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百年の秘密

ナイロン100℃ 38th SESSION 「百年の秘密」 2012年4月

作・演出ケラリーノ・サンドロヴィッチ。本多劇場の中央前寄りのいい席で6900円。30前後の女性が目立つものの客層は幅広く、笑いに抑制が効いていて、大人の雰囲気だ。

作品も大人っぽく、翻訳ものの大河小説のように洒落た仕上がりでした。楡の巨木が茂る、裕福な邸宅のワンセット。2人の女性の友情を軸に、時代を前後しながら、親子5代にわたる愛憎劇を綴る。
胸にしまった愚かな罪、その秘密が次第に明かされていくストーリー運びが巧く、15分の休憩を挟んで3時間半を飽きさせない。登場人物誰もが、世間的には決して円満な人生を送ったとはいえないのだけれど、幸不幸はあざなえる縄というか、簡単には結論できないもの。ラストのコインの顛末と、すべてを知っているのは楡の木だけ、というほろ苦い余韻が胸に残る。完成度が高いなあ。

映像の使い方が程よくスタイリッシュ。オープニングクレジットは俳優が板を持って舞台前方に並び、その板にリズミカルに映していた。邸宅内部の部屋と屋外の庭を同じ空間に重ね合わせちゃう手法も決して無理がない。単なる2場面の同時進行というだけでなく、人間心理の表と裏を印象づける。

主軸となる2人の女性、お嬢さまティルダの犬山イヌコと、気が強い親友コナの峯村リエが期待通りの高水準。カツラを着け、幼い娘になったり老女になったり大忙しだ。コナの夫カレルの萩原聖人は控えめさがいいバランス。ティルダの身勝手な夫ブラックウッドの山西惇は、屈折ぶりがさすがの安定感だ。兄エースの大倉孝二は、もう登場するだけで客席の視線をもっていっちゃうし、同級生チャドのみのすけも弾けていた。息子フリッツの近藤フク、コナの娘ポニーの田島ゆみかは爽やか。

河原雅彦さん、水野美紀さん、池田成志さんらが来てました。帰りに階段でケラさんとも遭遇。

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絢香 LIVE TOUR2012

絢香 LIVE TOUR 2012 ”The beginning” ~はじまりのとき~  2012年4月

2年間の病気休業をへた絢香の、4年ぶり全国コンサート初日。武道館の2Fスタンド最前列で5800円。あいにくの雨だが、もちろんファンにはなんでもない。やっぱり20代の女性グループやペアが目立つ。
アリーナに1F席くらいまで届く段差のあるステージを配置し、通常より狭いアリーナと1F、2F席でほぼ360度取り囲む。席はステージの右後方だったけど、絢香がかなり近くまできてくれた。イニシャルのAをイメージさせる骨組みの発光と照明の演出が、シンプルだけど美しい。バンド構成はギター、ベース、ドラム、キーボード、パーカッション、ヴァイオリンとコーラス。

初っぱなから絢香本人も聴衆も涙涙で、感動的でした。新作のアルバム曲を中心にアデルのカバーを含め、2度の衣装替えを挟んで2時間半。歌、特にバラードは相変わらず伸び伸びして抜群に上手いし、雰囲気もチャーミング。ただMCでコンサートグッズを熱心に紹介する姿などはかなり幼い。リズムや起伏で聴衆をぐっと惹きつけるようになるのは、これからかな。

以下セットリストです。

1.The Beginning
2.笑顔のキャンバス
3.Magic Mind
4.アカイソラ
5.そこまで歩いていくよ
6.夢を味方に
7.繋がる心
8.HIKARI
9.空よお願い
10.ツヨク想う
11.THIS IS THE TIME
12.Rolling in the Deep (Adele)
13.手をつなごう
14.おかえり
15.HELLO
16.優しい蒼
17.はじまりのとき
~encore
18.みんな空の下
19.キミへ

ドン・ジョバンニ

ドン・ジョバンニ  2012年4月

お待ちかね、タイトロールでMETに出演したばかりのマリウシュ・クヴィエチェンが登場。新国立劇場オペラハウスの2階最前列で、2万790円(会員先行)。指揮のエンリケ・マッツォーラは愛嬌たっぷりで赤シャツ、赤ぶち眼鏡で登場した。25分の休憩を挟んで3時間15分。

歌手陣の水準が高く、大満足でした。何といってもクヴィさまが、さすがのスター・バリトンぶりを発揮し、頭ひとつ抜き出た存在感、2幕の甘~い「さあ、窓辺においで(ドン・ジョバンニのセレナード)」が出色だ。ライブビューイングで観たMETより躍動していたかも。やっぱりライブはいいなあ。ドンナ・アンナのアガ・ミコライ(ソプラノ)に気品と迫力があり、日本人キャストもなかなかで、特にフォルクス・オーパー専属という平野和(バス)のレポレッロは応援したくなった。
ほかにドンナ・エルヴィーラはニコル・キャンベル(ソプラノ)、ツェルリーナは九嶋香奈枝(ソプラノ)、騎士長のお馴染み妻屋秀和(バス)は石像姿がちょっとハナ肇風。ドン・オッターヴィオのダニール・シュトーダ(テノール)は美声だけど、今回のメンバーのなかでは調子が今ひとつだったか。東フィルも有名な序曲から、ぐんぐん劇的ムードを盛り上げた。

放蕩者ジョバンニが地獄に落ちたあと、残った人々がコミカルに歌う幕切れまでたっぷりと。グリシャ・アサガロフの演出は、舞台をカサノヴァの故郷ヴェニスに設定。18世紀末の衣装やゴンドラという伝統に、巨大なチェスの駒や美女の人形などの象徴的でコミカルな装置を取り混ぜていて、スタイリッシュだった。ジョバンニの衣装や、晩餐シーンの紫の色遣いが効いていた。

春陽掃雲会「浅妻船」

春陽掃雲会 2012年4月

玉川上水沿いに花が散り残る武蔵野。武蔵境から徒歩15分の食事処「武蔵」で、神田春陽さんの講談を聴く。30人弱の親密な会で、食事代込み4000円。

最近引っ越したという春陽さん、若い頃は不動産屋で家賃2万円の部屋を探していて、駐車場と間違われた、「八丈島物語」を教わろうとして「6畳間住まいでは2丈足りない」と言われた、といったマクラから、同じ島でも三宅島が登場する「浅妻船」。
元禄期の絵師・英一蝶(はなぶさ・いっちょう)が、絵で将軍綱吉と柳沢吉保を風刺したため三宅島へ流されたが、俳諧師・宝井其角(たからい・きかく)が老母の面倒を見てくれる。其角は一蝶からの無事のサインを求めて、印の付いた島の干物を探しまくる、という友情物語だ。
流罪の契機になったとされる「朝妻船図」は、実際に板橋美術館にあるようです。また導入部分では、文人墨客が吉原で遊んで戯れに屏風を描いたりして、知的な遊びの感覚が面白い。

終わってから噺にちなんだ江戸料理。初鰹を和芥子で食べるのが珍しかった。ご馳走さま!

シンベリン

彩の国シェイクスピア・シリーズ第25弾「シンベリン」  2012年4月

蜷川幸雄演出で、豪華キャスト勢揃いの1作。彩の国さいたま芸術劇場大ホールで、観客は年配の人が目立つものの、冷たい雨にかかわらず老若男女幅広い。1F後ろ寄り右側で9500円。

のっけから舞台上に鏡の並ぶ楽屋がしつらえられ、浴衣などを羽織った俳優たちが三々五々登場。全員が横に並んでぱっと服をとると、古代ブリテンの衣装が現れて一気に物語に引き込まれる。まさにニナガワワールドで、そのままテンポ良く、休憩を挟んで約3時間半。猥雑さは封印し、水墨画や巨大な月を使った知的な美しさ、つけ打ちに代表される疾走感が心地いい。

お話はブリテン王シンベリン(吉田鋼太郎)の美しく貞淑な王女イノジェン(大竹しのぶ)と、勇者ポステュマス(阿部寛)の純愛が主軸だ。もともと身分違いのうえ、王の後妻(鳳蘭)と連れ子クロートン(勝村政信)の差し金もあって、仲を裂かれたポステュマスは、ローマ人ヤーキモー(窪塚洋介)の奸計に引っかかり、王女が自分を裏切ったと思いこんでしまう。会いたい一心で、召使ピザーニオ(大石継太)の手引きでひとりウェールズに赴いたイノジェンは、追放貴族(瑳川哲朗)、幼い時に連れ去られた2人の兄(浦井健治、川口覚)と運命的に巡りあう。ついにシンベリンとローマ軍将軍(丸山智己)が戦闘に突入、ポステュマスや王子らの活躍でブリテンが勝利を掴むと、めでたくすべての誤解が解かれる。

前半は思いこみと嫉妬の心理劇。窪塚洋介の色気が出色だ。バックに巨大な屏風絵をたてて、「雨夜の品定め」と重ねた論争シーンや、王女の寝室の紗幕に映る影が、絶妙の怪しさ。相変わらず可愛らしい大竹しのぶが、少年に姿をかえて舞台の奥へと、決然と歩み去るシーンが格好良い。道化役の勝村政信ははじけっぷりがさすが。ジュピター降臨はちょっと唐突だったけどね。阿部寛は上背が映えるものの、苦悩ぶりはやや単調か。
後半はクロートンと王妃が死んでしまい、あれよあれよのハッピーエンドになだれ込む。都合良すぎる荒唐無稽な展開が笑いを誘うけど、スローモーションの戦闘の後、象徴的な1本松が登場、夫婦や親子、主従が再会を果たして、ローマ軍とも和平を結ぶ幕切れは、和解と寛容の爽やかさが胸に残る。愚かだけど愛すべき人間たち。5月にはロンドン公演も控えているそうだ。さいたまネクスト・シアターの川口覚に注目。

オテロ

オテロ  2012年4月

ヴェルディ円熟期の悲劇を新国立劇場で。ジャン・レイサム=ケーニック指揮。ほぼ中央のいい席で2万3625円。20分の休憩を挟んで約3時間。物語はおなじみシェイクスピアの心理劇で、登場人物それぞれの思惑が交錯する構成が現代的だ。

序曲はなく、いきなり激しい嵐の合唱で幕が上がる。トルコ戦の英雄オテロ(ヴァルテル・フラッカーロ、テノール)が凱旋するが、騎手イアーゴ(ミカエル・ババジャニアン、バリトン)は逆恨みから悪巧みをめぐらす。美男の副官カッシオをはめる「乾杯の歌」の、不吉に下降する半音階が面白い。オテロと清純な妻デズデーモナ(マリア・ルイジア・ボルシ、ソプラノ)の「すでに夜は更けた」には、伏線になる接吻の動機も。
2幕は悪役イアーゴの「クレード(悪の信条告白)」が聴かせる。泥をすくって壁にたたきつける演出が印象的。「嫉妬は蛇」との囁きで、疑念を植え付けられたオテロとの「復讐の二重唱」が怖い。恐ろしい嫉妬の伝播だ。
休憩後の3幕で、オテロはデズデーモナに贈ったハンカチの行方をめぐり疑心暗鬼にとらわれ、「神よ!あなたは私に」と苦渋を吐露。コンチェルタートに突入すると、完全に自制を失ってしまう。
4幕に入り、デスデーモナがクラリネットの先導でどこかオリエンタルな「柳の歌」、そして「アヴェ・マリア」を聴かせる。オテロはついに妻を手にかけてしまうが、侍女のエミーリアが夫イアーゴの策謀を暴露。「オテロの死」で後悔して自害という、いつもながらびっくりの幕切れ。虚しく響く接吻の動機が哀しい。

マリオ・マルトーネの演出が洒落ている。物語の舞台はキプロス島だが、ヴェネツィアを思わせる水路と橋を巡らして、転換は中央の石造りの塔を回すだけ。衣装も黒、白、青など、古風だがシンプルで、水面のさざ波の反射や夕闇など、照明の豊かな変化が映える。
歌手陣では、屈折した人物を描いたババジャニアンに拍手が多かったかな。長身のフラッカーロは十分ドラマティック。ポプラフスカヤの代役、ボルシも可愛いかった。ほかにカッシオが小原啓楼、エミーリアが清水華澄。

幻蝶

幻蝶  2012年4月

映画「ALWAYS 3丁目の夕日」やドラマ「相棒」「ゴンゾウ」「鈴木先生」の古沢良太脚本を、白井晃が演出。若い女性が多い。シアタークリエのやや後ろ寄りで8800円。休憩を挟んで約2時間半。

幻の「シロギフ」に魅せられた蝶マニアが、とある山中でその姿を追っている。口八丁手八丁の無頼派で、捕獲名人の戸塚(内野聖陽)と、本当は飼育が専門の引きこもり青年・内海(田中圭)。共通の目的のため一緒に廃屋に住みついたものの、年齢も志向も違っていて噛み合わなさが笑わせる。冒頭からお尻を見せたりして大暴れだ。
やがてお堅い山の管理人(七瀬なつみ)、取り立て屋(細見大輔)とのトラブルや、怪しい虫ブローカー(大谷亮介)、逃げ出したストリッパー・ユカ(中別府葵)とのやりとりを通じて、2人の抱える事情が明らかになっていく。

さすがに巧いなあと思わせる、そつのない展開だ。本当はシロギフなんて実在しないんだ、という常識を百も承知で、あえて幻を求める男2人。後半でカネや病魔にじわじわ追い詰められていくさまが、なんとも切ない。苦い幕切れは、まるで「真夜中のカーボーイ」のよう。2人を結びつけるのは、ゲイっぽい友情ではなくて、擬似的な父子の絆だけど。「皆が現実だと思っていることも、ひょっとしたら幻かもしれない」というユカの無垢な台詞が印象的だ。

廃屋を軸に山中、病室のセットを左右に出し入れするだけの、比較的シンプルな構造。演出も手堅い。豪雨や炎、宙を舞う札束や蝶のシーンには、もう少しカタルシスがあってもよかったかな。
俳優陣がみな達者で、リズムや陰影も十分で危なげない。攻めの内野、受けの田中がさすがの存在感。「パーマ屋スミレ」に続いて、上手な舞台でしたね。

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