其礼成心中
パルコ・プロデュース公演三谷文楽「其礼成心中」 2012年8月
作・演出三谷幸喜の新作という意欲的な企画。三谷ファンらしい若い観客が多く、また文楽は公的補助削減の動きで話題というタイミングもあり、客席に熱気がある。パルコ劇場の後ろの方、左寄りで7800円。パンフレットはB5判くらいで、床本と2冊セットの凝ったもの。約2時間。
結論から言うと非常に面白かった。ステージ後方高いところに大夫(呂勢大夫、千歳大夫ら)、三味線(清志郎、清介ら)が陣どり、左右スライドで交代したり、ずらり並んだり。マイク使用だし、浄瑠璃には最近の流行語や「ネイル」といったカタカナが頻出するし、当初は上滑りしないかと、ちょっと不安だった。しかし物語が進むうちに、老若男女を一人で語る大夫の技術、三味線のリズム感といった文楽の魅力がきちんと伝わってきて、納得。作曲は清介さん。
主役は天神の森のはずれに店を構える饅頭屋夫婦だ。「曾根崎心中」のヒットで真似する男女が相次いだ、という史実を踏まえ、夫婦が森を訪れる心中志願者の身の上相談に応じて、ちゃっかり儲けるものの、やがて「心中天網島」の舞台のほうに人気を奪われて大弱り…というコメディに仕立てた。三谷さんらしく、たくましく生きる庶民への温かい視線があり、落語の人情もののようで爽やか。要所に名場面を取り入れ、劇作家として巨人・近松に対するオマージュを織り込んだところも巧い。
人形(幸助、一輔、玉佳、紋臣ら)は黒衣スタイルで、通常の舞台に比べ足のほうまで見せており、独特の動きがわかりやすい。ダイビングシーンのどたばたぶりも、人形ならではの工夫で効果的。カーテンコールで人形さんたちが初めて顔を出し、少し照れたように拍手を浴びる姿が微笑ましかった。
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