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一谷嫩軍記

三月歌舞伎公演・一谷嫩軍記 2012年3月

国立劇場開場四十五周年記念の一環、「歌舞伎を彩る作者たち」シリーズ第五弾は、三大名作の並木宗輔による絶筆・
義太夫狂言「一谷嫩軍記」。源平ものですね。団十郎、三津五郎が2役ずつの活躍。1階前の方の舞台に向かって右寄りでA席9200円。中村座に比べると広いなあ。

今回は珍しい3幕構成で、物語の発端、義経が独自の命令をくだす大序「堀川御所の場」30分から。なんと98年ぶりの復活だそうです。
義経(三津五郎)はまず歌人俊成の使者・菊の前(門之助)に対し、敵にもかかわらず平忠度の歌「さざ波や滋賀の都は荒れにしを昔ながらの山桜かな」を勅撰千載和歌集に入れるよう応援する。これ、実際に詠み人知らずとして収録されているんですね。一方、平敦盛討伐に向かう熊谷(団十郎)には、弁慶が書いた謎の制札「一枝を伐らば一指を剪るべし」を託す。絶頂期の深謀のリーダー・義経が平家の都落ちに際し、頼朝の意向に逆らっちゃうことが振り出しだったと納得~ 三津五郎さん、5等身ぐらいだけど気品があり、団十郎さんは腹芸を発揮。地味だけど緊迫してます。

30分の休憩中、食堂でお弁当を食べてから二段目「兎原里林住家の場」、通称「流しの枝」を1時間。こちらは37年ぶりの上演だとか。菊の前の乳母・林(秀調)のもとに、ならず者の倅・太五平(弥十郎)が刀を盗みに入るチャリ場が楽しい。前半は滅びを覚悟した忠度(団十郎)が菊の前に別れを告げる愁嘆場。追っ手との立ち回りでは刀を天井に差し、素手で戦う。ゆったりと勇壮です。
後半は
忠度を討つことになる六弥太三津五郎が爽やかにとの因縁話。六弥太に短冊を結んだ山桜の流し枝を見せられ、千載和歌集採用と知って感謝する。 さらに戦場で会おうと馬を用意されて、悠然と出立。詩情を解する武将です。六弥太は忠度の片袖を菊の前に渡す心配りも。風雅を解する武将同士の心の交流ですね。

20分の休憩を挟んでいよいよ三段目。人気の「熊谷陣屋」だが、近年はカットされる冒頭部分、
熊谷の妻・相模(魁春がタフに)と敦盛の母・藤の方(東蔵)の遭遇からたっぷりと110分。熊谷(団十郎)が帰還して制札を眺めるところが意味深です。まず女2人に敦盛討伐の模様を聞かせる義太夫らしい「物語」。藤の方が悲しく青葉の笛を吹くと、障子に敦盛の影が映り、緋の鎧がある、というちょっとホラーぽい展開が興味深い。
義経(三津五郎)が登場していよいよ首実検。悲嘆を押し隠した制札の見得などが、哀しくも迫力。首を抱えちゃった相模のクドキ、義経と石屋・弥陀六・実は弥平兵衛(弥十郎がくせ者らしい)の再会から、鎧櫃を渡す展開、と見どころ満載です。
しかし何と言っても、ラスト幕外での花道が圧巻でしょう。幕が引かれた途端、これまでのすべてが幻に転じ、熊谷の胸中に焦点が絞られ、僧形の熊谷の「十六年は一昔、夢だ夢だ…」という名ゼリフ。団十郎型と呼ばれるそうです。
身代わり狂言といえば「義経千本桜」の「すし屋」や「菅原伝授」の「寺子屋」も有名だけど、忠義の犠牲になる親子がなんとも理不尽でやりきれない。しかし今回はそういう悲嘆よりも、権力の変転と立場に翻弄されるちっぽけな個人の切なさが前面に出ていた感じで、ひときわ胸に迫った。どんな災厄にあっても桜は咲く、という無常感。名作だなあ。

終わってから、江戸検定合格者のグループと一緒に、舞台見学会に参加する機会に恵まれました。意外に奥行きが浅いセット、奈落の張り紙、鳥屋(とや)の鏡や台本など、興味津々でした~
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