澄まされ、一段と存在感を示す。7月の「温室」ほど不気味キャラじゃないけど、攻めてるなあ。池田鉄洋はふわふわした髪型でけっこう格好良く、田山涼成が最も声が通って切なさを醸す。野間口徹は手堅く、須賀貴匡が大健闘。白井晃さんもずっとガムを噛みながら、後ろで見守ってましたね。

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楽園

モダンスイマーズ「楽園」  2012年11月

以前「ハンドダウン・キッチン」を観た蓬莱竜太の作・演出で、2007年初演の作品を観る。今回も面白かった! 体育館風の吉祥寺シアター、後ろの方で4000円。若い演劇好きが集まっている感じ。1時間半。

1989年夏、どこかの地方都市。放課後に12歳の小学生たちが、閉鎖されたホテルの「秘密基地」にやってくる。大人の役者たちが、長じた現在の服装で子供時代を演じることで、全編が苦い回想であることを示す、非常に知的な演出だ。廃墟のワンセットで、後方の長い階段が不吉な伏線。
繰り広げられる他愛ない悪意や嘘、迫り来る嵐と事件。社会では案外、気が合うとか合わないとか、虫が好くとか好かないとか、つまらない人間関係で重要なことが決まってしまう。だけどそういう関係自体、いかに不安定で曖昧なものか。思い出してもうまく説明できないような数時間が、取り返しの付かない結果を生んでしまう虚しさ。「楽園」というタイトルがなんとも皮肉で、散りばめた笑いや郷愁を誘う細部も巧い。

小太りの男性なのに、アイドル的女子を演じる客演の深沢敦がさすがの表現力だ。ほかは古山憲太郎、小椋毅、西條義将、津村知与支。みな達者でした。終わって廊下にいた蓬莱さん、これからも楽しみな劇作家です。
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アンナ・ボレーナ

ウィーン国立歌劇場「アンナ・ボレーナ」  2012年11月

ウィーン引っ越し公演の千秋楽は、堂々たるドニゼッティの女王もの。65歳となるベルカントの女王、エディタ・グルベローヴァが日本での最後のオペラになると宣言したことで、長年のファンらしき聴衆が集まって開演前から熱気が漂う。エヴェリーノ・ピド指揮。東京文化会館の1F中ほど右寄りのいい席で5万9000円、休憩を挟んで3時間半。

個人的は最初で最後の鑑賞となったグルベローヴァ(ソプラノ)は、1幕目は音程が決まらず、高音も不調ではらはらしたけれど、だんだんに修正。2幕「狂乱の場」に至っては静まりかえったホールに弱音がしっかり染みて、格の違いを見せつけました。現実から逃避するほどの哀しさ、高貴さ、人間の弱さ。現実も重なる「別れ」のシーンであり、イングリッシュホルンや「埴生の宿」テーマの明るさとの対比、後にエリザベス1世となる幼い娘が立ちすくむ演出も効果的で涙を誘う。
敵役エンリーコ8世のルカ・ピサローニ(バス・バリトン)が堂々とした声、容姿も立派で収穫。アンナを敬愛しつつ敵対する複雑な役シーモアのソニア・ガナッシ(メゾ)は手堅く、愚かにもアンナを陥れちゃう楽士スメトンのエリザベス・クールマン(メゾ)が可愛かった。元恋人パーシー卿のシャルバ・ムケリア(テノール)はちょっと弱かったかな。

2011年の新制作というエリック・ジェノヴェーゼの演出は、抽象的な石造りの壁や巨大な柱を回していく落ち着いたもので、壁を挟んで大衆が配置されるところも秀逸。暗い照明のなかに、中世っぽいゴージャスな人物、特に合唱の艶やかな衣装が浮かび上がるのも洒落ていた。
カーテンコールは金色の紙吹雪が舞いスタッフも登場、「32年間ありがとう」という横断幕まで出て、長いスタンディングオベーションという大変な盛り上がり。終演後の出待ちも長い行列でした。

METライブビューイング「愛の妙薬」

METライブビューイング2012-13第1作「愛の妙薬」 2012年11月

MET新シーズンの開幕は、ドニゼッティがわずか2週間で書き上げたという喜劇となった。昨年の「アンナ・ボレーナ」とはうって変わってお気楽だけど、主役はもちろん歌姫ネトレプコだ。マウリツィオ・ベニーニ指揮、休憩を挟んで3時間弱。新宿ピカデリーのお馴染み最後列中央あたりでを確保して、3500円。年配の夫婦連れや、通らしいお一人さまで席は結構埋まってた。

ストーリーはスペイン・バスク地方の農村を舞台にした、単純かつご機嫌なもの。勝ち気で才色兼備の農園主アディーナを、純朴一途な農夫ネモリーノが射止めるという、定番中の定番ラブコメディだ。敵役は自信満々の軍曹ベルコーレ。それぞれを、ちょっと細くなっアンナ・ネトレプコ(ソプラノ)、甘さ満点のマシュー・ポレンザーニ(テノール)、そして存分に格好つけるマリウシュ・クヴィエチェン(バリトン)という、「ドン・パスクワーレ」などでお馴染みの黄金トリオが歌う。

冒頭でネモリーノが周囲に読み聞かせる「トリスタンとイゾルデ」の本が伏線になって、インチキ薬売りドゥルカマーラがネモリーノに売りつける惚れ薬(実はただのワイン)がドタバタを引き起こす。薬売りの巨漢アンブロージョ・マエストリ(バス)がはまり役だ。
ネトレプコは意外に技巧が抑えめだが、きらびやかなカデンツァ(即興)はあり、コケティッシュな山高帽と乗馬服姿で、吹っ切れた印象。ポレンザーニが大詰めの叙情的な名曲「人知れぬ涙」をたっぷり聴かせて目立っていたかも。ちょっと気の毒ないじめられ役が似合っていて、今回は線の細さも感じさせなかった。

バートレット・シャーの演出を観るのは「オリー伯爵」以来か。農園、街角、室内とけっこう素朴でリアル、大らかな雰囲気。テンポもいい。お楽しみの幕間での裏方さん紹介では、2幕のパーティーシーンで実物の料理を作る人が登場。そのチキンなんかを、実際にネトレプコがむしゃむしゃ食べちゃうのが笑った。解説は昨シーズンの「リング」で活躍したデボラ・ヴォイト。ゲルブ総裁とのやりとりだったか、喜劇は合わないよね、みたいな突っ込みにあって苦笑いしてたのが面白かったです。今季のライブビューイングはひねった演目が多い感じで、また楽しみだなあ。

フィガロの結婚

ウィーン国立歌劇場「フィガロの結婚」 2012年10月

4年ぶりの引っ越し公演は、モーツァルトの王道コメディを柔らかいウィーンの音色で。小澤征爾の降板もあり、冒険を避けて安定感抜群のステージとなった。ベテラン、ペーター・シュナイダー指揮、ジャン=ピエール・ポネル演出。雨の横浜、神奈川県民大ホールの1F中ほどS席で5万9000円。25分の休憩を挟み1と2幕、3と4幕を続けるスタイルで3時間半強。

やはり伯爵夫人のバルバラ・フリットリ(ソプラノ)が頭ひとつリードの貫録で、しみじみと聴かせる。スザンナのアニタ・ハルティッヒ(ソプラノ)、大柄でハンサムなフィガロのアーウィン・シュロット(バズ・バリトン、ネトレプコの旦那さんですね)は会場の大きさゆえか、出だしこそ不安だったけど、徐々に調子を上げた。伯爵のカルロス・アルバレス(バリトン)が手堅く、ケルビーノ役でロシア出身の若手、マルガリータ・グリシュコヴァ(メゾ)は可愛げがあってこの先楽しみだ。

今回は旧演出版ということで、定番かつ色彩を抑え淡々としたもの。横に長いステージを石造り風のアーチの額縁で囲み、1幕では中2階風の回廊と中央に螺旋階段、2幕は大きな掃き出し窓、3幕では壁にずらりと鹿の角など写実的な装置が並ぶ。つなぎに幕前も使いながら、物語を進行させていた。
聴衆がいつになく、よく笑っていたのが印象的。福井俊彦さんやジョン・健・ヌッツォさんがいましたね。





悼む人

PARCO&NELKE PLANNING presents「悼む人」  2012年10月

天童荒太が2009年に直木賞を受賞した小説を原作に、「39」などの大森寿美男脚本、「ケイゾク」「TRICK」の堤幸彦演出、なんと全国11都市で公演という話題の舞台だ。パルコ劇場の後ろのほう左寄りで8400円。向井理ファンが多いのか、観客層は若め。

全国を放浪しながら事件・事故の現場を訪れ、見知らぬ犠牲者を哀悼している不思議な若者・静人(向井)。夫殺しの罪を背負って静人と行動をともにする倖世(小西真奈美)、静人を信じ家で待つ病身の母(伊藤蘭)、妊娠中の妹(ハロプロの真野恵里菜)、愛というものに懐疑的な週刊誌記者・蒔田(手塚とおる)がからみ、休憩を挟んで3時間弱、大切な人の死や後悔との向き合い方を切々と問いかける。
原作を読んでいないのだけど、作家の深く真面目な思考が全体を支配しているという印象。セリフは観念的だ。ドーム型のセットで全体を包み、その他の舞台装置は最低限にして、代わりにスクリーンに風景などの写真を映す。小西が演じ分ける亡き夫の声など、ところどころマイクを使うせいもあって、映像のほうにウエートがかかっている感じ。ちなみに分厚いプログラムも写真集風です。

徹底して父親不在の物語の中で、向井は終始中性的な、抑制の効いた演技。気丈にコミカルさを漂わす伊藤、屈折と変化を示す手塚がさすがの安定感だ。カーテンコールで誕生日と紹介された小西真奈美さんのバレリーナ風のお辞儀が可愛かった。

裏ドリワンダーランド

DREAMS COME TRUE 裏ドリワンダーランド2012/2013 2012年10月

4年に1度のヒット曲づくし「ドリカムワンダーランド」の翌年、その裏バージョンに参戦してみた。ファンクラブ向けイベントをなんと全国アリーナツアーにしちゃった、という感じ。国立代々木競技場第一体育館、2Fの北サイド中ほどで7800円。お祭り気分はやや控えめながら、やっぱり老若男女1万5000人で浮き浮きした雰囲気です。またTシャツ買っちゃいました。

アリーナの中央に円形のステージを設置、上部に大きいモニターがあり、歌詞を映す周到ぶり。2人は通路をディズニーランドのパレードみたいにキャラクターの山車に乗って華々しく登場した。2Fスタンドは遠いけれど、ステージが回るほか、吉田美和は曲ごとにステージの四方に移動するので、近くに来るたびオペラグラスで観たり手を振ったり忙しい。中村正人は反対側にいるか、中央の高いところにいるかして、バランスをとってましたね。
冒頭に、裏といっても曲はそれほどマニアックではなくて、ワンダーランドのリクエストで惜しいところに入るあたり、という説明があってスタート。割と早い段階で、観客皆で手を動かす「ドリーズブートキャンプ」があって盛り上がり、中盤では「どん底コーナー」と銘打ち、哀しい失恋ソングを連発。その後はアンドレ中村とか、尻尾をつけたモンキーガールとか、コミカルな演出もたっぷりです。
終盤は「WINTER SONG」など有名どころも歌い、銀色テープが降る。アンコールでは新曲を披露、今度は観客皆でサビのコーラスに参加。さらに定番「何度でも」を歌って大サービスだ。

吉田美和は踊りも衣装も相変わらず若い! 旦那さまの鎌田樹音くんも歌にギターに大活躍で、たっぷり3時間近く、楽しかったです。中村正人が「So Sexy」にこだわってたのが、よくわからなかったけど…

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以下セットリストです。

01.SWEET REVENGE
02.嵐が来る
03.Don't You Say…
04.東京ATLAS
05.戦いの火蓋
06.バイバイ
07.2人のDIFFERENCE
08.涙とたたかってる
09.愛してる 愛してた
10.夢で逢ってるから
11.せつなくて~オホーツクにたたずむ男~(アンドレ中村)
12.沈没船のモンキーガール
13.モンキーガール豪華客船の旅
14.LIES,LIES
15.SPOON ME,BABY ME
16.I think you do
17.愛がたどりつく場所
18.想像を超える明日へ
19.SNOW DANCE
20.連れてって連れてって
21.WINTER SONG
~encore
22.愛して笑ってうれしくて涙して
23.何度でも
24.MY TIME TO SHINE

遭難、

劇団、本谷有希子 第16回公演「遭難、」 2012年10月

作家としても活躍する本谷有希子の作・演出。最年少での鶴屋南北戯曲賞受賞作で、初演から6年ぶりの再演だ。主演の黒沢あすかが病気降板し、女性教師役を男性の菅原永二にスイッチする波乱。改装なった東京芸術劇場のシアターイーストで。地下の小劇場で若い観客が多い。やや左寄りの席で5800円。

学校の職員室のワンセットで、生徒の自殺未遂事件が起きたあと、という設定。シビアな状況におかれた教師たちと生徒の母が保身や誤魔化し、責任転嫁に走り、秘めたトラウマの告白へと追い込まれていく。特に、表向き人格者で通っている里見(菅原)が、場当たりの悪事を重ねちゃうさまは露悪的なほど。
とはいえ、無茶な展開のなかに笑いをまぶし、「みんな自分が可愛く、不都合なことは誰かのせいにしたがっている」「他人の気持ちなんて分かるわけがない」といった青春らしい普遍的テーマを提示、一方で発端である生徒にはきちんと救いを用意している。なかなか周到な脚本だ。この鋭敏な自意識は、どこへ向かうのだろうか。

教室の左右のスペースや、節目で前面に降りてくる外壁を使って空間を構成し、意表を突いて室内に降りしきる美しい雪が、荒涼とした内面、心の「遭難」を象徴する。突出した人物像だからか、菅原の女装に違和感はなく、また親を怪演した片桐はいりを筆頭に、同僚教師役の美波、佐津川愛美、松井周がそれぞれいいリズムで、説得力があった。
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エッグ

NODA・MAP第17回公演「エッグ」 2012年10月

作・演出野田秀樹。新装なった池袋の東京芸術劇場プレイハウスで。広々した吹き抜けから見下ろすと、ロビーで大道芸のマジックをしていたりして、楽しい雰囲気。劇場は茶の大扉が豪華だ。1F後方左寄りの席で9500円。客席は割とフラットだが、斜めの方角で観やすかった。客層は年齢層がやや高めで男性が目立ち、芝居好きの野田ファンが集結している感じ。休憩なしの2時間強。

野田が自身を投影した劇場の芸術監督と、案内係の2役を怪演し、改装中の梁から寺山修司が残した戯曲を見つける、という凝った設定。その劇中劇では卵を扱う謎のスポーツ「エッグ」の日本代表が、五輪出場を目指して中国と競っている。五輪とは1940年、幻の東京五輪のことであり、後段になって舞台は戦前・戦中の満州、エッグとはワクチン作成のことだとわかってくる。
ロンドン五輪と日中国交正常化40年という年に、あえてスポーツやスター歌手による大衆扇動の危うさ、負の歴史の記憶を突きつける問題意識が鋭い。寺山修司、円谷幸吉、731部隊などのイメージをこれでもかと散りばめており、やや消化不良ではあるけれど。幕切れの原稿用紙が一枚、ひらひらと舞い上がるシーンが余韻を残す。

白いロッカーをリズミカルに動かし、カーテンや装置を大衆のダンスと組み合わせた精緻な舞台。
エッグの新人選手、妻夫木聡は成長を感じさせ、スター歌手の深津絵里が椎名林檎を達者に歌う。エース選手に仲村トオル、監督に橋爪功、オーナーに秋山菜津子と豪華メンバーだが、大倉孝二、藤井隆まで加わると、ちょっと豪華過ぎかも。

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