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秋らくご「一目上り」「だくだく」「中華屋開店」「五目講釈」「猫忠」

よってたかって秋らくご’12 21世紀スペシャル寄席ONEDAY 2012年9月

四季折々に企画される「よってたかって」シリーズ、今回の昼の部は兼好、喬太郎、三三、市馬という豪華出演陣だ。特に喬太郎さんの頭抜けたパワーを感じた。聴衆も掛け声がかかるノリの良さ。よみうりホール1Fほぼ中央で4000円。

前座は柳亭市也で「一目上り」。讃、詩、語と掛軸にまつわる他愛ない洒落が続く前座噺だけど、庶民の教養を感じさせる。市馬さんのお弟子が頑張った。
そして三遊亭兼好さんが登場。勢いある早口で、出だしから聞き手を引きつける手腕がさすが。昨今の盗撮犯罪のハイテクぶりに触れたマクラから「だくだく」。志の輔さんで聴いたのと同じ、八五郎が隣の隠居に家財道具の絵を書いてもらうバージョンで、落ちは隠居が出てくる。「つもり」のリズム感が楽しい。
続いてお楽しみ柳家喬太郎で、いつものようにマクラがたっぷり。この日の噺家の顔ぶれとか(なぜか夜の部のほうが白鳥、白酒、百栄、一之輔ということもあり…)、聴衆のノリの良さとか主催者の狙いとかをからかい、近づいている台風の話題、ラー油をもらった話題を振ってから新作「中華屋開店」。心理学の教授が何故か中華料理店を開こうとし、助手、教え子の令嬢、執事という個性的なキャラたちとドタバタを繰り広げる。暴風雨の描写のしつこい可笑しさ、空からラー油が降るナンセンスなど、内容は実にくだらない。それだけに押したり引いたり、聴衆の呼吸を操るコミュニケーションの芸が感じられて面白かった。聴くほうが引きずり回されるような独特の感覚は、この人のライブならでは、と改めて実感。

仲入りを挟んで柳家三三。今日の演目のめでたさや、三平さんをからかうマクラから「五目講釈」。別題「調合」で、居候の生薬屋の若旦那が講談師になりたいと言い出し、試しに皆で聴いてみると、忠臣蔵とか桜田門外の変とかがごちゃごちゃになっていて、という内容だ。どんどん演目が替わる流暢な言い立てに拍手。端正さゆえに、時として説教臭くなりがちな人だけど、今回は喬太郎の暴風雨の描写を真似たりして、肩の力が抜けていい感じでした。
トリは柳亭市馬。いろんな師匠に稽古をつけてもらった思い出を振ってから、「猫忠」。これも志の輔さんで聴いたことがあり、清元の美人師匠のところに入り浸っている男が、実は三味線にされた猫の子の化身で、という狐忠信のパロディだ。朗々とした語り口を生かし、狐ならぬ猫の長台詞が芝居そのものの名調子で巧い。「五目講釈」とともに、知識がないと楽しめない演目が並んだ。客層はかなりの落語好きとみた、ということでしょうか。充実して面白かったです!

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ボクの四谷怪談

騒音歌舞伎(ロックミュージカル)ボクの四谷怪談  2012年9月

1948年生まれの橋本治が学生時代に書き、40年間活字にもなっていなかった「幻の戯曲」を、1935年生まれの蜷川幸雄が演出。音楽は1951年生まれの鈴木慶一。客層は幅広い。Bunkamuraシアターコクーンのかなり前、右寄りの席で9500円。2回の休憩を挟み約3時間半。

ベースになっているのは著名な怪談だが、歌舞伎などで接したことがなかったので、今さらながら鶴屋南北の退廃と奇怪のアナーキーさにびっくり。戯曲はその古典の設定に70年代の若者群像を重ねた。人物はTシャツ、ジーンズに刀を差していたりする。大義のために死ねない江戸期の赤穂浪士と、ポスト学園紛争を生きる若者たち。両者に共通する青春の虚無こそが、恐ろしいお岩の正体ということか。
蜷川演出は、お約束の冒頭の「連続見得」や舞台の隅っこで意味なくうごめく群衆、鏡や小道具を駆使して重層的、かつオモチャ箱をひっくり返したよう。若手俳優陣の歌や踊りはぎこちなくて、正直観ていて居心地が悪かったものの、なかなか興味深い舞台でした。

俳優陣は歌のパートでマイクを使用。フリーター風・伊右衛門の佐藤隆太は奮闘だけど、大詰めセット無しの長ゼリフは辛い。お岩の妹・お袖の栗山千明は細身で、意外に少年っぽい印象。ライバルで上昇志向が強い与茂七の小出恵介は、成長著しいし、何といってもお岩の尾上松也は声がよく、後方のドアを開け放った空間を疾走するなど頭ひとつ抜ける存在感を示した。中間・直助の勝地涼、伊藤喜兵衛の勝村政信はいつもの役回りで安定し、ベテラン瑳川哲朗、麻実れいが怪演で支えてました。異母弟・次郎吉の三浦涼介は歌の巧さが意外。

文楽「傾城阿波の鳴門」「冥途の飛脚」

第一八〇回文楽公演第二部 2012年9月

9月公演の夜の部は、大坂を舞台にした名作2本。国立劇場の中央あたりの席で6500円。

まず「傾城阿波の鳴門」の八段目、十郎兵衛住家の段を1時間ちょっと。前「順礼歌」は津駒大夫にベテラン寛治が渋く。玉造の隠れ家を訪ねてきた幼い巡礼が、国元に残してきた娘おつるだと気づいて動揺するお弓(文雀)。事情があって夫婦で盗賊に身をやつしているため、泣く泣く娘を追い返す。後半では、入れ違いで戻った夫・十郎兵衛(玉也)がそうとは知らず、おつるの金を手に入れようとし、誤って殺めてしまう。悲嘆にくれる夫婦。やがて追っ手が迫り、家に火を放って娘の弔いとする。哀しいけれどドラマチックだなあ。後の呂勢大夫が朗々と。清治休演で三味線は東蔵。

10分の休憩後、お楽しみ近松の世話物「冥途の飛脚」。咲大夫、嶋大夫の豪華リレーだ。主人公の徹底したダメ男ぶりが現代にも通じる、普遍的な傑作。
まず淡路町の段で1時間弱。遊女梅川に惚れ込んだ飛脚屋の忠兵衛(和生さん、安定感ですね)が、身請けのため友人八右衛門(文司)に渡す為替金50両を使い込んでしまう。八右衛門は義母・妙閑(勘弥)の前では友人をかばい、ダミーの鬢水入れを受け取ってくれる。
店のセットがはけて往来に変わり、その夜の西横堀。忠兵衛は堂島のお屋敷に300両を届けに出かけるが、いつのまにやら足は新町の廓に向かう。「おいてくれう」「いてのけう」と行きつ戻りつ、咲大夫、燕三のリズムが軽快だ。理性を失う羽織落としの演出も。

30分の休憩中、ロビーで配っている「冥途の飛脚」の地図を読んで楽しく勉強。そして封印切の段から1時間半ほどを一気に。嶋大夫さんが熱演! 三味線は富助。佐渡屋町の廓・越後屋で、冒頭にかむろ(勘次郎が器用)が浄瑠璃「三世相(さんぜそう)」で遊女の切なさを語る。八右衛門が忠兵衛を案じるのを耳にした忠兵衛は、面目をつぶされたと逆上。男の一分をたてようと、公金の封を切る大罪を犯す。金を投げつける様子が軽率で子供っぽくて、なんとも哀れだ。そしてついに梅川(勘十郎が美しく)を請け出して逃げる羽目に。
ラストは道行相合かご。咲甫大夫ら大夫5人、三味線5人の掛け合い。氷雨のなか、忠兵衛と梅川は故郷・新口村へと落ちていく。

文楽「粂仙人吉野花王」「夏祭浪花鑑」

第一八〇回文楽公演第一部「粂仙人吉野花王」「夏祭浪花鑑」 2012年9月

米寿のキング住大夫さんが残念なことに病気休演となり、入りも今ひとつな気がする国立劇場小劇場。左寄り後ろの方の席で6500円。しかし演目が変化に富んでいて面白く、満足できる舞台でした。

イヤホンガイドの高木秀樹さんの解説を聞いてから、1演目めは「粂仙人吉野花王(くめのせんにんよしのざくら)」の吉野山の段を1時間弱。二代目市川団十郎の歌舞伎版が、珍しく文楽よりも先にあり、後の歌舞伎十八番「鳴神」「毛抜」「不動」の元になったそうです。その「鳴神」部分を文楽に移したのが本作。粂の仙人(吉田玉也)が根っからの悪人ではなく、霊力を振るうわりに子供っぽくて笑っちゃうし、終盤(段切)の演出が派手で楽しい。
仙人は弟で実力者の聖徳太子に冷遇されたのが不満で、物部守彦にそそのかされるまま竜神を滝壺に閉じこめ、日照りを起こして天下騒乱を狙っている、という設定だ。ところが朝廷の密命を帯びて仙人の窟(いわや)を訪れた花ます(豊松清十郎が端正に)が美貌なため、まんまと色香に迷い(足がなまめかしい)、酒を飲んで寝てしまう。その隙に花ますが、桜を散らしながら滝に登って注連縄を切ると、竜の人形が天に昇り、ライトの明滅とともに雷雨の絵が降りてくるという趣向。仙人に詫びつつ立ち去る花ます。目覚めた仙人は怒って髪が逆立ち、衣装もぶっかえりで炎の文様に変じ、飛び六方で追いかけて行く。
仙人の滑稽な弟子に幸助さんら。浄瑠璃は千歳大夫、三輪大夫ら大夫6人、団七ら三味線5人が桜の肩衣でずらりと並んで、賑やかでした~

10分の休憩の後、楽しみにしていた世話物の大作(全編は9段もある)「夏祭浪花鑑」。まず2幕続けて75分間。歌舞伎で2回観たことがあり、男女を問わず義理に生きる侠客たちの、ひりつくほどの心意気、殺しの場面の胸苦しさが印象的だったが、文楽も期待以上の迫力。登場人物が多いので、人形さんは大忙しだろうなあ。

導入部分は住吉鳥居前の段。希大夫+寛太郎から松香大夫+清友で。住吉大社で老侠客・三婦(渋く紋壽)が泉州浜田藩玉島家の御曹司で勘当された磯之丞(勘彌)を救う。また牢から出たばかりの団七九郎兵衛(玉女が格好良い)は徳兵衛(玉輝)と、磯之丞の恋人・傾城琴浦(清五郎)をめぐって建引(義理ゆえの喧嘩)を繰り広げるが、団七の女房お梶(勘壽)が札(曾根崎心中の宣伝ですね)を持って仲裁に入ると、とたんに仲良くなって片袖を交換する。
続く内本町道具屋の段は、奥の文字久大夫+清介がはきはきしていい感じ。ストーリーのほうは磯之丞のダメ男ぶりが全開だ。身分を偽って手代になったとたん、店の娘といい仲になるって、どういうことよ。それでも団七は義理を通して磯之丞を守り、舅・義平次(勘十郎さんが老獪に)と番頭らの騙りを未然に防ぐ。

休憩30分を挟んで、いよいよ釣船三婦内の段から怒濤の85分間。高津宮の宵宮の日、遠くからだんじり囃子が響いて雰囲気を盛り上げる。徳兵衛女房・お辰の蓑助さんがいっときも気を抜かず、きめ細かい動きで心情を表して絶品! 磯之丞を預かろうとしたのに、三婦に咎められてぴくっとする。それからワナワナと我慢しているが、「色気があるから不安だ」との指摘にハッとなり、自ら魚を焼く鉄弓で顔を傷つけてばったり倒れちゃう。大胆だなあ。やがて義平次が琴浦を連れ去り、団七がそれを追う。住大夫さん代役で再登場の文字久大夫+錦糸、アトは靖大夫+龍爾でいいリレーだ。

そして大詰め長町裏の段。源大夫は声が弱いものの、技巧はさすが。掛け合いに英大夫、三味線は藤蔵。団七は義平次のもとから琴浦を救い出すものの、舅に散々いたぶられるうち、はずみで切りつけてしまい、「もはやこれまで」ととどめを刺しちゃう。凄惨な格闘シーンは浄瑠璃が消えて、高まる祭りの掛け声だけを背景にスローモーションのようになる息詰まる演出だ。義平次は「舅のガブ」という首(かしら)に変わって、恐ろしい形相で深い妄執をあらわにする。一方、団七のほうは珍しい丸胴姿で、雲龍の彫り物が鮮やかだ。ラストは舞台が明るくなって賑やかなだんじりが登場、団七は「悪い人でも舅は親」という決め台詞を吐き、八丁目めざして「韋駄天」で走り去っていく。歌舞伎のような本水がなくても、期待以上の迫力でした。拍手!

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伝統芸能の今2012「六道の辻」「龍神」

伝統芸能の今2012  2012年9月

歌舞伎囃子方で三響会(田中家三兄弟の会)の田中傳次郎が演出、能狂言と歌舞伎が融合するイベントに足を運んでみた。浅草公会堂の2階最前列右寄りの席で6500円。市川猿之助、片岡愛之助とスターが揃い、ファンらしき中年女性が目立つ。小児がん患者と家族の支援、途上国へのワクチン普及を対象にしたチャリティー公演で、開幕前にロビーで出演者が寄付を呼びかけていた。

演目はまず茂山逸平作の新作狂言劇「源平騒乱・六道の辻」。閻魔大王(猿之助)が亡者を地獄へ連れこもうと狙うところへ、平忠度(茂山逸平)がやってきて、俗物ぶりを発揮、金銀を差しだしてなんとか極楽へ逃れようと画策する。颯爽とした源義平(愛之助)も、清盛を討つため極楽行きを目指していて大騒ぎ。結局、金銀は募金箱へ、というオチで、傳次郎のチンという鐘の音が笑いを誘う。
逸平の格段に声が通るところはさすがだ。後方に控える能楽一噌(いっそ)流笛方の一噌幸弘が驚異的で、リコーダーや角笛などを次々に持ち替えるばかりか、3本ぐらい同時に吹いちゃう。人間国宝なのに、型破りな人だなあ。

10分の休憩後、出演者が並んで30分を超える座談会。まずチャリティーの趣旨説明、3・11後に渋谷駅前で突発的に募金活動をした思い出など。逸平が飄々として、いい感じだ。一噌幸弘が加わってしょうもない駄洒落で笑わせた後、サプライズゲストとして三味線の上妻宏光が登場。猿之助ゆかりの大河ドラマの旋律を混ぜた「津軽じょんがら節」、そしてオリジナルを1曲聴かせてくれました。

20分の休憩を挟んで猿之助振付の創作「龍神」が15分ほど。逸平の語りに続いて演奏があり、一噌幸弘がまた息が長くてびっくり。幻想的な照明のなか猿之助が白い衣装、緑の髪、頭に龍を載せた姿で現れ、鮮やかな跳躍を披露。楽しい会でした。
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秀山祭「時今也桔梗旗揚」「京鹿子娘道成寺」

秀山祭九月大歌舞伎 2012年9月

初代吉右衛門の芸の継承を掲げる公演で、吉右衛門さんの渋さ、真面目さが際立つ。。新橋演舞場の花道わき、役者たちの見得を目前にできる前寄りのとても良い席で、1万5000円。夜の部は40分の休憩を挟み3時間半。

まず鶴屋南北「時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ)」。初代の代表作のひとつだそうで、派手な動きはない。武智光秀(明智光秀)の我慢と、ついに謀反に至るまでの心理を、吉右衛門さんが重厚に演じる。小田春永(織田信長)役の市川染五郎が直前の怪我で休演したのが残念だったけど。代役は中村歌六でちょっと地味。
物語は珍しく序幕「饗応の場」から。勅使の饗応準備中というシーンで、御簾が上がると烏帽子大紋で正装した光秀が格好良く登場。しかし鷹狩りから帰った春永は水色桔梗の幕などが気に入らず、大暴れする。光秀に理路整然と諫められて、さらに激高、森蘭丸(歌昇)に鉄扇で額を打ち据えさせたうえ、蟄居を命じて去っていく。屈辱に耐え、拾いあげた鉄扇をじっと見つめる光秀。
二幕目は「本能寺馬盥(ばだらい)の場」。額に傷を残した光秀が酒宴に伺候すると、春永はなんと真柴久吉(秀吉)が届けた馬盥で酒を飲ませ、さらにはかつて金の工面のため光秀の妻が売った切髪を与える。満座のなか、過去の恥を暴かれて、ついに光秀の表情が一変。切髪の入った木箱を抱え、花道での見得に凄みがある。
大詰は「愛宕山連歌の場」。愛宕山の光秀の宿所を、春永の上使2人が訪れ、所領を召し上げると通告。一陣の風で灯りが消えた間に、光秀は水裃の死装束に転じ、辞世の句「時は今、天が下知る皐月かな」を詠じる。切腹かと思ったその時、太鼓が鳴り響き、一転して怒りを爆発させて上使を切り捨て、三宝を踏み砕いちゃう。謀反に立ち上がるべく、刀を担いで見得を切り、駆け付けた部下に不敵な笑みを浮かべて幕。観客は結末を知っているだけに、忍耐から悲壮感漂う決意への転換が見事ですねえ。

休憩後は「京鹿子娘道成寺」。七世中村芝翫を偲び、長男の福助が登場。色気、可愛らしさは今ひとつの気がするけれど、女形舞踏屈指の大曲ということで、1時間近く踊りづめのエネルギーはさすがだ。
舞台は桜満開の道成寺。鐘供養が執り行われており、所化(坊主)たちはこっそり酒を持ち込んで浮かれている。そこへ金烏帽子の白拍子・花子(福助)が現れ、厳かに能がかりの乱拍子・急ノ舞を披露。花道で鐘を見返る美しいかたちが、後段を暗示する。
烏帽子を脱いで町娘に転じると、リズミカルな手鞠の仕草、三連の振り出し笠と続く。手拭いを使った「恋の手習い」で切ないクドキをゆったり。所化たちが客席に名入りの手拭いを投げるサービスがあり、首尾よくキャッチ! そして諸国の名山を読み込んだ「山尽くし」、あでやかな手踊り、リズミカルな鈴太鼓へ。衣装の引き抜きが鮮やかだ。所化たちが花道に並んで、「と」で終わる言葉をつなぐコミカルな場面も。
大詰めで花子が鐘に飛び込み、引き上げてみると恐ろしい隈取りの形相に変じていて、清姫の怨霊という正体を現す。青竹を抱えた大館左馬五郎(松緑)が登場し、花道から豪壮に押戻し。たじたじとなった花子が鐘に登り、2人して絵画のように見得を切って幕となりました。

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ふくすけ

シアターコクーン・オンレパートリー+大人計画2012『ふくすけ』 2012年9月

松尾スズキ作・演出。1991年、下北沢ザ・スズナリ初演の舞台の再々演だ。観客は30代くらいが中心か。意外と大人っぽい雰囲気。前の方右端で9500円。休憩を挟んで3時間弱。

異形の少年フクスケ(阿部サダヲ)と、失踪した妻マス(大竹しのぶ)を追って東京・歌舞伎町に迷い込んだ冴えない中年男ヒデイチ(古田新太)の運命。薬害やらいじめやら、社会の歪みをぎっしりと詰め込んだストーリーだ。登場人物全員がダークな負のエネルギーを発散させる。作家の言う「生まれてきたことの不条理」。この戯曲を20代で書き、小劇場で上演したときは、さぞかし濃密な空気であったろうと想像する。

そして2012年。キャストは豪華になった。冒頭の訴訟シーンから大竹しのぶが、いつもながらの圧倒的な存在感を示す。いやあ、キレキレですね。そして存在感という点では阿部サダヲや、終始ぼそぼそ喋りに徹した古田新太も負けてはいない。俳優陣が充実している分、観る側の視点が拡散してしまった感は否めないけれど。多部未華子の愛らしさ、オクイシュージのキレの良さが楽しみだ。

昼の部終演後、劇場外には夜の部の当日券を求めるらしい若者が座り込んで行列していた。大人計画、人気です。
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鎌塚氏、すくい上げる

M&Oplaysプロデュース「鎌塚氏、すくい上げる」  2012年8月

作・演出倉持裕で、「鎌塚氏、放り投げる」の愛すべき辣腕執事、鎌塚アカシが再登場。本多劇場は和やかな雰囲気だ。休憩なしの2時間強。6800円。

イタリア沿岸をいく豪華客船上で、貴族子女のお見合いが準備されている。伊達男だけど恐がりのお坊っちゃま(田中圭)に仕える鎌塚(三宅弘城)は、この縁談をまとめようと使命感たっぷり。ところが気の強い令嬢(満島ひかり)のほうは政略結婚を嫌がり、同行した女中頭(市川実和子)を身代わりに仕立ててしまう。

貴族に執事というお伽噺の設定で、しかもストーリーは古典的なスクリューボール・コメディー。前作で片桐仁が演じたようなヒネリはなく、今回はほのぼの路線に徹していて、いっそすがすがしい。セットを回転させ、登場人物が客席や甲板を歩き回ってシーンをつないでいく構成は相変わらず精密で、非常によくできている。

三宅、市川は期待通りの安定感。注目の田中がまずまず達者にコメディをこなし、満島は声がつぶれていたけれど、細い体からエネルギーを発散。船長の今野浩喜(キングオブコメディ)と、飄々とした船員の六角精児がサイドストーリーを担ってアクセントをつけていた。
パンフレットで市川がコメントしているように、前作の明るさは強い印象を残した。今回、千秋楽のカーテンコールで2年後に第3弾、というコメントも出たらしい。楽しみです。

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其礼成心中

パルコ・プロデュース公演三谷文楽「其礼成心中」  2012年8月

作・演出三谷幸喜の新作という意欲的な企画。三谷ファンらしい若い観客が多く、また文楽は公的補助削減の動きで話題というタイミングもあり、客席に熱気がある。パルコ劇場の後ろの方、左寄りで7800円。パンフレットはB5判くらいで、床本と2冊セットの凝ったもの。約2時間。

結論から言うと非常に面白かった。ステージ後方高いところに大夫(呂勢大夫、千歳大夫ら)、三味線(清志郎、清介ら)が陣どり、左右スライドで交代したり、ずらり並んだり。マイク使用だし、浄瑠璃には最近の流行語や「ネイル」といったカタカナが頻出するし、当初は上滑りしないかと、ちょっと不安だった。しかし物語が進むうちに、老若男女を一人で語る大夫の技術、三味線のリズム感といった文楽の魅力がきちんと伝わってきて、納得。作曲は清介さん。

主役は天神の森のはずれに店を構える饅頭屋夫婦だ。「曾根崎心中」のヒットで真似する男女が相次いだ、という史実を踏まえ、夫婦が森を訪れる心中志願者の身の上相談に応じて、ちゃっかり儲けるものの、やがて「心中天網島」の舞台のほうに人気を奪われて大弱り…というコメディに仕立てた。三谷さんらしく、たくましく生きる庶民への温かい視線があり、落語の人情もののようで爽やか。要所に名場面を取り入れ、劇作家として巨人・近松に対するオマージュを織り込んだところも巧い。

人形(幸助、一輔、玉佳、紋臣ら)は黒衣スタイルで、通常の舞台に比べ足のほうまで見せており、独特の動きがわかりやすい。ダイビングシーンのどたばたぶりも、人形ならではの工夫で効果的。カーテンコールで人形さんたちが初めて顔を出し、少し照れたように拍手を浴びる姿が微笑ましかった。

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