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文楽「奥州安達原」

第一一七回文楽公演 2011年12月

国立劇場の12月は恒例・中堅中心の1部制で、演目は東北史がモチーフの「奥州安達原(おうしゅうあだちがはら)」。前九年の役で源八幡太郎義家に敗れた安倍一族の残党が、再興と復讐に燃えて周囲を悲劇に巻き込んでいく。お馴染みの構図だけど、変化に富んだ展開で予想以上に面白かった。25分の休憩を挟んでたっぷり4時間。1階やや後ろ左寄りで5700円。

まず「外が浜の段」。全5段の2段目で、上演は21年ぶりとか。海辺で働く男女の、下世話でおおらかなチャリ場だ。猟師の善知鳥(うとう)文治(和生さん)が、金の札を付けたご禁制の鶴を殺しちゃう導入部で、能「善知鳥」の題材でもあるそうです。奥の咲甫大夫さんが音楽的。

続いて「善知鳥文治住家の段」。文治があえて鶴殺しを自首して報奨金を得ようとし、女房お谷(簑二郎)は読み書きができないせいで心ならずも夫を差し出すかたちになってしまう。世話物の味わいですねえ。
金貸しの南兵衛(玉也さん)が何故か真犯人だと名乗り出るけれど、これは都へ上る策略。ならず者に見えた彼、実は安倍宗任だったのです! なんと文治も安倍一族の家臣だったという、2重のどんでん返し。貧乏ゆえに、預かった安倍貞任の子を死なせてしまう悲しみの中で幕。捕手頭で吉田玉勢さん。奥の文字久大夫さんが、ちょっと怖い錦糸さんとのコンビでなかなか聴かせました。

休憩後に3段目「環の宮明御殿の段」で、まず中の「敷妙上使」。皇弟が失踪、老いた守り役の平傔仗(たいらのけんじょう、玉輝)と浜夕(勘弥)の夫婦は窮地に立っており、次女の敷妙御前(文昇)が夫・義家の名代で責任を追及しに来ます。一見酷なようだけど義家の配慮がにじむ複雑さ。三味線は寛太郎くん。
次の「矢の根」ではいよいよ義家の幸助さん、そして桂中納言則氏の玉女さんが到着。宗任を詮議する丁々発止の場面です。舞台中央に白旗を下げて、宗任が血染めの和歌を書いたり、矢尻を投げ合ったり。白旗の細工がうまくいかないハプニングはあったけど、動きがあって面白い。髪がすっかり白くなった玉女さん、しずしずと登場して教養もあって、いかにも貴族っぽいけれど、これが演出なんですねえ。

お待ちかね切場で、前が眼目の「袖萩祭文」。駆け落ちした傔仗の長女・袖萩が訪れ、父を案じて門口で祭文を語る。袖萩の勘十郎さんが圧巻です! 盲目で貧しくて、おまけに雪も降ってきて寒く、親が恋しいけれど勘当の身。指先の震えから、哀れさがひしひしと伝わってくる。巧いなあ~。三味線をひく左も曲とぴったり。歌舞伎では舞台上での演奏が見せ場だそうです。けなげな娘のお君は玉誉さん。千歳大夫さんが迫力のうちにも切々と実力を発揮。 

大詰め後の「貞任物語」では雰囲気ががらり、堂々たる時代物に転じます。袖萩が実は貞任の妻で、父との板挟みとなり自害、さらには傔仗が切腹しちゃう、あれよあれよの展開だ。
怪力の宗任が正体を現したかと思ったら、詮議する側の則氏がなんと貞任だったと暴かれ、外見も豪壮な武将に一変! 激しく左右に移動しながら見得を切る玉女さん、スケールがでかくて、前半からの変貌ぶりが鮮やかです。対する義家、ここは袖萩の死に免じて後日戦場での対決を期す。定番のエンディングだけど、相変わらず意味不明だなあ、文楽って…。中央にどっしり構える幸助さんは格好良くて得な役でしたね。貫録の燕三さんと組んだ呂勢大夫さん、ちょっと頑張り過ぎだったかな。いやあ、面白かったです。

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