秀山祭「時今也桔梗旗揚」「京鹿子娘道成寺」
秀山祭九月大歌舞伎 2012年9月
初代吉右衛門の芸の継承を掲げる公演で、吉右衛門さんの渋さ、真面目さが際立つ。。新橋演舞場の花道わき、役者たちの見得を目前にできる前寄りのとても良い席で、1万5000円。夜の部は40分の休憩を挟み3時間半。
まず鶴屋南北「時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ)」。初代の代表作のひとつだそうで、派手な動きはない。武智光秀(明智光秀)の我慢と、ついに謀反に至るまでの心理を、吉右衛門さんが重厚に演じる。小田春永(織田信長)役の市川染五郎が直前の怪我で休演したのが残念だったけど。代役は中村歌六でちょっと地味。
物語は珍しく序幕「饗応の場」から。勅使の饗応準備中というシーンで、御簾が上がると烏帽子大紋で正装した光秀が格好良く登場。しかし鷹狩りから帰った春永は水色桔梗の幕などが気に入らず、大暴れする。光秀に理路整然と諫められて、さらに激高、森蘭丸(歌昇)に鉄扇で額を打ち据えさせたうえ、蟄居を命じて去っていく。屈辱に耐え、拾いあげた鉄扇をじっと見つめる光秀。
二幕目は「本能寺馬盥(ばだらい)の場」。額に傷を残した光秀が酒宴に伺候すると、春永はなんと真柴久吉(秀吉)が届けた馬盥で酒を飲ませ、さらにはかつて金の工面のため光秀の妻が売った切髪を与える。満座のなか、過去の恥を暴かれて、ついに光秀の表情が一変。切髪の入った木箱を抱え、花道での見得に凄みがある。
大詰は「愛宕山連歌の場」。愛宕山の光秀の宿所を、春永の上使2人が訪れ、所領を召し上げると通告。一陣の風で灯りが消えた間に、光秀は水裃の死装束に転じ、辞世の句「時は今、天が下知る皐月かな」を詠じる。切腹かと思ったその時、太鼓が鳴り響き、一転して怒りを爆発させて上使を切り捨て、三宝を踏み砕いちゃう。謀反に立ち上がるべく、刀を担いで見得を切り、駆け付けた部下に不敵な笑みを浮かべて幕。観客は結末を知っているだけに、忍耐から悲壮感漂う決意への転換が見事ですねえ。
休憩後は「京鹿子娘道成寺」。七世中村芝翫を偲び、長男の福助が登場。色気、可愛らしさは今ひとつの気がするけれど、女形舞踏屈指の大曲ということで、1時間近く踊りづめのエネルギーはさすがだ。
舞台は桜満開の道成寺。鐘供養が執り行われており、所化(坊主)たちはこっそり酒を持ち込んで浮かれている。そこへ金烏帽子の白拍子・花子(福助)が現れ、厳かに能がかりの乱拍子・急ノ舞を披露。花道で鐘を見返る美しいかたちが、後段を暗示する。
烏帽子を脱いで町娘に転じると、リズミカルな手鞠の仕草、三連の振り出し笠と続く。手拭いを使った「恋の手習い」で切ないクドキをゆったり。所化たちが客席に名入りの手拭いを投げるサービスがあり、首尾よくキャッチ! そして諸国の名山を読み込んだ「山尽くし」、あでやかな手踊り、リズミカルな鈴太鼓へ。衣装の引き抜きが鮮やかだ。所化たちが花道に並んで、「と」で終わる言葉をつなぐコミカルな場面も。
大詰めで花子が鐘に飛び込み、引き上げてみると恐ろしい隈取りの形相に変じていて、清姫の怨霊という正体を現す。青竹を抱えた大館左馬五郎(松緑)が登場し、花道から豪壮に押戻し。たじたじとなった花子が鐘に登り、2人して絵画のように見得を切って幕となりました。
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