ボクの四谷怪談
騒音歌舞伎(ロックミュージカル)ボクの四谷怪談 2012年9月
1948年生まれの橋本治が学生時代に書き、40年間活字にもなっていなかった「幻の戯曲」を、1935年生まれの蜷川幸雄が演出。音楽は1951年生まれの鈴木慶一。客層は幅広い。Bunkamuraシアターコクーンのかなり前、右寄りの席で9500円。2回の休憩を挟み約3時間半。
ベースになっているのは著名な怪談だが、歌舞伎などで接したことがなかったので、今さらながら鶴屋南北の退廃と奇怪のアナーキーさにびっくり。戯曲はその古典の設定に70年代の若者群像を重ねた。人物はTシャツ、ジーンズに刀を差していたりする。大義のために死ねない江戸期の赤穂浪士と、ポスト学園紛争を生きる若者たち。両者に共通する青春の虚無こそが、恐ろしいお岩の正体ということか。
蜷川演出は、お約束の冒頭の「連続見得」や舞台の隅っこで意味なくうごめく群衆、鏡や小道具を駆使して重層的、かつオモチャ箱をひっくり返したよう。若手俳優陣の歌や踊りはぎこちなくて、正直観ていて居心地が悪かったものの、なかなか興味深い舞台でした。
俳優陣は歌のパートでマイクを使用。フリーター風・伊右衛門の佐藤隆太は奮闘だけど、大詰めセット無しの長ゼリフは辛い。お岩の妹・お袖の栗山千明は細身で、意外に少年っぽい印象。ライバルで上昇志向が強い与茂七の小出恵介は、成長著しいし、何といってもお岩の尾上松也は声がよく、後方のドアを開け放った空間を疾走するなど頭ひとつ抜ける存在感を示した。中間・直助の勝地涼、伊藤喜兵衛の勝村政信はいつもの役回りで安定し、ベテラン瑳川哲朗、麻実れいが怪演で支えてました。異母弟・次郎吉の三浦涼介は歌の巧さが意外。
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