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薮原検校

井上ひさし生誕77フェスティバル2012第四弾 こまつ座&世田谷パブリックシアター公演「薮原検校」  2012年6月

井上ひさしの1973年初演の戯曲を、栗山民也が演出。世田谷パブリックシアター、2階左のバルコニー風の席で、8500円。客席の年齢層は高めだ。休憩を挟んで約3時間。

時は江戸期。物語は東北の片田舎に生まれた盲目の少年、杉の市(野村萬斎)が、残忍な殺人を重ねて底辺からはい上がっていく一代記だ。盲人ながら「群書類従」を編纂した実在の大学者・塙保己市(小日向文世)との対比で、この対照的な2人が実は同じ差別が生んだ異形の表裏であると示す、知的な戯曲。往年のギャグなどが紛れ込んでいるものの、誰の胸にもある罪の深さを見せつけて古さを感じさせない。

暗めのステージに、人間の業、暗い生命力を象徴するような赤い綱を巡らし、床を前後左右に動かすだけのシンプルな構成。舞台の右前方に語り手が鎮座し、笑いを交えながら当時の盲人の自治組織・当道座の仕組みなどを丁寧に解説する。浅野和之が途中で握り飯をほおばり始めたりして飄々と達者だ。
井上戯曲らしく音楽劇の要素もたっぷり。語り手の隣にギターの千葉伸彦が控え、全編を生演奏で支える。俳優たちは歌のところだけマイクを使い、時に浄瑠璃、時にミュージカルのように歌い踊る。お楽しみ、洒落を駆使した言い立ても。音楽は作家の兄・井上滋。
歌だけでなく、音の演出が見事だ。杉の市がお江戸日本橋に出てきたときの都会の喧噪や、ついに悪事が露見して大衆に追いつめられるシーンの杖、足踏みの重なりが、座頭たちの研ぎ澄まされた聴覚を印象づける。

萬斎が声の響き、多彩さ、身体能力の高さでさすがの存在感を示す。特に五場で奥浄瑠璃のパロディ、早物語を披露するシーンは圧巻だ。謡からラップまで、ムーンウォークや演歌の物真似さえまじえたひとり舞台。もっとも、色気では小日向文世が一枚上手か。杉の市の健気な母に熊谷真実、つきまとう運命の女・お市に秋山菜津子、ほかに山内圭哉、たかお鷹、大鷹明良ら。深くて面白い井上ワールドを堪能した。

20120630e

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