志の輔らくご in PARCO 2012 2012年1月
恒例お正月のパルコ劇場1カ月公演。足を運ぶのはこれで3回目だ。相変わらず幅広いお客さんがぎっしりです。ロビーで丼とタオルを買い、福引きの参加賞でクリアファイルを貰う。少し右寄りの中央通路に面したいい席で6000円。たっぷり2時間45分ぐらい。
ステージは常式幕みたいに、パステル調の縦縞で華やかだ。その中央、木目調の高座に見台を置いて、志の輔さんが登場。昨年は辛い年だったけど年始の駅伝を観ると元気が出る、超光速粒子発見のニュースも夢があった、リニアモーターカーが走る原理、タイムマシンだっていつか実現するかもしれないですよ、というマクラから新作「タイムトラブル」。授業に遅刻した教師がその理由として、なんと今朝自宅に宮本武蔵が現れたんだ、と話す。ずっと教師のひとり語りなんだけど、その荒唐無稽ぶりに当惑したりあきれたりする生徒の顔が目に浮かんで面白い。ちなみに巌流島400年だそうです。
サディスティック・ミカ・バンド「タイムマシンにお願い」にのせ、洒落た影絵の映像を挟んで、休憩なく2席目。
昨年シンガポールの落語会に行ったらマーライオンが移転していてびっくり、海外に行くと無愛想な出入国審査が不愉快だけど、このときは帰りに「気をつけて」と言われ、震災後の日本への温かい視線を感じた、というマクラから「メルシー雛祭り」。「歓喜の歌」と似た小役人もの、といってもこちらは立派な外務省官僚が登場する。フランスからきた特使夫人と小さい娘が帰国前に雛人形職人の仕事場を見たい、というのでさえない町に案内する。町内会長以下、張り切って総出で迎えるものの肝心の人形を見せられず、さあ困った…。この追いつめられパターンが定番ながらおかしい。安心して笑って、町内会の面々の精一杯の誠意が通じるラストにジンとなった。
落ちがついてから後方の衝立が開き、雛人形の扮装をした劇団の面々が現れてびっくり。前半で、もう大満足なくらいです。
15分の仲入りを挟み、黒紋付きで出てきたらマクラなしでいきなり「紺屋高尾」。昨年、談春さんで聴いた演目です。あちらは久蔵の告白シーンが圧巻で、高尾大夫が何故あり得ない決断をするのか、その情けの部分に焦点があたっていた感じ。これに対して志の輔さんのほうは、一晩で15両使う、という久蔵の無茶な決意をドーンと後押しする親方のほうの迷いのなさ、江戸っ子らしい粋な感じが印象的。15両貯めようとする前に「それは無理、と言ったら噺は終わっちゃう」というくすぐりがあって、うまいフリになっている。
無理を承知で男一世一代の夢を見守る側の、なんともいえない温かさ。周囲にこういう人がいるから前に進める。今回の演目のテーマは、夢とか希望なのかなあ。途中、吉原や花魁の説明を挟むのだけれど、違和感がないのがさすが。
いったん降りた幕をあげて、最後に談志さんの思い出を話してくれました。「紺屋高尾」を舞台袖で何度も聴いたこと、パルコ公演に一度だけ来て誉めてくれたこと。そして長唄のかたがたのリードで3本〆。あ~、楽しかった。客席には野際陽子さん、高田文夫さんらしき人の姿がありました。